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プロローグ 双子のマサトとナオト

 住宅が立ち並ぶある一軒の家に、伊吹という名の夫婦が住んでいた。そして、その夫婦のもとに二卵性の双子の赤ちゃんが生まれる。一つのことに夢中になると周りが見えなくなる兄の真斗と、いつもまじめで、まっすぐな弟の直斗。二人は一緒に遊んだり、時には喧嘩をしたりしながも、仲良く過ごしていた。


ミーン、ミンミンミンミンミーン


 夏の日差しが身体に照り付け、蝉の鳴き声が暑さを何倍にも引き上げる。多くの人は室内こもり、冷房の効いている部屋で生活していた。

 そんな中、暑さなんて気にも留めず、一生懸命に走る双子の幼い子供の姿があった。


「はずれの公園まで競走だー!」

「うおーー」


 真斗と直斗は今日も元気よく遊ぶ。街中を駆け回り、街のはずれにある公園まで猛ダッシュ。


「あ、あそこ抜け道っぽい」


真斗は大通りから小道に入った。


「あれ?直斗はどこいった?」


 真斗と一緒に走ってきていたはずの直斗がいない。


「また迷子になっちゃったよ。まあ、そのうち着くだろ」


真斗はなかなかの方向音痴で、競走してくると、いつも迷子になる。


「ゴール!ごっめん。待った?」


 真斗が公園にやっとの思いで着くと、直斗は木の剣を振っていた。縦に横に、斜めに剣を振りながらも、重心はしっかりと身体の中心に置いていて、身体はぶれない。直斗の剣技は無駄がなく、とても美しいものであった。

真斗は滝のように汗を流し、ぜーぜー言いながら座り込む。


「これからが本番なのに、いっつもこうだ」直斗は少し不機嫌そうにいった。

「いやー、なんか近道っぽいとこ見つけて行ったら、迷っちゃって。ごめん、ごめん」

「わかったから。そこの川で一息つこう。僕もちょっと休むから」


 公園の近くを流れる川は山から流れる小さな川で、底がはっきりと見えるくらい澄んでいて、小さな魚も多くいた。真斗と直斗は川の水を手ですくい、ごくごくと飲む。そして、顔を二度か三度か洗い、汗を流した。


「いやーきもちーねー。生き返るー」


 真斗は砂漠の中でオアシスを見つけたかのように言った。

それから、公園に戻り、木陰で一息つくことになった。


ミーン、ミンミンミンミンミーン


 二人がいる公園は、街のはずれにあるということもあってか、二人のほかに誰もいない。ただ蝉の鳴き声だけが公園を占拠し、他に聞こえてくるであろう川を流れる水の音や、木々を揺らす風の音までもがかき消されていた。


「今日も派手に騒いでやがるな」

「うーん、耳が痛いね」


 直斗は、手で耳をふさいで答えた。


「まずは座禅だね」


 直斗は蝉の鳴き声に負けじと声を張った。


「まあ、たぶんこれ本当の座禅じゃないと思うけど」


 真斗が苦笑いして言う。


 二人は木にもたれかかって座り、目を閉じた。そして、呼吸を整え、心を落ち着かせる。




「フー」




「よっしゃ!ナオト!剣を持て!」

「おっ!やるか?」


 二人しかいない公園は、二人のためのバトルステージとなり、蝉の鳴き声は、観衆の声援となった。

 二人は、木でつくった剣を持ち、今にも飛びかかろうとするかのように睨みあう。周りの空気はピンと張りつめ、いつの間にか、蝉の鳴き声はスッと止んでいた。


------


ーーーーーー


 木々を揺らす風の音が聞こえる。


…………

 

…………


 公園は、一息入れることも許されないような静寂に包まれ、大海原に浮かぶ一隻のボートのように孤立した。二人は糸がピンと張ったような緊張した状態がプツンと切れるのを待つ。

 

