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10、外部記憶装置ですから。

とりあえず、イグの体質改善(電波を操作できるようにする)を目標に、私はイグに何度も電波を通して、その感覚を覚えさせる。

イグの体はひたすらに巨大なので、私程度の電磁波ではなかなか回らず苦労しそうだ。

そもそも木は絶縁体なのに電波が通るのかって問題もあるんだけど、そこはファンタジー世界らしく、魔素が電波を伝えやすい物質らしく思った以上に電磁波も通るらしい。


そういえば、トナカイも頭蓋骨厚そうだったにも関わらず脳味噌茹でられたっけ。


魔素の影響は意外と大きいのかもしれない。


同時にこれは、私の電波がファンタジー世界でもかなり有効というわけで……。

 戦力的には確かに勇者と呼べるシロモノなんじゃないかなーと思える今日この頃である。


とりあえず、今はひたすら補助輪付きで自転車に乗るが如く電磁波を流すことを繰り返す。

 まずは電磁波を流すことに慣れてもらおう。

 そして、最終的にはこの異世界の情報を一身にやりとりする集中制御装置になってもらう予定だ。


 ……とはいえ。


 流石に最初の一歩だからといって、ずっと電磁波を流し続ける作業ばかりをするのも飽きる。


 なので、私はイグに頼んで、有用そうなイグの葉を貰って、電磁波を流すのと同時に真理の吸収にも努めていた。

とりあえず、今日は失せ物探しの真理を習得し、それを脳内デフラグ整理をすることでまとめる。

脳の容量には限りがあるので、効率良く使うためにも真理を得ると同時に脳内整理は欠かせないのだ。

しかし、それでも脳内容量が足りないと考える。

 欲しい真理など、それこそ山のようにあるし、あって困るものでもないので沢山欲しいというのが本音だ。

 そして、それを実現するには、どう考えても私ひとりの脳味噌では足りないだろう。(私が馬鹿なわけではない)


 だからといって諦めるのも嫌だ。


なので、私は一計を案じることにした。


「明日、私の友達を此処に連れてきても良いかな?」


日も落ちての帰りがけ、私は異世界の友人であるイグとシルフィにそう尋ねていた。

一人で覚えきれなければ、二人で覚えれば良いじゃない作戦である。


『良識のある方でしたら構いませんよ』

「シルフィは誰でも歓迎だぞ!」


というわけで割と簡単に許可は得られた。

それにしてもイグの森は妖精にとって聖域のようなものかと思っていただけに、この許可は意外である。


……そんな大事な場所じゃないのだろうか?


でも、知識と欲の王が幅をきかせている間も別地域に移動しなかったんだし、思い入れのある場所ではあると思うんだけどね。

その辺はおいおい聞いていけば良いかな?


ちなみにこーちゃんの固有電磁波は、こっちの世界に来てから、よりはっきりと拾えるようになってきていた。

けど、やはり無線エリアが確立していない影響か、場所が特定出来ないのが難点だ。

これは、いち早くイグに基地局をやってもらう必要があるね。


「それじゃ、今日は帰るね」

「うん、またねー!」

『またのお越しをお待ちしております』


二人の声を背に受けて、私は日本への転移を開始する。

あ、同じ場所に帰ってこれないのは嫌なので、きっちりとシルフィの固有電磁波を記憶する。

 イグはまだ電磁波に慣れてる状態だからね。仕方ないね。

まぁ、これで今後はイグの森に直通になるはずなので、細かいことは気にしないでおこう。

私は今日一日で得た成果にホクホク顔になりつつ、転移を行うのであった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 そして、やって参りました汐ちゃんのお家――。


