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8、未知との遭遇ですから。

 夢をみていた。幼い頃のまだ分別もつかぬ頃の夢を――。


「トーカってチョーノーリョク使えるんだって~?」

「うん、そーだよ!」


 何も知らない頃の私は、とても無防備で、そしてとても不用心だった。

 日常的に電磁波を操るのは勿論のこと、それを隠すことすらしようとしていなかったのだ。

 今思えば、良くそれで実験動物扱いされなかったなと感心するほどである。

 そんな態度で色々と赤裸々だったせいか、私の特異体質は同じ幼稚園に通う友達には広く知れ渡っていた。


「ほらね~、言ったじゃん!」

「えぇ~、やっぱりそうなんだ~?」

「トーカちゃんって……、えぇー……」

「?」


 私は友達の言いたいことの真意が分からず、ただ首を傾げて笑顔を浮かべていただけだったように思う。

 何せ、この頃の私は電磁波を操れるといっても、せいぜいがリモコンを使わずにテレビを点けたり消したりできる程度だったのだ。

 勿論、他人の思考を読み取るなんて、高度なことができるわけもない。

 だから、トモダチが何を言おうとしているのかも気付けなかったのである。


「それって、この間アニメでやっていたワルモノと一緒じゃん!」

「最後、バケモノになっちゃう奴!」

「えぇ~、怖い~! トーカちゃんもバケモノになるの~!?」

「えぇ……? えっと……?」


 生憎と、私は皆が言うそのアニメを見ていなかった。

 だけど、子供のネットワークの中ではアニメの話題は重要視される。

 そして、そんなアニメの中で超能力を使って悪事を働いていた敵役がいたらしい。

 アニメが子供に与える影響は計り知れない。

 私はなし崩しの内に、そんな敵役と同列に扱われることになった。


 要するに……、まぁ、悪いヤツだから暴力を受けても仕方がないだとか……。

 物を隠されたり、遊具の順番を抜かされたりされても、悪者だしねで済まされるというか……。


 そんな酷い扱いに幼い私が泣くと、泣かした者は決まって得意気に「ワルモノをやっつけたぞ~!」と得意がるのだ。

 それが、子供たちの間で何となく英雄視されてしまったのだろう。

 私に対する虐めはより苛烈になっていった。

 一度は、お弁当に砂を詰められたこともあったっけ……。

 あの時は、空腹と理不尽さにわんわん泣いた記憶がある。

 そして、最悪なのが周りの人間は何がおかしいのか、ゲラゲラと笑うのだ。

 私はあの時、軽く人間不信に陥っていたのかもしれない。

 何をするにしても他人の顔色を窺い、びくびくと行動する毎日。

 そのせいか、いじめっ子たちも調子に乗って、私を虐め続け――。


「やめろよ! お前ら! 何やってんだよ!」


 ――そんな中をただ一人、流れに逆らって私を庇ってくれる男の子がいた。


 別にその子とそんなに仲が良かったわけじゃない。

 むしろ、苦手にしていたぐらいだ。

 じっとしているのが苦手な子で、虫とかしょっちゅう拾ってくるし、何よりも声が大きかった。

 小心者な私はその声の大きさで吃驚してしまうのだ。

 そして、その男の子も私をからかったりすることがあったので、それも相まって苦手意識があったのかもしれない。


 ……だけど、その男の子は虐めの現場となると私を庇ってくれた。


 その事が不思議で、私は涙の溜まったままの顔で男の子に尋ねたのだ。


「どうして助けてくれたの……?」

「はぁ? 助けてねーよ!」


 男の子は照れ隠しなのか、顔を真っ赤にして言う。


「ウチにテレビねーから、アニメの話されると自慢されてるみたいでムカつくから怒鳴っただけだ!」


 酷く個人的な理由だった。

 でも、それが可笑しくて私はつい笑ってしまう。

 すると、男の子は顔を真っ赤にすると、ぷいとそっぽを向いてしまう。

 その様子に怒られたと思った私は懸命にとりなそうと慌てる。


「ご、ごめんなさい! た、助けてくれたのに、わ、笑うなんて……」


 どもったり、敬語になったりするのは、それだけ、その時期の私が卑屈になっていたということだろう。

 それでも、男の子は気にすることなく……いや、耳まで真っ赤にしながら大声で明後日の方向に向かって叫んでいた。


「いーよ! お前、笑ってた方が良い感じだし!」

「そ、そうかな……?」

「そーだよ! それに……」


 男の子はようやく私を振り返って笑顔を浮かべていた。


「俺だってスッゲー技のひとつやふたつぐらい持ってるし! だから、それぐらいでメソメソすんなよな!」


 そう言って、男の子……こーちゃんは私のことを慰めてくれたんだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 懐かしい夢を思い出していた。

 久しぶりに受けた暴力の衝撃が大き過ぎたのかもしれない。

 何にせよ、まだ頭がガンガンする。

 痼のように残る頭痛に顔を顰めながら、私はゆっくりと瞼を開ける。


「…………」

『…………』


 目の前に蜂のようなものが飛んでいた。


「うわー! 蜂! 虫! 刺されるー! キャアー!」

『■■―! ■! ■! ■■■■―! ■■■―!』


 ヒュンヒュンと踊るその小さな物体は、だが蜂というにはあまりにも変な格好をしていた。


 ……というか、薄く緑色に発光していた。


 発光するような蜂など聞いたことがない。

 もしかして、蛍? と私は動きを止める。


「…………」

『…………』


 すると、相手も何かを察したのか動きを止める。

 まず目に入ったのは、硝子細工のように精巧な造りをした四枚羽……これが蜂と間違った最たる要因だろう……そして次に目につくのが全身を覆うようにして光る緑色の波動。

 よくよく見てみればわかるが、これのどこを見たら蜂と見間違うのだろうか?

