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4、害獣対策ですから。

 というわけで、おはようございます。


 私です。恋する電波、遠加野桐花ちゃんです。

 ちょっとだけこーちゃんの為に無理しちゃった結果、三日もベッドの上で筋肉痛で動けなくなっていた間抜けちゃんです。てへぺろ♪


 ……と、お巫山戯できる程度には復活している私です。


 まぁ、こんな一人遊びを思いつくぐらいには暇だったんだよ。

 まぁ、見舞ってくれるような友達もいないしね(ホロリ)。

 ちなみに、筋肉痛四日目の今日は慣れ親しんだベッドの上ではなく、三駅隣りのD町にまで来ています。勿論、無目的の夢遊病ってわけじゃないよ?


 そう。大学に連絡して説明したら、卒業証明書の件はなくても良いので――という流れになったので、とりあえず授業とかの説明の為に一度来て欲しいということでやってきたわけなのだ!


 しかし、あれだね。


 高校に比べると、本当、校舎(キャンパス)がでっかいね!


 ちなみに、ウチの大学のキャンパスはD町の此処だけじゃなくて、都内各所に点在しているらしい。

 履修する科目によっては、そこまで行かなければいけないらしいので結構大変である。

 とりあえず、履修する科目に関しては最初だし、なるべく近い位置で受けられるものでも取っていけば良いかな?


「――前期の履修科目提出期間は過ぎてしまいましたので、後期から授業を履修して下さい」


 学校の事務受付にまで行ったら、にべもなくそう返されてしまった。


 …………。


 いや、確かに入学式ボイコットしてひと月も休んでいた私が悪いんだけど、そこは何とか温情とか恩赦とかないんですかねぇ?


 ――いえ、はい。私的理由で休んでいました。完全に私の我儘です。ごめんなさい。


 というわけで、華の大学生活を始めようとしていた私はいきなり半年もの間、暇な時間ができてしまったわけである。

 一応、講義自体は履修していなくても受けられるらしく、勝手に授業に混じるのはオーケーらしいのだが……。単位も貰えないし、あえて混ざるっていうのもどうだろう?

 ちなみに、ここまでで、あんまり大学に来なくてもいいやと思っている私がいる。

 そもそも、私には必殺の脳内記憶術がある。

 一度受けた授業は完璧に記憶できるし、引き出すのも自由自在。

 自主的な講義拝聴と、単位取得のための講義拝聴と同じ授業を二度受ける意味はすこぶる薄いのだ。

 とはいえ、半年も大学に籍を置きながら何もやらないというのもどうかな~と思うわけで。


「というわけで、やってきました! サークル棟!」


 そして、私が思いついたのはサークルに所属してみようということだった。

 大学といえば、勉強も勿論だけど、やっぱりサークル活動とかも興味あるしね!

 でも、今は講義のある時間らしく、割りとサークル棟の中は静かめ。

 そもそも、新入生を狙ったサークル勧誘とかの時期も過ぎているから雰囲気的には落ち着いているようだ。


「人いないね~」


 というか、こんなサークルがありますよ~みたいなパンフレットはないのだろうか?

 そういうのがサークル棟の前にでもあれば便利なんだけどね。

 まぁ、無いなら仕方がない。

 堂々と行ってみましょう。

 ちなみに、緊張とか恐怖とかはなかったりする(電波だから)。


「うーん、どんなサークルに入ろうかな」


 私としては、異界? 異世界? で役に立ちそうなサークルがあると有り難いんだけどなぁ。

 例えば、キャンプ生活ができるようになっちゃうサークルだとか、食べられるキノコとか野草が見分けられるようになっちゃうサークルだとか、罠とか作れるようになっちゃうようなサークルだとか。

 とにかく、害獣がウロウロしている無法地帯に足を踏み入れるのだ。

 それなりに役に立つ知識や技術は必要不可欠だと思っている。

 そして、それがサークルで身に付けられるというのならば万々歳ではなかろうか?


