星の森
あたり一面に続く草原。そのもっと先に天界と出会う山々は今にも天に包みこまれそうだ。雨上がりのせいか空気がとてもおいしそうに感じる。アーシャはゆっくりと丘の上まで歩いている。時々、そよ風が吹き、緑の草原をゆらす。少し疲れてきたら、空を眺め、また歩き出す。上へ進むに連れて大きい岩があちらこちらに埋まっている。そんなゆっくりとした時が流れている途中でアーシャは丘の上にたどり着いた。そこで目にしたものは忘れがたい風景だった。
夕日が山々の間から世界を眺め、あたり一面を金色に染めていた。まるでこの世界が今、生まれているみたいに。アーシャはその風景から目が離れなくなった。とても切ない気持ちになった。
「さあ、もう帰りなさい。大切な人達のところへ」
夕日はそう言っていた。
パッカパッカ...。馬が走る音がしている。目を覚ましたアーシャの隣には母さんが座っていた。もう日が暮れていて真っ暗になっていた。アーシャはあの風景を夢だと分かった瞬間がっかりした。
「おー、起きたかアーシャ」
男の人の声がした。アーシャは起き上がると馬車に乗っていることに気づいた。後ろに荷物が積んである。男の人は馬車の御者だった。
「ほら、アーシャ、おじさんにあいさつしなさい」
母さんがそう言うとアーシャは小さな声であいさつした。おじさんは嬉しそうに訊いた。
「いやー久しぶりだな~。今、何歳?」
「12よ」
アーシャの代わりに母さんが答えた。よく見てみると男の人は母さんの弟だった。
「最近、生活きつかっただろ?」
「それもそうだったけど、オリオがいてくれてそんな社会から今、こうやって離れられたじゃない。本当に感謝しているわ」
母さんとおじさんはそのまま話が盛り上がっていった。
ひまそうなアーシャは顔を上に向かせて寝転がった。木々の間から薄暗い夜空が見える。そこにポツリポツリと小さな星達が光っている。
すると一つの大きな星が空を浮遊していた。
「あれ、何?」
アーシャはびっくりして思わずおじさんに訊いた。
「あー、あれは蛍だよ」
オリオおじさんは単純に答えた。でもアーシャにはとても興味深いものだった。そのうち数が増えていって、いつの間にか森の天井を覆った。そこは、まるで宇宙だった。宇宙遊泳をしているようだった。
そう。そこは、星の森なのです。緑が育つ葉季の夜にだけ見ることができる小さな宇宙なのです。
アーシャは一つのことを不思議に思った。
なんで、大人たちは感動しないのだろう?