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第一話 属とイレギュラー

「マサト!逃げろ!」


 直斗が真斗に叫んだ。



 伊吹一家が山の中の別荘に来る前日。父さんが長期休暇をもらい、四人で家族旅行をしようということになったのだが…。


「え!?父さん、しばらくお仕事休めるの?」


 直斗が嬉しそうに言った。


「あー。こんな機会めったにないし、どっか旅行でも行くか?」

「あ、私、おいしいもの食べに行きたーい」


 母さんがここぞというタイミングで言ってきた。普段はいつも自分で作っているので、少しは楽をしたかったのだろう。しかし、そんな母さんの気持ちも知らずに、真斗は口をはさんだ。


「えー!つまんない。山で修行しようよー」

「あ、それいい!ナイスアイデアだよ、マサト!」

「はー、やはりそうきたか」


 母さんは深いため息をついて、肩を落とした。のは、一瞬で、すぐに切り替えて、反論しようと口を開こうとしたとき、


「まあ、そうだよな。最近は忙しくて、相手してやれなかったもんな。母さんはそれでいいか?」


 母さんはさっきよりも大きく、深くため息をついて、目の端に流れでた涙をぬぐった。


「それもそうだけど…。まあ、仕方ないわね。山で取れる食べ物はおいしいし、みんなで料理作るの手伝ってくれるなら、行ってもいいわ」

「手伝う、手伝うー」

 

 直斗が元気よく答えた。


「じゃあ、今日は準備して、明日の朝、出発な」

「はーい!」


 こうして、伊吹家一行は山修行をすることになった。


 

 別荘で生活していたある日にこと。

「今日は二人で修行してくれ。父さんはちょっと休憩。母さんとゆっくりお茶でもしとくから」

「お茶じゃなくて、お酒でしょ」


 真斗は、すかさず突っ込んだ。


「ばれてたか」


 父さんは苦笑いしながら言った。


「いこ!マサト」

「うん」


 二人は勢いよく飛び出し、森の中へ駆けていった。


「もう、いっつも父さんは怠けてばっかりだ」


 真斗が不満そうに言った。


「仕方ないよ。最近ずっと付き合ってもらってたんだから」

「それもそうだな。今日は山ん中探検しようぜ」

「いいね!」


 二人は山の奥に入り込んでいった。山の中にはかわいい小動物や、きれいな歌声で歌う鳥がいたりと、にぎやかだった。すると、まだ昼間であるはずなのに、周りは少しずつ暗くなっていき、不気味な動物の鳴き声が聞こえるようになってきた。


「マサトー、もう帰ろう」

「もうちょっとだけ、行ってみよう」

「えー」


 直斗は周りに、野生の動物じゃない何か、恐ろしいものがいるのを感じ、泣きそうになっていた。そして、どんどん、どんどん暗くなっていき、上を見ても空が見えなくなっていたことに気づいた。


「マサト、もう帰れなくなるよ。そろそろ帰ろう」


 直斗は目に涙を浮かべながら言った。


「そうだな。ちょっとやばそうだな」


 真斗も少しはおかしな雰囲気を感じ取ったらしく、二人は帰ることにした。少し先に太陽の光が見えるところがあった。その方向に歩いていき、もう少しで暖かな光を浴びれると思ったその時、


サ、ササッ


 その瞬間、二人は、三人の刀を持った者に囲まれていた。


「え?」


 暗闇であまりものがよく見えなかったが、直斗のほかに、三人の姿を感じた真斗は困惑していた。


「なにが起きている?これも修行のひとつか?それにしては武器がそろいすぎている。どういうことだ?」


 真斗は頭の中で何が起きているのか考えようとしていたが、考えがまとまらなかった。


「山賊か?」


 直斗が目に涙を浮かべながらも、冷静な口調でたずねた。


「やけに冷静だな。そうだ。当たりだ。お前らはこれから人質になるんだよ。おとなしくしていれば危害はくわえね。まあ、血を見ることには変わりねえがな。ヒャッヒャッヒャー」


 山賊の一人が不気味な笑みを浮かべながら答えた。

 真斗はようやく理解した。それから、少し笑みを浮かべた。


「ちょっと早いけど実戦か。やってやる」


 真斗は心の中でそう言って、山賊の一人に攻撃を仕掛けようとした。


「残念」


 真斗の足元が急に揺れて、土が真斗の足に絡みつこうとした。しかし、真斗は素早い動きで上に飛び上がった。そして、木の枝に飛び乗り、すかさず攻撃してきた山賊に飛び蹴りを食らわせた。


