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6、縄張り争いですから。

 さて。私が実験を繰り返し始めてから十日が経った。


 既にサンプルとしての試行回数は一万回を越え、ティッシュボールに至っては、ある程度狙った位置に転移させることができるようになっていた。

 いやぁ、流石、私。愛に生きる子。これも愛の力って奴だよね?

 そして、そこでまた分かってしまう新事実。


 ④転移させた物体は、転移先にある物体よりも優先されて存在が許される。【転移存在の優先性】


 どうも、存在の否定に対する反発の力が強過ぎて、転移先の物体よりも優先して、転移した物体の存在が許されてしまうらしい。


 簡単に言ってしまうと、『いしのなかにいる』状態だ。(サークルで覚えた)


 物質同士が融合を果たすというよりは、元々存在していた物質に転移した物質がめり込むといったイメージだが、恐ろしいのは転移した物質の分、元々存在していた物質が『完全に消失』するということである。

 つまり、私の転移させたティッシュボールが、たまたま窓の位置に現れた結果、ガラス窓にティッシュボール大の穴が空いてしまったということである。


 ……うん、サ●ンラップで誤魔化して塞いできたけど、多分、お母さんにバレるよね。


 後で、楓が割ったってことにしておこう。(外道)


「うーん。それにしても興味深い」


 ちなみに、本日、私が来ているのは、高校跡地の方である。

 最近の日課としては、午前中に大学に行って資料の読み込みをして、昼食を食べてから高校の跡地にまでやってきて、謎電磁波の観測をしているといった具合である。

 その後は、家でティッシュボールの転移をやったり、謎電磁波の解析を行ったり、ネット上で他の転移事件の情報を探したり、色々やっていたりする。


 特に、この謎電磁波。


 これがやっぱり相当な謎ではあった。


 何というか、毎日、来る度に周波数帯域が大きく変わっているのである。

 しかも、不安定に常にうつろっているかというとそうでもなく、一日ごとにチャンネルが変わるような感じだ。

 今のところ、初日も含めて八種類の電磁波を確認しており、どうやらそれがループしているようだ。

 それに何の意味があるのかはわからないが、とりあえず八種類あることだけは確かなようである。


「それに、この電磁波の波形の中にはある特徴があるのよね」


 そう。多分、私にしかわからないであろう特徴が紛れているのだ。


「信号の中に、こーちゃんの固有周波数が含まれているんだよね。つまり、私が施しておいた仕掛けのせいで、人間界(こっち)に信号が漏れ届いているとみた」


 汐ちゃんにも施した固有周波数の登録は、私が遠く離れた相手を認識できるように、その人の固有周波数を覚える効果があるのは勿論、その人を認識しやすいように登録者は普通の人間よりも電磁波を多く発散されるよう脳内信号を改変している。

 その結果、新陳代謝が活性化され、肉体の成長を促し、更にはぷち後光ともいうべき、人を惹きつけるような力を発するようになるのは内緒だ。

 こーちゃんはそれを上手く扱えなかったせいで、悪目立ちする不良みたいな感じになっちゃったけど、汐ちゃんの方は上手く使ってくれることを祈るばかりである。


「うん、とりあえず、謎電磁波については、こーちゃんの居る世界のものという疑いが強まったね。問題はこの発信元に対して、上手く転移できるかどうかなんだけど、そこは実験を重ねるしかないか……」


 【存在の転移】に送信先アドレスを乗っけることで、こーちゃんのいる場所に転移できるのが理想なんだけど、なかなか難しそうだ。

 ティッシュボールの転移練習に混ぜて、送り先指定ができないか実験してみよう。

 これも今日からの日課に追加だね。

 それにしても、肉体改造電流計画といい、怪物辞典の読書といい、大学に入ってから、私の知らなかった世界がどんどん広がっている気がするよ。

 大学生活って今までの生活とまるで違うから、本当楽しいよね!(げんなり)

 さて、私がうんざりしながら謎電磁波調査を行っていると、私の脳内にビビッと信号が飛んできた。

 これはあれだ。汐ちゃんからの緊急呼発信だね。


「…………。そうだね。そろそろやろうと思っていたし、丁度良いかな?」


 ティッシュボールで繰り返し練習することで、【存在の転移】は安定してきた。

 だけど、まだ怖くて試していない部分がある。

 それは、『生物』に対して【存在の転移】を行うことである。

 モデルケースであるフィラデルフィア計画では、戦艦の転移には成功したものの、乗っていた乗組員は身体に異常を来たし、消滅したり、気が触れたり、燃えたりしている記録が残っている。