「うーん、ワンダーフォーゲル部……。確か、山登りだよね? キャンプ知識とかは手に入りそうだけど……」


 正直、重い荷物を担いで山を登る自分の姿が想像できない。

 まず、体力的にも厳しい部分があることは、ちゃんと理解しておくべきだ。(戒め)

 ちなみに、今も低周波筋肉体改造計画は続けている。

 筋肉痛は酷かったりするが、それもこれもこーちゃんのためだ。

 こーちゃんが望むなら、私は羨まけしからん女になるのである!(決心)


「サバゲー同好会……。サバイバル技術とかに詳しかったりするのかな? それとも、やっぱりエアガンとかの知識に傾倒していたり? うーん、一応、キープで」


 結論を先送りにしながら、次々とサークル棟にあるサークル名を確認していく。

 なかなかサークルの名前だけで、何をやっているかを知ることは難しく、私が望んでいる内容かどうかは分からない。

 だけど、それでも大雑把な絞り込み検索は出来そうではある。


(それにしても……)


 分かっていたことだけど、私のgrepに引っ掛かるのは大概がアウトドア系だ。

 インドア派な私にとってみては、真夏の閉じられた一室の中で熱暴走気味なPCと格闘するぐらいの拷問に近い。簡単に言うと、入っても続けられる自信がない。


「ぐぬぬ、インドア派な私にも簡単にできて、異世界活動に有益なサークルはないものか……!」


 嫁さんが不細工だと言われた後の諸葛孔明ばりに、ぐぬぬしていた私だが、そんな私を神は見捨てなかったようだ。

 ついと上げた視線がサークルの名前を見た瞬間に、ビビッと全身に電流が走る。

 いや、流してたけどね。実際。


「これだ!」


 私は私の直感に従って、そのサークルに入ることを決めた。

 その名も『ゲーム研究会』。


 なんて素敵なインドア臭溢れるサークルなのだろう!


 これなら、私にもできるに違いない!(偏見)


 それに、此処なら恐らく異世界の怪物に対する情報が手に入るんじゃないかという思いもある。

 実際、オークの検索をした時に、ゲームに出てくるとか、そういう記述を良く見かけたからね。

 多分、そういうのに詳しいサークルだと思うんだ。

 そして、こーちゃんを救いに行く以上、そういう知識は絶対に必要なわけで……。

 私が迷う理由がないのである。


「たのも~」


 講義中だし、人はいないかもと思いながらゲーム研究会の扉を開けたら――、居た。

 眼鏡を掛けた、どこか気弱そうな男子。

 何というか、正しくオタクという雰囲気を感じる。

 その人は、どこか呆けた様子で私のことを見つめ、ピクリとも動かない。

 反応がないのを見ると、置き物か何かなのだろうか?


「あの~、もしもし~?」


 もう一度声を掛けてみるものの、反応がない。

 埒が明かないので、思考を覗いてみると……。


(うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー、うわー)


 全く理解できない叫び声の羅列が聞こえてきた。

 何だろう、while文の分岐条件でも間違えたんだろうか?

 仕方ないので、無理矢理Breakしてやる為に、彼の頭の中の思考を少しかき乱す。


「痛ッ!?」

「大丈夫ですか?」


 自分でやっておきながら、素知らぬ顔を通す面の皮の厚さである。

 いや、他人の脳内に影響を与えられるとかバレたら、それこそ魔女裁判か、実験動物行きだもんね? そこは知らぬ存ぜぬですよ。

 ちなみに、私のこの特殊能力(ギフト)のことを知っているのは二人だけだ。

 我が愛しのこーちゃんと、最愛の玩具……もとい妹の楓である。

 昔、お母さんにも明かそうとしたのだが、明かしたら脳の医者に連れて行かれたので、それ以来、この能力のことは教えていない。


 というか、頭のおかしな女扱いは学校だけで十分なのである。


 それを考えると、今回は私の大学デビューになるわけで、いきなりおかしなことをしたのはマズかったのかもしれない。

 でも、目の前の男子は特に気にした素振りも見せずに柔和な笑顔を見せていた。

 気付いてない、のかな?


