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3、神の手ですから。

 お夕飯は大変美味しゅう御座いました。


 お母さんを手伝って一緒に食器の後片付けをした後、私は再び自室に篭って考え事をしていた。

 勿論考えるのは、こーちゃんを助けるために一体何が必要なのかということだ。

 そして、考えた結果、私は以下の四点に焦点を絞った。


 ①こーちゃんが今いる場所に行く/戻ってくる方法の確立

 ②謎の電波調査

 ③害獣と接触した場合の対処方法の確立

 ④行方不明事件の調査


 難易度的にいえば、恐らく①が一番難しいのだろう。

 だけど、幸か不幸か、私は①を実現する手段にアテがあった。

 だから、①についてはそこまで心配していない。

 まぁ、移動手段はともかく、①のこーちゃんが今いる場所の特定が難しいのだけれど……。

 でも、その辺の情報は②で何とかなるのではないかとは思っている。

 怪しい謎の電波を解析することで、異世界?の足掛かりを掴みたいと思っているのだ。

 それでも駄目なら最悪④で何とかする。

 というか、何とかなれという感じである。

 これが叶わないと万策尽きたかという感じなので、是が非にでも何とかなって欲しい。

 そして、①が確立した後は③が重要になってくるので、その辺りも並行作業で進めていかなければならない。

 しかし、あのバケモノを相手にどうにかできる方法とは……。

 正直、不安しかないのは、私の気の所為ではないだろう。


「おねーちゃん、いる~?」


 机に向かってウンウン唸っている私を呼ぶリクエストが聞こえる。

 私はその声に向かって即座にレスポンスを返す。

 まぁ、タイムアウトする理由もないしね。


「サインインしてるよ」

「この意味不明な感じはおねえちゃんだねぇ~。お邪魔します~」


 ノックも姉に対する思いやりすらもなく、ガチャリと扉が開け放たれて快活そうな笑顔を浮かべた私の妹――遠加野楓(とおかのかえで)が姿を現す。

 肩ぐらいで切られた癖のない髪をサイドテールにしており、その肌の色は運動部所属の証とばかりにこんがり小麦色だ。

 そして贅肉の絞られたスリムな体は胸が重くて肩が凝り易い私とは正反対だ。

 うーん、同じ遺伝子(せっけいず)を引き継いでいるはずなのに、どうしてこうも両極端なのか不思議でならない。


「どうしたの、楓?」

「どうしたのって、おねーちゃんが三ヶ月も部屋の隅でドナ○ナ歌っていたのが、ようやく治ったっていうから見に来たんだよ」

「ド○ドナなんて歌ってないよ」


 デフラグ整理ならしていたけど。


「えー、なんかブツブツ言ってたの聞こえたよー。部屋隣だし、超怖かったんだから~」


 どうやら知らない内に迷惑をかけていたみたいだね。

 でも、そこは私の可愛い妹だ。

 きっと笑って許してくれるはずに違いない。(幻想)


「そうなんだ。心配かけたみたいだね。ゴメンね」

「べ、別におねーちゃんが元気になったっていうならそれでいいんだけど~」


 私が妹の目を正面から見つめて心を込めて謝ると、どうやら誠意が伝わったのか、頬を赤くして目を逸らす。

 うん、お姉ちゃんは楓が素直な反応を示す娘で嬉しいよ。

 でも、素直過ぎてチョロインに思われちゃうかもしれないから、少しは落ち着いた反応も見せてくれると嬉しいかな?


「とりあえず、おねーちゃんが元に戻って良かったよ~」


 朗らかに笑う楓の笑顔を見ていると、どことなくこちらもホッとする。

 楓と私を簡単に例えるなら陽と陰だ。

 楓は友達も多いし、性格も明るいし、体を動かしたりするのも得意だけど、私は友達は少ないし(電波だから)、性格も理解されないし(電波だから)、受信する方が得意だったりする(電波だから)。

 まぁ、そんな楓の笑顔だからこそ、私は癒されると言いたいわけで――。


 ――ん?


「楓、最近睡眠不足でしょ? 目の下にうっすらと隈があるよ?」

「えー、だからさっき言った通りだよー。おねーちゃんの呟きで眠れなかったの~」

「呟いてなんかないからね?」


 ほ、本当に呟いてないよね?

 暗い部屋の中でデフラグ整理していただけだし、独り言を呟いているつもりなんて全くなかったんだけど?

