第七話 終わりと始まり
バトルofスクールの島で起きた事件では多くの人が亡くなった。イレギュラーの暴走に巻き込まれたもの、亡くなった人が忘れられず船から飛び降りて自殺したもの。理由はいろいろだ。コロシアムはバラバラに破壊され、瓦礫の山になった。島はかろうじて残ってはいるが、その半分は海に沈み、もともと小さかった島はより小さくなり、人は誰も住まなくなった。しかし、そんな大事件にもかかわらず、詳細は明らかになっていないらしい。
が、噂は尽きない。異国が仕掛けてきただとか、孫国が和州をより統治しやすくするために攻撃したきただとか、和州の裏切り者が起こしたものだとか。しかし、多くの人が口を揃えて噂していることが一つある。イレギュラーの暴走で島ひとつ無くなったと。異国のせいか、孫国のせいか、裏切り者のせいかは分からないが、イレギュラーの暴走があったことは間違いないらしい。
イレギュラーの暴走の後、真斗と聖夜は美香の助けをかりて、軍の船に忍び込ませてもらい、和州へと帰った。家に帰ると、直斗と父さんがいない。急に家は寂しくなった。
「もう、ナオトも父さんも帰ってこないんだよね」
「そう。これからは二人で頑張りましょう。ね?」
「うん」
母さんは真斗を抱きしめた。
翌日、バトルofスクールで起きた事件に巻き込まれて亡くなった人、テクニカルofスクールに向っていた船でなくなった人を弔う葬式が港で行われた。多くの遺族が海に花を投げ入れる。
「ナオト、みてて。僕、いや、僕じゃ子供っぽいな。俺、強くなる。絶対強くなって、それで、もっと強くなる。じゃあ、またね」
真斗は一輪の花に語りかけ、海に向ってそっと投げた。
それから二人は、母さんの実家で暮らすことになった。役人から身を隠すため、美香が提案してくれたのだ。
「聖夜の実家って、すっごい田舎にあるでしょー?あの島のことがあって、また一段と監視が厳しくなったからさ。あそこなら心配ないと思う。また、何かあったら連絡しなさいよ。一人で抱え込んじゃだめだからね」
聖夜の父親と母親はすでに他界していたが、幸運なことに家はまだ残っていた。周りを見渡す限り山、山、山。田んぼや畑がこの場所をより田舎であることを強調させる。近くに住んでいるのは、じいさんばあさんばかりで、とても穏やかなところである。聖夜はそこで、むかし父親と母親が耕していた田んぼを復活させ、生活していくことにした。
「母さん。ここすごいね。何もない」
「そうなの。ここが嫌だったから、軍に入ってやっていこうって決めてたのに。またこうして戻ってくることになるとはね。とほほ」
母さんは頭を落とし、口をへの字の形にして言った。
「ここ、いい!なんか自由で気持ちい!ここなら、めいいっぱい修行できるな」
「え?ほんと?あんたは修行のことしか考えてないのね。でもここ、いろいろ不便よ。そういや、ここから近くのスクールまですごく遠いの。街のほうまで行かないといけないのよ。方向音痴の真斗一人じゃ、たぶん一生かかってもたどり着けないと思うわ」
「そこまで方向音痴じゃないって。母さん冗談きついすぎ」
「じゃあ、一回行ってみよっか。半年もしたら、もう入学するものね。ついでに申し込みもしたいし」
こうして、二人はここから一番近い街にあるスクールに走って行くことになった。
「いーい?まず、あそこの山のてっぺんに高い木があるでしょ?あの木を目指す」
「はい!」
二人は山の頂上に着き、その高い木に登った。
「母さん。ここまで遠いとは思わなかったよ。あとちょっと?」
母さんはニコッと笑って、膝に手をついて休んでる真斗に言った。
「まだ半分よ」
「えーーー!もう、学校やーめ」
「ほら、行くわよ」
母さんは真斗の服を引っ張った。
「もう、あとは簡単。山を下りて、街からあそこの時計台を目指すだけ。あの時計台があるところがスクールなの」
「あそこか!よし、母さん競争だ!」
「待ちなさい。真斗は街の中が一番迷子になりやすいんだから。一緒に行くわよ」
「はい」