 私の目の前には、伝説や伝承で良く語られる存在である羽の生えた小人……即ち、妖精がいた。


「妖精!?」

『■■!?』


 どうやら、その妖精は私の真似をしているようであった。

 幼い子供のように、私の一挙手一投足を楽しそうに真似る。

 やがて妖精は、私の真似をすることにも飽きたのか、緑色の光を明滅させながら、その姿を落ち着いた緑色へと変えていた。


 ……うん、光っていて見え難かった部分もこれでバッチリだ。


 巻き髪を二本角のようにした面白い髪型に、葉や苔を模した半袖と短パンのような衣装を着ている。そして、両手両脚にはファーの付いた長い手袋とブーツを身につけており、凡そ妖精という観念……私の中では裸だった……を否定するような格好をしていた。


 えっと、妖精……? なんだよね……? 一応……?(疑惑)


 緑を基調としたカラーコーディネートをした妖精は、手乗りインコぐらいの体を大きく使って必死に何かを私に伝えようとしてくる。

 だが、生憎と私はジェスチャーゲームが得意な方ではなかった。

 何を言いたいのか、ちんぷんかんぷんである。


「デッカイ……? ぐおー……、わー……、踊る……? ありがとう……?」


 最後は頭を下げていたから、多分、感謝だと思うんだけど、こっちの世界では違う意味の可能性もあるし、良くわからない。

 やがて、一通りの説明が終わったのだろう。

 緑色の妖精は、どこか期待に満ちた眼差しで私を見つめるが――。


「ゴメン、何が言いたいのかさっぱりわからない……」

『■■■!?』


 私は神妙な顔で首を横に振ることで応える。


 どうも、口らしき器官をパクパクと動かしているし、必死に語り掛けてくれているようなのだが、私には声らしきものがはっきりとは聞こえない。何か掠れた超音波のようなそんな振動が聞き取れるだけだ。


 案外、妖精の声というのは犬笛のように、人間の耳には捉え辛い周波数帯域の音なのかもしれない。

 それだと、私は一生、妖精の声を聞くことができないわけで……。

 それはそれで、ちょっぴりがっかりする出来事ではあった。


「妖精とお話とか、ちょっと憧れてたけどお喋りも出来ないのかぁ……」


 私の言葉を理解したわけではないだろうが、妖精は踊るように舞い上がるとその姿を消す。


 妖精とは元来いたずら好きで気紛れな部分があるという――。(小怪物図鑑感)


 飽きちゃったのかなぁと思っていたら、何やらすぐに頭上から舞い戻ってきた。


 というか、今、頭上を見上げたら物凄く大きな樹が立っていたんですけど!?

 私、その樹の根を枕にして寝ていたみたいなんですけど!?


 何か、妖精にとって大切な樹とかだったらヤだなぁ……と勝手に戦々恐々としながら、落ち着かない気持ちで妖精に視線を向ける。


『■■■■! ■■■■■■■■■■■■■■■!』


 何やらはしゃぐ妖精の手にはヤツデの葉に似た木の葉が握られていた。

 妖精よりも大きいサイズのヤツデ(?)の葉を神輿を担ぐようにして支えている姿はフラフラとしていて危なっかしい。

 私は今にも落としそうなそれをハラハラとしながら見つめていたのだが、妖精にとっては慣れたものなのか、バランスを取りつつ、その葉を私の鼻先に近付ける。


「いや、葉っぱとか貰っても嬉しくないんだけど……」


 その辺は人間と妖精の感覚の違いなんだろうか?

 私は困った顔で、目の前の葉を眺めて――。


「え?」


 葉の葉脈がまるで生き物のように蠢いていることに気付いてしまった。


「うぇっ、葉にアブラムシ!? 気持ち悪ッ!?」


 だが、そんな私の感想を嘲笑うかのように、蠢く『ソレ』はストンと私の心の中に『落ち込む』。

 次の瞬間には、葉の裏面は嘘のようにつるりとした姿を見せていた。

 そこには既にアブラムシのように見えていたものはいない。


「嘘でしょ……?」


 私は心の中に勝手に吸収されて落ち込んだ『それ』を理解して戸惑いの声をあげる。


「これは、アブラムシなんかじゃない……。これは、『そういうもの』なの?」

「アー、アー、聞こえますか? 勇者様?」


 次の瞬間、私の耳に飛び込んできたのは妖精の声。

 葉の裏面に付いていたのはアブラムシ何かじゃない。

 びっしりと書き込まれた文字だ。

 それが生き物のように踊っていただけであり、私はそれを目にした瞬間から、その文字の『意味』とそこに書かれていた『真理』を理解してしまっていた。

 それは即ち……。


「あ、うん。わかるかも……」

「やったー♪」


 ……私が妖精語を理解(マスター)したということであった。

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