「な、何でもないよ! えぇっと、君は……。新しく入会した子だったかな?」

「いえ、入会希望者です」

「入会希望者? この時期に? しかも一人でだなんて珍しいね。あ、御茶ぐらい用意するから座って座って」


 そう言って、眼鏡男子はいそいそと紙コップを用意し始める。

 私は小さく「お邪魔します」と言いながら入室する。

 中央に置かれた長机は広くスペースを使う為か、合わせるようにして置かれ、窓のない壁のひとつにはスチール製の本棚に分厚い本が幾つも並んでいる。

 恐らくは、サークル用の資料なのだろう。

 モンスター辞典やら、武器辞典などといった一風変わった本が置かれているようだ。


(うん、なかなか充実しているみたい)


 私は目的のブツがきちんとあることを確認して、心の中で一人頷く。

 正直、怪物の情報等はインターネットで調べて、それを脳内記憶に保存してしまっても良いのだが、ネット上の情報は曖昧であったり不鮮明であったり、提供者によって歪められていたりすることも多い為、統一の記載形式できちんと纏められた資料が欲しいと思っていたところだったのだ。

 そして、それがタダで手に入る環境があるのなら、私は遠慮なくその環境に身を置くというわけである。

 適当にスチール椅子を引いて座りながら、私は本棚とは別の壁に貼られたポスターへと目を移す。

 そこには、惜しげもなく下着を晒したりしている美少女のアニメ絵がペタペタと貼られていた。


 ……何というか、とても男所帯なものを感じる。


「あわわっ! えぇっと!? これはそのっ!?」

「大丈夫ですよ。この程度の情報ならネット上にも沢山溢れていますし」


 私の視線に気が付いたのか、あわあわし始める男子に物腰穏やかに対応する。

 これが、こーちゃんの生写真とかだったら、色々とヤバかったけどね!(興奮)


「そ、そう? あはは、そうだよね。こんなサークルを見に来るぐらいだもんね。あ、御茶どうぞ」

「有難うございます」


 眼鏡男子は私に御茶を渡すと、斜向いの席に腰を下ろす。

 最初はオタクっぽいだけの人と思っていたけど、どうやら気弱で腰も低いというアクセサリーを追加した方が良さそうだ。

 その割には物怖じしないでサークルの備品を扱っているところを見ると慣れがあるのかな?


 先輩、かな?


「えぇっと、自己紹介がまだだったね。僕は、二年の遠藤公康(えんどうきみやす)と言います。君の名前を教えてくれるかな?」

「遠加野桐花です。一年生です」

「一年生かぁ。この時期に入会希望なんて珍しいけど理由を聞いても良いかな?」

「はい。異世界活動に必要な知識を得ようと思って」

「はい?」


 ぴしりと眼鏡男子――遠藤先輩の表情が固まった気がした。


 あ。ここでまともに答えるとおかしな人に思われちゃうね。失敗失敗。


 いや、別に私はこーちゃん以外の異性にどう思われようと平気なんだけど、おかしな人は入会お断りとか言われても困るから、ここは大人しくしておこう。


「あはは、遠加野さんは面白い人なんだね」


 でも、私の心配をよそに遠藤先輩はどうやら独自解釈をしたみたい。

 うん。ある意味、私はこの人の頭の方が心配になる。(余計なお世話)


「でも、一応、このサークルの活動内容を誤解していると困るから、説明しようと思うんだけど良いかな?」


 サークル活動……。

 そうか。一応、サークルメンバーで何かをやろうってこともあるんだね?(今更)

 知識を得られればそれでいいやって考えだったから、活動内容についてはあまり考えていなかったよ。

 というか、結構、頑張って活動しているサークルなのかな? 