 私の予想では、逆位相の波動が『戦艦のみを考慮したもの』で発せられた為に、船員が巻き込まれた結果なのではないかと考えている。

 なので、自分の波動をきっちりと把握し、認識さえしておけば、人体消失事件は起こり得ないはずなのだ。

 そして、今、汐ちゃんから緊急の信号が届いたってことは、汐ちゃんがピンチということだ。

 これは人体での転移実験をやる絶好の機会ではないだろうか!?


「でも、私の予想が間違っていた場合に死ねるよね? 後は、実際に転移をする中で、私は私の波動をきちんと認識し続けられるのかどうか疑問なわけで……」


 何せ、自分自身を転移させようと思ったら、自分の姿が一度世界から消えてしまうのだ。

 その状態で、私という存在の認識を保ち続けられるのか、私には非常に疑問が残る。

 なので、気軽な気持ちで実験はできないと思って、生物の転移に関しては自粛してきたのだが、どうやら機会に恵まれてしまったようだ。

 不安ではあるが、ニヤけてしまう私。


 えぇ、勿論、危険性があるのは重々承知ですけど、興味がないわけがないのですよ!(当然)


 何せ、これに成功したら、私は瞬間移動が使えるようになるのだ!

 瞬間移動(テレポート)とか、超能力ですよ、超能力!

 普通の人間でもできる電磁波放出の強力版とか、へそで茶を沸かすぐらいしょぼくみえるってもんですよ!


 …………。いや、今の私も大概か。


 ちょっぴり凹む私。

 まぁ、それは置いといて、私は私自身の波動を把握していく。

 汐ちゃんからの緊急の信号は私自身の気を逸らせるけど、ここで適当な把握をしてしまうと転移先で私自身が燃え上がったり、肉体の消失が起こる可能性がある。

 ここは慎重過ぎるぐらいに慎重でも構わないだろう。

 まぁ、そうは言っても三十秒もあれば、私の脳内記憶(メモリー)にその情報(データ)は格納され、私はその情報を元に逆位相の波動を作り出すことができるのだけど。

 後は質量と距離をサンプル試行の結果で導き出した公式へと割り当て、出力の程度を概算する。


「うん。この距離なら行ける」


 あまりに距離が離れすぎていたり、質量が重過ぎたりすると、私の出力が足りなくて距離が届かないんだけど、今回は一発で行けそうだ。

 まぁ、問題は転移した先に、物体がないかどうかだけど……。

 そこは一度、上空に転移した後で、地形を把握してからの再転移で対応したいと思う。


「ふふふ、私は人類初の自力で瞬間移動する女となるのだ!」


 次の瞬間、私は体中から逆位相の波動を放出する。

 そして、戦闘機乗りが失神(ブラックアウト)するかのように、その意識を手放すのであった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ――んにゃっ!?


 意識を手放したのは一瞬。

 次の瞬間、私は三百メートルぐらいの高さにいた。

 スカートが翻り、腰まで届く髪がバッシバシ顔を叩くし、空気も凍りつくぐらいに冷たいし、……何よりも上着がない。


「服の固有波動を計算していなかった!?」


 御蔭様で地上三百メートルをブラにスカート(下着見え放題)という格好で落ちてくる始末。

 あっという間に不審者の出来上がりである。

 むしろ、痴女?

 まぁ、そんなことよりも、今は墜落死回避の方向で。

 いちいち私の固有波動を計測し直している暇はないので、そのまま汐ちゃんの近くへ向かって転移する。

 勿論、こんな格好で汐ちゃんに会うわけにもいかないので、路地裏の人通りの少なそうな場所に転移していた。

 うん、知ってたけど固有波動が完璧じゃなかったので今度はスカートが消失した。

 私は下着姿で路地裏に潜む怪しい人となったのであった。


 ……どうしてこうなった?(泣)


「なんだぁ、テメェは?」

「有馬汐です!」

「そういうこと聞いてんじゃねぇよ!?」


 路地裏の暗がりで様子を見守る私の元に、なかなか愉快な言い争いの声が聞こえる。

 声の主は、汐ちゃんと……何だかガラの悪そうな少年が三人。

 体格的にもそこまで大きくないし、全体的に細いし、私の見立てでは中学生ぐらいなんだけど、どうだろう?