「迷子になったと思ったら、建物の上に登って時計台を目指すこと」
「はい」
真斗と母さんはスクールに着き、母さんが職員室に申し込みに行っている間、真斗はグラウンドにいた。グラウンドではスクールの最上級生である三年生が遊んでいた。
「しゃー!こいや!」
「火炎」
一人の少年が手から火を放射した。
「おーーー!すげえ!俺の目の前で」
真斗は興奮して、声を出した。すると、スクール生の女の子が近づいてきて声をかけてきた。
「あなた、スクール生?」
「違うよ。来年はここにいると思うけど」
「来年、入学するのね。あの火属の人と勝負してみる?」
「いいの!?」
「やるか?」
火属の少年がたずねてきた。
「お前、何属なんだ?」
「まだ、無属だ」
「まじかよ。俺とやって大丈夫かよ。まあ、これから属を手に入れるんだろうけど」
「あんたも属使わないで戦えばいいじゃない」
女の子が言った。
「そうだな。武器なんか使えるか?」
「剣は使えるよ」
「そうか、じゃあこれ使え」
火属の少年が竹刀を渡してきた。
「おー、なんか木の剣よりしっくりくるな」
真斗は竹刀を振って確かめた。
「属はなし、武器ありの一対一な。俺も竹刀使うから」
「わかった」
真斗はよく直斗と遊んでいて時のことを思い出して、あんな感じでやればいいんだと理解した。
「じゃあ、始めるか」
「ちょっと待って」
真斗は目を閉じて、深呼吸をした。そして、集中力を高める。
「-----」
「お願いします」
真斗が目を開けると、急に周りの空気が変わった。さっきまで騒がしかったグランドはいつの間にか静かになり、空気が張りつめる。
「はじめ!」
女の子の合図によって試合は始まった。竹刀と竹刀がぶつかる。真斗は横に前後に動き回りあらゆる方向から攻撃を仕掛けていく。少年は様子を窺うように真斗の竹刀を受け止める。
「ほー、なかなかやるな。だが、甘いな」
少年は真斗に向って、竹刀を縦に振った。真斗は素早い動いでこれを横にかわす。しかし、少年は竹刀を最後まで振りきらず、竹刀の腹で真斗の顔を殴った。真斗の体は宙を浮き、飛ばされた。
「いてぇ」
真斗は頬に手を当て、少年に突っ込んでいく。真斗は姿勢を低くして、下から相手の手を竹刀ではたこうとする。少年は飛び上がり、真斗の頭上を越え、後ろに回った。そして、真斗の背中に竹刀が突かれる。真斗はまたまた飛ばされ、地面に転がる。
「次の動きが手に取るようにわかるな。まだまだだな。スクールに入って鍛えなお…」
真斗は両手で竹刀を持ち直し、少年の右わき腹に向って、横に竹刀を振った。
「おいおい、人の話は最後まで、だろ」
少年は真斗の竹刀を竹刀で防ぐ。その時、真斗の左手は竹刀から放され、少年の腹を殴った。しかし、思いっきり殴ったのに、殴った感じがしない。
「あっぶね。これが防御だ」
少年は腹に防御を集中させて、真斗の攻撃を防いだのだ。そして、少年は真斗の腹を足で蹴った。真斗は腹を抱えて倒れ込んだ。
「ちょっとあんたやりすぎじゃない!」
外から女の子が怒鳴った。
「いや、ちょっと手加減できなかった。おい、大丈夫か?」
真斗は急に笑い出した。
「ハハハハ。ありがとう兄ちゃん!楽しかった!」
「お、おう。お前も最後のはよかったぞ」
二人は握手して、試合は終了した。
「マサトー。帰るわよー」
母さんが職員室から出てきた。
「じゃあ、今度会ったときは兄ちゃんより強くなってるから」
「あー。またな」
真斗は母さんのもとへ走っていった。
「どうだった?楽しかった?」
「母さん見てたの?」
「真斗がぼろぼろにやられてるのをね」
「なんか、山賊とやった時より力入んなかった」
真斗は自分の拳を見つめて言った。
「まだ、暴走の疲労がとれてないのかもね」
母さんは口に手を当て考え込むように言った。
「え?なんて?」
「いや、これから頑張ればいいでしょって言ったの。よし!帰りも走るわよ!」
「よっしゃ!競争だ!」
「一緒に帰るの」
「はい」
こうして、真斗は走って片道2時間の距離にある街のスクールに通うことになった。