「ざまー!さっさと帰りやがれ!」


「くそっ」

「落ち着け。相手は子供だ。しかも、学校にも通っていないはずだ」

「まずは、その調子に乗っているガキだな」


 三人の山賊は二人の周りを囲み、地面に刀を突き刺した。すると、次の瞬間、真斗の周りからとがった土の槍のようなものが出てきて、攻撃してきた。


「やべっ」


 真斗は、迫りくる槍を柔らかな身のこなしで、大体を避けることができたが、そのうち一本が、太ももを貫いた。


「いてっ」

「マサトー!」

「くるな!直斗は逃げろ。僕一人ならなんとかできる」

「できるわけないだろ!ろくに属も使えないのに!」

「じゃあ、どうすんだよ!」


 二人は、迫った危険に冷静さを失い、怒鳴りあった。その時、山賊が二度目の攻撃を仕掛けようとしていた。


「マサト!逃げろ!」


 直斗が叫んだ。


「何言ってんだよ」

「マサトの素早さなら、一人なら逃げ切れる。それで、父さんと母さんを呼んできて」

「一人で相手してたら、死ぬにきまってる。ナオトを置いていけるわけないだろ!二人でやるしかない」

「くっ、わかった」


 二人はとっさに木の剣を構えて、山賊の動きに集中した。

 一人の山賊が刀を地面に刺しながら、直斗に向って、刀を振った。すると、直斗に向って、土の刃が飛んできた。直斗は木の剣でガードしようとするも歯が立たず、吹き飛ばされて木に叩きつけられた。


「ナオトー!」

「楽勝だな」


 山賊は次はお前だという目で真斗を睨む。真斗も、殺すと、言わんばかりに山賊を睨み返した。


 真斗は直斗が飛んで行った方向と逆の方向に走り出した。山賊は後を追いかける。


「どこ行った?」

「逃げたんじゃねえか?」


 真斗を見失った山賊は辺りを警戒して、刀を構えた。


「ハッ!」


 真斗は木の陰から飛び出し、右手に持った木の剣で一人の山賊の剣をはじく。そして、左手の拳で山賊の顔に一撃食らわせた。そして、また、すぐに木の陰に隠れた。


「フン、ナオトより歯ごたえないな」


 真斗は心の中でつぶやいた。


「くっそ。あのガキどこにいるんだよ」

「俺が探す」


 山賊の一人が地面に刀を刺し、刀を耳に当てた。地面から伝わる振動を探知することができるようだ。


「あそこだ!」

「かくれんぼは終わりですよー!」


 山賊は刀で、真斗が隠れていた木をぶった切り、真斗の背中を切った。


「くそっ。もうちょっと深かったら死んでたな」

「そのほうが楽に死ねるというもんなのになー」


 真斗は追い詰められて、座り込んでいた。次に打つ手を考えていたが、頭がボッーっとして、考えられなかった。山賊の刀が真斗の額を軽くなでる。その時、


スー、ズワァーン


 真斗は重くなったまぶたを上げると、山賊が吹っ飛んでいた。


「いったい、何が起こったんだ」


 すぐにまぶたを上げているのがつらくなり、閉じかけようとしたその目には、黒く輝く光をまとう、直斗の姿があった。


「マサトは僕が守る」


 その直斗の言葉を最後に真斗は眠りについた。





 真斗は夢を見た。

 何かが僕に話かけている。


「いい兄弟を持ったな」

「お前も、あいつのことを大切にしなきゃな」

「ま、ここで死んだら、なにもかも終わりだけどな」

「そんなことさせるか」

「そうだな」

「そろそろ、起きる時間だ」



「ハッ」


 真斗は目を覚ました。


「あ!真斗!大丈夫?」

「お前、三日も寝てたんだぞ。もう、戻ってこないかと思ったよ」

「はあー」


 母さんは崩れ落ち、嬉しそうな顔で涙を流していた。


 目が真っ赤になっている母さんと父さんの姿が目に映った。おそらく、涙が枯れるまで、ずっと泣き続けていたのだろう。


「直斗は?」


 真斗は急に思い出したかのように声を上げてたずねた。


「ここだよ」


 直斗は隣のベッドの上で横になっていた。真斗は深く息をついて、安堵した。


「はー。よかったー」

「僕もさっき起きたとこなんだ」

「どうした?」

「ちょっとね」


 そして、あの後何が起きたのかを知らされた。

 

 あの時、直斗は吹き飛ばされて、少しの間気絶していたらしい。そして、真斗が殺されそうになっているのを見たそうだ。すると、力がみなぎってきて、風を操り、山賊を吹き飛ばすことができたそうだ。そして、あの目の片隅にとらえた黒く輝く奇妙な光は、直斗がイレギュラーに目覚めたものであった。その光を見た山賊は驚いて逃げていき、しばらくしてから、父さんと母さんが異変に気付き、やってきたらしい。父さんと母さんがやってくるまで、直斗は、意識を失いながらも仁王立ちして、黒い光を輝かせ続けていた。


「それで、俺たちを見た瞬間に直斗は倒れたんだ。そのまま、寝息をたてながら寝てしまったよ。」


 父さんは懇切丁寧に説明してくれた。


 直斗のイレギュラーとはどのような能力なのだろうか。イレギュラーは人それぞれで、みんな違っているという。考えてもわかるものではないので、真斗は考えるのをやめた。

 それから数日経って、家に帰り、普段の生活に戻った。しかし、直斗はイレギュラーを使おうとしても使えなかった。使う気もあまりないらしい。もっと、強くなって、成長してから使えるように努力するらしい。風属は少し使えるようになり、練習もするようになった。戦う時には使わなかった。もっと上手く操れるようになってから使うと言っていた。直人は4歳であったが、この年齢で属にも、ましてやイレギュラーにも目覚めるのはめったにないことらしい。


 真斗は心の中で静かに言った。


「僕にもイレギュラー使えるのかな」



「がんばれよ」


 どこからか、そんなふうに誰かに言われたような気がした。

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