 どっちにしろ、私には彼らを堂々と値踏みするチャンスは訪れない。

 何せ、この姿で人前に出たら、一発で痴女扱いだからね!

 そんなことになったら、私はここにいる全ての人間を廃人にまで追い込んで全てを無かったことにしてみせる自信がある。(汐ちゃん除く)

 というわけで、もう少しこの暗がりから汐ちゃんを見守ることにする。

 本当に危ないようだったら勿論助けるつもりだけど、汐ちゃんから首を突っ込んだ以上、基本路線は状況の推移を見守る形だ。


「なんでこんなことするんですか!」


 汐ちゃんが再び叫んでいる。

 その足元からは呻くようなか細い声。

 どうやら暗がりで良く見えなかったが、汐ちゃんの足元に一人倒れているようだ。

 汐ちゃんの台詞から察するに倒れた人を助けようとして、ガラの悪い三人の中学生に立ち向かったといったところだろうか? こーちゃんもそうだけど、本当、こーちゃんの家系は困っている人を放っておけない血筋みたいだね。

 私は降りかかる火の粉は払うタイプだけど、流石に隣の家の火事を消そうとするほどお節介ではない。そう考えると、汐ちゃんの行動は十分に立派ではなかろうか?


「なんでこんなことするのかって……? テメェに言う必要ねぇだろ!」

「そうですか!」

「そこは納得するところじゃねぇだろ!?」


 …………。

 どうやら、特に立派な思いを抱いてしゃしゃり出たわけではなさそうだ。

 この感じだと巻き込まれたのかな?

 汐ちゃんはどこかぽやっとしているし、そんなことも割とありそうだ。

 ガラの悪い三人組は倒れている相手を足蹴にして、それから脅しの意味も込めてか、低い声で汐ちゃんに視線を向ける。


 おいこら、私の汐ちゃんが泣いたらどうする?

 ティッシュボールと内臓取り替えっこするか? あぁん?


…………。

 うん、ガラの悪さは不良とどっこいどっこいな私です。てへ♪


「ち、調子狂う奴だぜ……。とりあえず、そいつの制服の襟元見てみろよ」

「はい!」


 元気良く手を上げて路地裏に倒れている人物の制服を眺める。

 なんだろうね? 私も気になるし、赤外線モードで見てみようっと~。

 うぉ、まぶし!(お約束)


「えぇっと……。カラーがないですね?」

「そういうところじゃねぇよ! 校章だよ、校章! 元武中(もとたけちゅう)の校章してんだろが!」

「えーっと……、この校章がそうなんですか?」


 汐ちゃんの間の抜けた質問にずっこけている不良三人組。

 なんか変な奴らだ。付き合ってみれば、案外良い奴らなのかもしれない。


「そうだよ! それと元武ってのは隣町の中学だ。その意味が分かるか?」

「ちっともわかりません!」

「ちっとは頭使えよ!?」


 即座に答える汐ちゃんに憤ったように答える不良のリーダー。

 うーん、汐ちゃんがどうにも思っていないようだから無視するけど、もうちょっと優しく接してあげて欲しいなぁ。

 じゃないと、私のティッシュボールが君の胃袋の中に飛び込むことになるよ?(ニッコリ)


「隣町の中学の不良が我が物顔で俺たちの――光隆中(みつたかちゅう)の縄張りまで出てきて好き勝手やってんのは、三ヶ月前に光隆学園が消えちまったからだ……」


 光隆学園ってのは、私が通っていた高校だったりする。

 けど、その学園が消えたのと、他の地域の不良が流入しているのと何か関係があるのだろうか?