一匹の空気の読めない蝉が、


ミー…


鳴いた。


「はーー!」

カコン、カンッ、カンッ


 蝉の鳴き声が決闘開始の合図となり、二人は勢いよく剣を交えた。剣と剣は勢いよくぶつかり合い、リズムよく音をたてる。


カコン、カンッ、カンッ、カコン、カン


両手で剣を振るう直斗の攻撃は、一撃一撃がとても重い。真斗は右手で持つ剣でナオトの剣を受けるだけで精一杯だ。


「相変わらず、やってくれるな、ナオト」

「降参するなら、今のうちだよ」

「勝手に言ってろ」


カンッ


 真斗は少し距離をとる。そして、直斗の周りをぐるぐると回り、素早い動きで直斗を翻弄し始めた。真斗が直斗の背後から攻撃を仕掛ける。直斗はすぐさま振り返り、剣を交える。真斗はナオトの剣をしなやかな動きで受け流す。直斗はすきを狙いつつ、重い一撃をくらわし続けた。


「もらったー!」


 真斗は直斗の剣を、右手で持った剣で受け流し、左手の拳で直斗の顔を狙う。


「やらせるか」


 直斗は受け流された剣を巧みに扱い、その剣で真斗の左手も防いだ。


「やるな」

「マサトもね」


「よし!そこまで。ここからは父さんが相手してやろう。」

「あっ!父さん!」


 公園の入り口に二人の父さんが立っていた。二人は声をハモらせて、父さんのもとに駆け付けた。


「今日は仕事終わるの早かったね。明日がお休みだからー?」

「いや、違うよ、ナオト。父さんは、監督に怒られて、拗ねて帰ってきたんだ。」

「でまかせばかり言うんじゃないよ、マサト。父さんは名役者だぞ。セリフくらいあっという間に覚えられ…」


「すきありっ!」


 真斗と直斗は、父さんが自慢げに話しているのを尻目に剣を振った。


「残念でした。まだまだ甘いなー」


 父さんは後ろに大きく跳んで、間合いを取った。真斗と直斗は悔しそうに父さんを睨む。


「今回も、一発でも当てることができたら、父さんの必殺技見せてあげよう。まあ、それはないと思うけどなー」

「前、見たからいいやー」

「わかった、わかった。マサトはほんとに可愛げがないなー。前とは違うのみせてやろう。一回勝ったからって、二度目はないぞー。前はほんのちょっと酔ってただけだからな」

「はいはい、その言い訳100回目」


 父さんは近くに落ちていた木の棒を二本取り、片手に一本ずつ持ち、構えた。


「二人同時に来い。いつでも、いいぞー」


 真斗は父さんの背後に回り、直斗は正面で構える。そして、走り出した。


「はーー!」


「はい!そこまでー!」


 今まで占領していた蝉の鳴き声を、はるかに上回る声が響いた。そして、三人の動きが固まる。振り返ると、そこには怒りに満ちた表情をした母さんの姿があった。


「真斗!直斗!いつまで遊んでるの!もう、帰ってくる時間でしょ!

 父さんも!二人を呼んでくるって言ってたのに、一緒に遊んで、何考えてるの!もう、ご飯冷めるわよ!」


「ごめんなさい」


 三人は深々と頭を下げて謝った。

 

 真斗と直斗の父親は街で役者をやっている。ひげを少し伸ばしていて、常に眉間にしわが寄り、目つきが鋭く、怖い顔をしている。顔に似合わず、おっちょこちょいな性格。子供には甘く、たまに二人の相手をしている。体つきがよく、逆三角形の上半身を持つ。

 母親は専業主婦で、男も女も釘付けになるほどの容姿を持つ。肌は透き通るように白く、髪は後ろで軽く結ばれ、さらつやがある。父親と違い、子供には厳しく、時には優しい母親である。


 伊吹家はいつもと変わらない、ありふれた日常を過ごしていた。

処女作です。

どんどん物語を展開していきたいと思ってます。

終わりはまだまだ考えていないので、末永くよろしくお願いします。

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