 目的は勿論、汐ちゃんを明日の異世界旅行に誘うためだ。

 明日は土曜日だし、授業も半日で終わるはず。

 そして、私はいつも通りの未履修自由人。

 都合があえば、明日の午後には揃って異世界に転移できる条件が整うわけだ。

 そんなわけで、汐ちゃんのお家に誘いにきたのである。


「え? 明日の午後の予定ですか? 特にありませんけど」

「盛大な前フリをフイにするような突発イベントもなく、普通にお誘いに成功してしまう。流石、私」

「えーっと……?」


 一人悦に浸ってしまい、汐ちゃんは置いてけぼりのようだ。

 ゴメンゴメンと私は軽い調子で謝る。


「ちょっと、こーちゃんのことでわかったことがあってね。それを汐ちゃんと相談したいなぁって思って声を掛けたんだよ」

「お兄ちゃんの!?」

「とは言っても、まだ所在がわかったとか、そういうことじゃないんだけどね」

「そう、なんですか……」


 うん。異世界にいるのはわかっているけど、異世界の何処にいるのかまでは突き止めていない。

 その辺はイグのネットワーク化計画が成功してからになるだろうし、ぬか喜びはさせない方が良いだろう。


「それで、明日時間取れないかな?」

「午後からですね? 大丈夫です。お兄ちゃんのお話なら百二十パーセント大丈夫です!」


 力強く断言される。

 汐ちゃんの言葉って素直で純粋な言葉が多いんだけど、そこはかとなく残念臭が漂うのはどうしてなんだろう? やっぱり、学が……うおっほん。もしかして、イグの葉あげたら良い感じになるのかな?


 そんなわけで汐ちゃんとの約束は何とか取り付けた。

 後は明日学校でいつもの読書を行った後で異世界にでも行ってみよう。

汐ちゃんはどんな顔するかな? わくわく。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 何事もなく上手くいく……そう思っていた時期が私にもありました。


「ななななな、何ですの!? この麗しい方は!?」


 土曜の午前中、いつも通りの日課である怪物大辞典を部室で読んでいたら、何やら見たこともない人が変なテンションで部室に入ってきた。

 不審者かなと思って遠藤先輩に視線を飛ばすも、彼は真剣な表情のままにパソコンの画面から視線を動かさない。

 まるで、目の前の騒動が初めから映っていないかのように集中して作業しているようだ。

 何をやっているのだろうと思って後ろからパソコンの画面を覗き込むと、可愛らしい女の子キャラの絵が背景絵の背面となってしまっているようだ。

 あー、これはソースミスってるねー。やれやれ。


「ちょっと見せてもらって良いですか?」

「え? わわっ!? 遠加野さん!?」


 大変な慌てようだ。どうやら、私が背後から覗き込んでいた事にも気付いていなかったようである。


「何てことでしょう! 此処は私の癒やし空間というだけでなく、まさかの理想の百合の園であったなんて! 私感激に舞い上がってしまいそうですわ!」


 まぁ、あれに気付かないぐらいだもんね……。

 私にも気付かないわけだよ。


「えっと、見てわかるの?」

「まぁ、大体は」


 というか、こういうのは私の得意分野だ。

 はい。背景スプライトの設定を途中で人物を表示するための変数に代入しちゃって大惨事になってますねー。変数管理はきちんとしないと駄目だよー。分かりにくくなるしー。

 ちょいちょいと直して、遠藤先輩に返す。


「これでもう一回実行して見て下さい」

「あ、うん。…………。おぉっ! 直ってる! この短時間で遠加野さん凄いよ!」

「いえ、大した事では。……それよりもあっちの大した事を何とかして下さい」

「ムフフ……。見つけましたわ、ダイヤの原石! さぁ、私と一緒にナイアー&クトゥグアのコスプレをしましょう!」


 手をわきわきとさせながら近付いてくる危険人物。

 私はその脅威から隠れるようにして、遠藤先輩を盾にする。


「この人でなしめー、遠藤先輩に己の欲望の全てを叩きつけようだなんてー」

「ちょっと、ちょっと、遠加野さん押さないの! それに棒読み過ぎるよ!」


 慌てた様子でも、決して怒ることのない遠藤先輩は本当に良い人である。

 やがて、盾にしていた遠藤先輩を謎のハイテンション女に生贄に捧げたところで、謎のハイテンション女の動きが止まる。

 どうやら、遠藤先輩が謎の人を羽交い締めにしているみたいだ。


「ハイハイ、ストップストップ。西園寺さんもその辺にしとかないと新入生に嫌われるよ?」

「ハッ!? 私としたことが迂闊でしたわ!」


 ようやく自分の奇行に気付いたのか、西園寺と呼ばれた女性が動きを止める。

 でも、その瞳の鋭さは獲物を狙うそれだ。

 何故か私、完全にロックオンされているんですけど?(困惑)


「申し遅れました。私、当校二回生の西園寺涼花(さいおんじすずか)と申しますの。以後、お見知りおきを」


 スカートの裾を摘んで優雅な一礼。

 よくよく見れば、髪型も綺麗な金髪ハーフアップだし、服装もシンプルなモノトーン色のロング・マキシにカーディガンで中に長Tといった感じで品のあるお洒落といった感じだ。

 もしかしなくても、この人……西園寺先輩は良い所のお嬢様では?

