闇の中で
技術が発展すればするほど人間はどうなるのだろうか
「いいかい? よく聞くんだ。」
暗闇の中で誰かの声が響いた。
「...わたしは数理アンドロイド、ディオから創られた。同じ肉体をもっているのに人間でもない。鉄の体を持ったロボットかといえばそうでもない...」
そこは、夜のジャングルだった。ツタは全部電線、木々は全部鉄のパイプ...そう、機械のジャングルだ。そして、そこには小さな水色の灯火が輝いていた。
「そんなことに気づいたわたしは探し始めた、自分は何者なのかという問いの答えを...」
彼は腕から青色のホログラムを出した。そして、その上に五本の指をクモのように動かした。どうやらそれは、コンピューターのデスプレイのようだった。彼の手の動きが止まると、一つの画面がひらいた。そこには冒頭から
A: ji≫Jp ⇒ AΔB = (A∩B =∅)=0
A: ji≪Jp ⇒ AΔB = (A∩B =Ω)≥1 Ω≠∅
という数式をはじめ、いろいろな記号でうめつくされていた。
「わたしは、創られたときから数字を扱うのが得意だった。だから、出来るものから探りはじめた。」
ホログラムコンピューターは鮮やかなシアン色に輝いていた。
「何日もの月日を費やしこれらの数式を導いた。そして一つの真実を知ったのだ。わたしは、ただ数字を扱うために創られたということ。ただ、ただ、それだけのために... その時に胸が痛む不思議な感覚を味わった。わたしは 心 というものを持つようになっていた。そしてアンドロイドと人間の違いが初めて理解することにいたった。」
水色の灯火は踊るように揺らいだ。
「アンドロイドには、決して心は存在しない。だから心を持つ君達も人間らしく ...心を持つ人間らしく生きてほしい。」
軽く優しい声が闇に響いた。
しばらく沈黙が舞い降りた。
「残酷な戦争によって沢山の命が失われていく... 」
彼の隣には、若い少年が死んだように眠っていた。彼は少年の手を優しく握った。
「わたしは、いつ改造されてもおかしくない。だから、この子を君達に託すことにする。
この子は死の雨から逃れた生き残りだ。今は植物状態だが 」
ホログラムコンピューターは静かにシャットダウンされた。
「もしわたしが心をもたなかったらこの子は、戦場で死体として残っていたことであろう...」
彼はため息をついてから言った。
「戦はもうすぐ終わる」