 でも、こうまで言われると自信が失くなってくる。

 ま、まぁ? 原因の一端が私にあるわけではないとは思うんだけど、もしかしたらなきにしもあらずかもしれないので、その辺の対処はしてしようかと思う。


「呟いてはいないけど、私のせいだって言うなら責任は取るよ。楓、上と下の服を脱いでベッドに横になって」

「ええっ!? どういう責任の取り方!? えっちな奴!? えっちな奴なの!? ……で、でも、お姉ちゃんになら……、良いかな……?」

「何言ってるの? ブラにワイヤーとか入ってたら危ないから脱いでって言っただけだよ。それとも自分でできないって言うなら、私が脱がすけど、どっちが良い?」


 私がわきわきと指先を動かすと、楓は表情を強張らせて躊躇いがちに服を脱ぎ始める。

 そんな妹の様子をじっくりと眺めながら、私は一言。


「胸あんまりないねー」

「気にしてるのに!? 酷いよ、おねーちゃん!?」


 思わず涙目で抗議してくる楓を見て、それなら成長ホルモンの分泌も促進させようかなと、私は自分の体の調整を開始する。

 まずは、冷えた筋肉や凝りを解すための遠赤外線を掌から出力できるようにし、次に体の内部の凝りを解すために低周波を掌に纏わせる。あとは、楓の体から出る電磁波の整形を局所でしてあげれば、すぐに健康体に戻るはずだ。

 成長ホルモンの促進に関しては脳内信号を少しイジることで対応する予定である。


「お、おねーちゃん~?」


 局部を掌で隠しながら、楓が不安そうな声を上げる。


「え? パンツまで脱ぐ必要はなかったんだけど?」

「上と下を全部脱げって言ったじゃない~!?」


 そう言えば、細かな指示をしていなかったかな?

 とりあえず、私は楓にベッドでうつ伏せになるように指示すると、超効能を纏い付かせた両手で妹の体をマッサージしていく。

 その行動に楓は最初は緊張して体を強張らせていたようだが、すぐに吐息が蕩けるようなものに変わっていった。


「あうう~、ナニコレ~、気持ち良すぎるぅ~。おねーちゃん、ゴッドハンド過ぎ~」

「そりゃそうでしょ。普通のマッサージとは違うもの」


 具体的にいえば、人体影響の良いトコ取りで調整している。

 今の私なら触れるだけであらゆる人間を腰砕けにできる自信がある。

 ふっ、私に近付くと腰を抜かすよ?(ニヒルな笑み)

 それにしても、妹の体は改めて触ってみるとしっかりとした筋肉が付いているのがわかる。

 これだけの筋肉が付いていれば、礼の害獣『オーク』とやらもやっつけられるのだろうか?


「ねぇ、楓?」

「んにゃ? 何、おねーちゃん~?」


 気持ちよくなって寝かけていたのか、どこか油断したような妹の声が響く。

 寝るのは別に良いのだけど、私の枕に涎は垂らさないで欲しい(切実)。


「楓なら、お相撲さんに勝てる?」

「ゴメン、ちょっと意味わかんないかな~?」

「いや、良い筋肉してたから、それぐらいやれるのかなぁって」

「えー、無理だよ~。せめて武器は欲しいかな~。日本刀があればやれるかも~」


 そういえば、妹は剣術道場に通っていたんだった。

 確か、私の学校の方にその剣術道場の跡取りが通っているとかで、その跡取りはインターハイで優勝したとかなんとか聞いたような気がする。

 楓もそこに通っているのだから、それなりに実力はあるのかな?


「日本刀があればやれるの? 人を斬れるの? 血とか出るんだよ? 怖くない?」

「えー、そういう話? 単純な実力勝負とかじゃなくて~?」

「実力勝負も含めるけど」

「実力勝負なら刀があった方が有利だよ。相手だって斬られるのは怖いから足が竦むもん。それだけこっちの方が精神的に優位に動けるし。リーチだってこっちの方が長くなるしね。でも、長期戦になると刀が重く感じるだろうから……、なるべくなら短期で決着をつけたいかな~。後は実際に人を斬るってなったら色々と躊躇うものがあるかもしれないから、その辺は気持ちの問題だよね~」


 妹の外皮を覆う電磁波を整形しながら、私はなるほどなーと感心する。

 血行を良くする為に血管の詰まりを磁力によって改善させる。安全でありながら効果的だ。

 けど、楓も色々と考えているんだね。

 ただ刀を持ったから強いというわけではなく、それにおける精神的な作用なんかも考える必要があり、それに加えての理論的な有利不利も考える必要があると……。


 うん、素人の私が簡単に何とかできる分野じゃなさそうだ。


 本当にどうしようかな、害獣対策。

 そもそも、相手は害獣『オーク』だけとは限らないのだ。

 現在は相撲取りを仮想オークと見立てて、立ち回りを楓に聞いてはいるがオーク以外の怪物だって居るかもしれない。

 そう考えるとどうしても自衛の手段が必要になる。

 でも、私が今更格闘技を習い始めても、モノになるのに何年掛かることか。

 そもそも、私はそんなに運動が得意ではない。

 動くとすぐにバッテリーが上がっちゃう体質なのだ。

 これは、何か良い手段を考える必要がありそうだよね。

 うーん。広域にマイクロウエーブを放って、脳を茹で上げるとかどうだろうか?