 何となくそんな気もしたが、その割には平気で奇行に出ていたりもしたので気の所為だと思うようにする。


「一年の遠加野桐花です。西園寺先輩よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げる。

 私は長いものには巻かれるタイプなのだ。

 でも、私の道を遮るものなら引き裂いて通るタイプでもある。

 西園寺先輩が私の道を塞がないことを祈るばかりである。


「そ、それで……、桐花さんはゼクス・アウサヴェーザについて知っていたりします……?」

「ぜくす……? 何ですかそれ……?」

「あー、遠加野さんは聞かなくて良いよ。どうせ、いつもの乙女ゲーの話だろうし」

「ちょっと、遠藤さん? その台詞は聞き捨てなりませんわ。貴方だってギャルゲーはエンタメの覇王だーとか言っているじゃありませんか!」


 西園寺先輩の言葉にピクリと遠藤先輩の眉毛が動く。

 あ、コレ、何かマズイ奴だ。

桐花さんにもわかっちゃうレベルのマズイ奴ですよ。


「何を言っているんだい? ギャルゲーはエンタメの覇王じゃないか。むしろ、あれほど完成されたエンターテイメントはないよ。笑い有り、感動有り、涙有り……。しっかりとした物語を他人の想像だけに任せるのではなく、作り手のイメージを具体化して提示できるのも良い点だ。その当たりは漫画も一緒だけど漫画には音がない。五感を使っての感情の揺さぶりは本にはない利点だよ。それは映画も一緒だけど、映画は何よりお金が掛かるからね。作り手がどうしても限られてくる。その点、ギャルゲーは作成しやすく、広めやすいエンターテイメントとして注目されるべきだと思うよ。ただ未だにオタクのやるもので気持ち悪いという偏見が蔓延っているせいか、なかなか周囲に理解されないのが辛い点だけどね」


 うん。何かのスイッチが入ったかのようにペラペラ喋る遠藤先輩。誰オマ状態である。

 それにしても、こういう時はアレだね。

台風が過ぎるのを待つようにじっとしているのが……。


「確かにギャルゲーは素晴らしいですわ。低予算でありながら質の良いものはそこらの凡庸な映画よりも面白いですもの。ですが、作り手に対する敷居の低さが問題でもありましてよ。低コストで数を打ち、その内の幾つかが当たれば元が取れるという考えが制作会社に散見してみえます。ビジネス戦略としては正しいのでしょうが、その為に質の上下が激しいのも事実。結果、当たりと呼ばれるギャルゲーは数が少なく、クソゲーと称されるような程度の低い作品が横行しているのも事実。そんな荒野(あれの)にエンターテイメントの牽引性を求めるだなんて、遠藤さんの目はどうやら節穴のようですわね。その点、乙女ゲーはプレイヤーを引き込む為に質を高めているきらいがありますわ。バカみたいな物量作戦のギャルゲーとは根底が違いましてよ」

「それは単純にニーズがないだけじゃないか。ゲームをやる女子が少ないってことだよ。それを質の良し悪しと絡めるのはどうかと僕は思うね」


 何か口論が始まった。

 まぁ、私には関係ない話だし、どうでもいいや。

 さて、読書の続きとばかりに私は怪物大辞典を手にとって……。


「そんなことありませんわ! だって、今この部室の中だけで見ても女子の数の方が勝っていますもの! ゲーム好きに性別の偏差は少ないと思いますわ! ねぇ、そうですわよね! 桐花さん!」


 えー、そこで私を巻き込むの?

 そういうのは、当人同士でやってもらいたいんだけどなぁ……。

 とりあえず、曖昧な笑顔で「そうですねー」と汎用的な挨拶で誤魔化す。


「いや、そういうお為ごかしはいいんだよ。僕たちは遠加野さんの率直な意見を聞きたいんだ」


 そして誤魔化しが効かない遠藤先輩。

 なんなの、この人たち……。

 

 結局、私はギャルゲーが如何に面白いかから始まり、昨今のゲーム事情に対してまで無駄な知識を仕込まれることになる。

そして、いつの間にか西園寺先輩と遠藤さんから一押しのゲームをやってもらって、それで優劣を決めて欲しいと審判の役を仰せつかうという誰得の指令を出されてしまった。

え、何この状況……。(困惑)

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