 異世界活動の方にあまり支障が出ないような活動内容だと嬉しいんだけど……。


「ゲーム研究会の主な活動としては、次代のゲームを作り出すとして、サークルメンバーで集まって既存のゲームを遊んで意見を交わしたり、改良点とかを考えたり、時には自作のゲームを作って、それをメンバーに評価してもらったりとか、そういう活動がメインになるんだ。遠加野さんはゲームを作った経験は?」

「ないです」


 あるわけがない。

 そもそも、ゲーム内知識をつける為にこのサークルを希望しているのだから当然だ。


「どちらかというと、異世界(ファンタジー)的な知識に興味があったので、ここでなら学べるかなと思ったので」

「あぁ、異世界ってそういう……」


 遠藤先輩は今度こそ納得した口ぶりで頷く。

 じゃあ、さっきは一体どうやって納得したんだろうか?

 私はますます彼の頭の中を心配してしまう。(失礼)


「勿論、そういった切り口での活動も大歓迎さ。特にそういう場合は新規にサプリメントを作ってくれたりすると非常に助かったりするしね」

「サプリメントですか?」

「うん。新たな魔物を作成して集めて一冊の本にしたりとかするんだ。勿論、モンスターのデータや背景、思考パターンなんかも自分で考えてね」


 うん、良くわからない。

 このサークルにいれば、そういうのもわかるようになるのだろうか?

 わかるようになってもあんまり嬉しくはなさそうだけど。


「まぁ、常時の活動としては、さっき言ったものだけど、それとは別に大規模なイベントが年二回あるんだ。遠加野さんはコミフェスってのは聞いたことあるかな?」


 それはある。

 高校時代に学校の電波を拾っていたら、誰かの思考から流れてきたからだ。

 確か、正式名称はコミックフェスティバルだったかな?

 年二回東京ビッ●サイトで行われる大きなお祭りらしい。


 ……らしいというのは、私はあんまりそういうのに興味がなかったから調べていないからだ。


 ネットに繋げば、すぐにわかりそうだけど、あまり興味もないから別に良いかな。


「ウチのサークルでは、そこで研究成果を発表することを活動の軸としているんだよ。要するにゲームを作って販売するんだ。ゲームの種類はPCで作った自作ゲームやら紙媒体のTRPG本でも、リプレイでもサプリメントでも何でもござれだね。まぁ、完売することはあんまりないんだけど、そこは雰囲気を楽しむというか、参加することに意義があるとかそういう感じだね」


 たはは、と笑って頭を掻く遠藤先輩。

 頼りなさそうな先輩だと思っていたけど、サークルの説明をする時は実に生き生きとしていた。

 私はそれをちょっとだけ羨ましいと思う。

 私がこのサークルに入るのは、そういう純粋な思いとはちょっと違うからだろう。

 ちなみに、こーちゃんサークルがあれば、私は今の遠藤先輩よりも熱い気持ちで語れる自信がある。(えっへん)


「まぁ、成果の提出は義務じゃないし、不定期に行われる研究会に参加してくれるだけでも嬉しいんだけど……。そういうのを聞いても入会する気はあるかな?」

「ひとつ聞いても良いですか?」

「はい、何でしょう?」

「そちらにある資料は、入会した場合は自由に読めるんでしょうか」


 私はスチール製の本棚を指差す。

 遠藤先輩は笑って頷いていた。


「一応、サークルの持ち物だから、この部屋の中で自由に読む分には構わないよ。貸出はちょっと遠慮して欲しいけどね」


 柔和な笑顔のままに貸出はきっちりと拒否してくる辺り、私が持ち逃げする可能性も考慮しているのかもしれない。

 まぁ、何を考えているかわからない、ちょっと変な一年生にいきなり貸し付けるなんてことはないよね。私でも警戒する。


「わかりました。でしたら、このサークルに入会したいと思います」

「じゃあ、ちょっと待ってて貰えるかな。今、必要な書類を持ってくるから」


 そうして、私はゲーム研究会に入会届けを出し、二時間ほど怪物の知識を詰め込んでから家に帰宅したのであった。

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