「光隆学園ってのは、来る者拒まずってスタイルの自由主義の高校でよ。無法地帯って感じ程じゃねぇが……。一部はヤバイ連中と繋がっててそれなりに近隣の学校には恐れられてたんだよ」


 へぇ~、ウチの学校ってそんな噂が流れていたんだね。

 あんまり友達もいないし、こーちゃんのことばかり考えていたから知らなかったよ。


「けど、三ヶ月前の事件で消えちまった」


 汐ちゃんの表情が若干固くなった気がした。

 あ、こら、無神経なことを言うんじゃない。お姉さん怒っちゃいますよ?(プンプン)


「その頃からだ。光隆学園の脅威が消えたって言って、周囲の学校の不良共が徐々にこの町で我が物顔で暴れ始めたのは……。光隆中の生徒も何人かカツアゲだとか、殴られたりだとか、無理矢理迫られたりだとか被害にあってんだよ」


 悔しそうに不良のリーダーが呟く。

 要するに、突如現れた空白地帯を巡って、不良たちの縄張り争いが起きているってことかな?

 そして、元々、この地域にいた光隆中学の不良が反発して、流入してきた他校の不良を追い出そうとして暴力を振るっていた。

 そんなところを、汐ちゃんが止めに入ったってことなんだろう。


 うーん、不良たちが縄張り争いをする分には、勝手にやってくれといったところだろうけど、どうやら一般生徒にも被害は出ているようだ。

 果てしなく迷惑な話だけど、私にできることなんてあるんだろうか?


「ちっ、せめて、光隆学園の四天王の内、一人でも残っていればこんな事になってねぇんだろうけどよ」


 …………。

 私に出来ることなんてあるんだろうか!?(必死)


「つーわけで、追い出し兼ねてシメてやってただけだ。テメェも光隆だろ? だったら、そこどけ。これも町の治安を守るためなんだよ!」

「でも、それなら話し合いとかで……。やっぱり暴力はいけないと思います!」

「相手が調子こいて、殴ってくるのに話し合いってか? 馬鹿か?」


 不良のリーダーが呆れたような目で汐ちゃんを見つめる。

 それでも、汐ちゃんは目を逸らさない。

 先に目を逸らしたのは不良のリーダーの方だ。やってられないとでも思ったのだろう。

 その光景を見ていたのか、路地裏に横たわる少年がくぐもった声で笑う。


「くくくっ、どっちみちテメーらは終わりだよ……」

「あぁ!? まだ殴られ足りねぇのか、テメェ!」


 倒れていた少年の襟首を掴んで、不良のリーダーが無理矢理引き起こす。

 随分と腕力は強そうだ。

 そして、恐らくはそれが彼の自慢なんじゃないかな。

 だから、この地域の平和を守るヒーロー気取りなんだろう。

 私はなんとなく理解した。そして、その程度じゃ事態は収束しないんじゃないかとも思うわけで。


「調子に乗り過ぎたんだよ、テメェらは! ボコボコ、ボコボコ! 闇討ち気味に喧嘩吹っ掛けやがって! 元武高二年の佐竹さんが『光隆中の連中は全員マトに掛ける』って言ってたってよ! オメェらは終わりだ! バーカ!」

「うっせぇ!」


 鈍い打撃音が響き、汐ちゃんが思わず首を縮こませる。

 それで、元武中の中学生は喋ることができなくなったようだ。

 気絶したのかもしれない。


「あっ、あの、暴力は……!」

「…………。用心しろよ。テメェも光隆なら絡まれて酷い目に合わされるかもしれねぇんだからな。おう、テメェら行くぞ」


 不良のリーダーの掛け声で付き添っていた二人の不良も足早に路地裏を出て行く。

 汐ちゃんは少し困った顔をした後で、意識を失っているであろう中学生を引っ張って路地裏を出ていこうとする。

 どうやら、病院にでも連れて行こうとしているのだろう。

 私は周波数帯域を合わせて基地局に繋ぐと、一一九にて救急車を要請する。

 これでまぁ、大丈夫だろう。

 後は、私の問題だけだ。


「流石に、これ以上の布地を失うわけにはいかないよね」


 慎重に私の全身の波動を記憶し、上空へと転移してから私の家へと向かう。

 その際に、行きと同じように何度か意識を失い掛けたが、何とか気力で私は自分の家のベッドの上へと転移を果たしたのであった。


「何か、中学生は中学生で大変そうだねぇ」


 私はふかふかのベッドの上で、下着姿のままにしみじみと呟くのであった。

色々と忙しくて投稿ペースが上がらない今日この頃。

GWが懐かしい。(ホロリ)

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