 いやいや、小回りが効かなそうだし、敵味方の区別なく巻き込みそうだから却下でしょ。

 敵の大群を相手にする場合は便利そうだけどね。

 その場合は、私は歩くマップ兵器と化すわけだ――。


 ――色んな意味で危ない女になっちゃうねッ!


 まぁ、それはともかくとして、やっぱり体は鍛えておかないと駄目かな?

 何せ、烏の記憶を見た限りだとジャングルのようななかなかエグイ光景が広がっていた。

 あの環境に体力のない人間が適応できるとはとてもではないが思えない。

 私なら三十分でギブアップする自信がある。

 あんなの体を鍛えていなきゃ絶対に無理だよ!


「楓、良い体してるねぇ~?」


 ――というわけで、私は体を鍛えている先人の知恵を拝借する為に猫撫で声を出す。

 うん。我ながら気持ち悪い声だ。


「え……、か、楓にそういう趣味はないよ……!?」


 ちょっとちょっと! 私にだってそんな趣味は無いよ! こーちゃん一筋、十八年だよ!

 楓の勘違いを正す為に、私は少しだけ楓を揉む手に力を込める。


「お姉ちゃんにも、そういう趣味はないかな~?」

「い、痛い~!? ご、ゴメン~! 冗談だから~! だから、手から微弱な電流を流すのはやめて~!? バチってするから~! バチって~!?」

「うんうん、楓が聞き分けの良い子で良かったよ」

「…………」


 楓が無言の抗議を行ってくるが無視。

 そんなことよりも、私には聞きたいことがあるのだ。


「それよりも、楓は何か体を鍛える為に特別なトレーニングとかやってるの?」

「えぇ~? 何、急に~?」


 余程電気ショックが痛かったのか、涙ぐんだ瞳で見上げてくる楓。

 そして、楓はハッとしたように何かに気がついたようだ。


「あぁ、分かった~。おねーちゃん、痩せるためのトレーニング方法が知りたいんでしょ~?」


 え? 私は普通に痩せてるから、そういうの要らないんだけど?

 むしろ、こーちゃん好みになるには、もう少し肉感的っていうのかな? 少し太った方が良いみたいなんだよね。


「うんうん、分かってるよ~。そりゃあ、三ヶ月も部屋に引き篭もっていれば、運動不足で太っちゃうよね。だから、健康的に痩せる方法が知りたいんだ?」


 別に太ってはいないと思うんだけど……。

 楓にそう断言されると不安になってくる。

 もしかして、私は知らない内に太ってしまっていたのかもしれない。

 うーん、朝に身支度を整えた時には気付かなかったけど、少しだけお腹のお肉とかが気になってきちゃったよ。


「そんなおねーちゃんには、腹筋をオススメするよ~! お手軽にできるし、ちゃんとやれば結構負荷掛かるしね~」


 腹筋かぁ。

 確かに特別な器具も使わないし、お手軽にできる筋トレの筆頭だよね。

 後は、腕立て伏せだとか、スクワットだとかも簡単にできるのだと楓に教わる。

 というか、要は筋肉に負荷が掛かれば問題ないんだよね?

 だったら、全身の筋肉に刺激を与える感じで微弱な電流を流し続けたらどうだろうか?

 私は特別なことをしなくても、あら不思議。

 いつの間にか、太っていたらしい私の肉体も野生の獣のように引き締まった肉体に!


 うん。完璧だ。


 私はマッサージをしながら夢想する。

 というわけで、早速スイッチオン。

 おぉう、結構全身ビリビリくるけど、凄く筋肉使ってる気がする! これは効果ありそうだよ! むふふ、これでこーちゃんもビックリの羨まけしからんボディを作るんだ~♪


「お、お姉ちゃん? な、何かすっごくビリビリ来るんだけど~!?」


 ちょっと泣きそうな声で楓が私に体の不調を訴えかけてくる。

 どうやら、私の体内の調整にリソースを割き過ぎて手元が疎かになっていたみたい。

 でも、仕方ないね。こーちゃんのためだもの。楓には悲しき犠牲者になってもらおう。


「ゴメンね、楓……。貴女という犠牲があったことは今日ぐらいは忘れないよ……」

「物凄く軽く捉えられているんですけど~!? というか、そんな感じならマッサージとかしなくていいから~!?」

「それは、後で振り返り案件になるので却下します」

「義理堅迷惑過ぎぃ~!?」


 その後、楓の体のホルモンバランスを色々と弄ったりしながら、私は電波の出力を調整していったのだけど……。

 まさか、体の内部に低周波を掛けっぱなしにしていたことが仇となって、全身筋肉痛で三日もスリープモードになろうとは……。

 当時の私は考えもしないのであった。むむむ……。

割となんでも操れるゴッドハンド桐花さん。

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