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7〜対峙

「こんな時に、何ですが、一つお聞きしてもよろしいですか?」


「構わん。 何だ。」


 4人が歩いて来るのを魅せられた様に見ながら、兼田は竹崎に質問する。


「先程サイキック? ですか、イリュージョンと区別が付かない、とか仰ってましたね?」


「それが?」


「准将は、『あちら』でエンジェルに取り込まれた人間が居る、とも仰った。 大佐も嫌疑が掛けられていた。 警視とネゴシエーターの2名はこちらへ同行させなかった。 でも大佐だけは連れて来た。 で、今、大佐の部下が、仕掛けはどうだか知りませんが、無力化されてしまった。」


「面白い、それで?」


「大佐が奴らと弦んで、イリュージョン、というか芝居を打っている、たとえば部下にクスリを盛る、とか、そんな風には考えられないのですか?」


 竹崎はゆっくりと近付く『エンジェル』を見つめながら、


「大佐はシロだよ。 これではっきりした。 まあ、どっちにせよ、大佐を連れて来ない訳には行かなかったのでね、部隊の事もあるし。 シロだとはっきりした理由は、彼の部下が無力化されたのは方便でも演技でも、ましてやクスリのせいでもないからだ。 それが分かった理由については、まあ、中佐が調べたので、とだけ言っておこう。」


「中佐、ですか? あの?」


「そうだ。 中佐がどうやって調べたか、それは今は教えられない。 たとえ5Aでもね。」


「はあ。」


「さて、いよいよゲームの始まりだ。 よーく耳と目を使うんだぞ? サイは目晦ましをするからな。」


 まるで大小2組の双子が歩いて来る様な錯覚。 その印象は彼らが集落の広場に入って、『小』の2人がアノラックのフードを払い除けたことにより更に強まった。 2人の動作は合わせたかの様に同一で、その下から現れた顔もほぼ同じ、厳密に言えば一卵性双生児よりはお互いの特徴があったが、兄弟よりはそっくり、そんな感じがした。


 『小』の2人はそのまま、大佐が組む緩い円陣の前まで来ると止まる。 『大』の2人は、道が自然と広場になる、その入り口で立ち止まり、そのまま2人揃ってある一方向を見ている様子。 しかしその方向は、広場の方でなく集落を半円に囲む森の方だった。


「竹崎さん。」


 『小』の片割れが呼ぶ。 少々甲高く、良く通る声だ。 竹崎はドアを開け、外へ出る。 すると大佐の隣で、一人だけ銃を構えず、かなり大きいジェラルミン製のハードケースに入った機材から伸びるヘッドフォンを掛けていた兵士が、大佐に耳打ちする。 大佐は、


「クリアです。」


 と一言、これは竹崎に伝えた。


「皆、銃を降ろして下がりなさい。」


 竹崎は感情を感じさせない、平板な声で大佐に命じた。 大佐は右手を上げるとそのまま後ろを示し、すると兵士たちが銃を下げて、素早く広場の端まで散った。 広場の真ん中には竹崎、兼田に向かい合った『小』の2人が残される。


 その時、森から中佐が出て来て広場へと入って来た。 例の『大』の2人が、その動きに合わすかのように動き、やがて真ん中の4人から十数メートル離れたところで対峙した。


「もういい。 止めなさい。」


 『小』の片割れが言うと『大』2人は、すっと肩から力を抜いたかの様な仕草を見せて、両足を踏み変え、ずっと楽な姿勢を取る。 中佐もちらっと竹崎を見て、彼が頷くと『大』2人と同じ様に力を抜き、興味を失ったかの様な、無表情となった。


 その様子を見ていた『小』が竹崎の方へ向き直り、先程から話している方が、


「遅れて申し訳ありません、また、こちらの要望を容れ、こんな山奥までわざわざお越し頂き、感謝します。」


男は50代か、妙に印象が薄い顔で、格好を普段着に改めればもう、街中で見つけるのも困難になりそうだ、と兼田は思う。 本当にこれが凶悪集団のボスなのだろうか?


「社交辞令など要らん。 用件は?」


 竹崎は、あくまで容疑者を相手にする、という態度を崩さない方針の様だ。 『小』は肩を竦めると、


「では付いて来て頂けますか?」


「どこへ?」


「遠くではありません、すぐそこに座ってお話出来る場合があります。 ここは寒いですからね。 ああ、護衛の方たちもどうぞ。」


「何をほざく、先程ウチの人間を無力化したろうが。」


「それについては謝罪致します。 あなたがどういう態度で、我らにお会い頂けるのか分からなかったものですから。」


「で、わざわざ助っ人を『隣人』から借りた、と?」


 『小』は一瞬眉を潜めたが、表情の変化は僅かで、直ぐに元のにこやかなものに戻る。


「借りた? 何をですか?」


 竹崎は笑い出す。


「とぼけるのか? まあ、いい。 案内しろ、皆で付いて行く。 それはそうと、お前のことは何と呼べばいいのだ?」


「これは失礼しました。 よろしければミカエル、と。」


 確かに近くだった。 集落から10分ほど道なりに山へ、小さな沢に架かる橋のたもと、沢添いに登る山道を数分、一軒の平屋があった。 


 それまでの道もそうだったが、きちんと除雪がしてあり、その庭にはオフロードに強そうなバイクが一台、大きな切株に寄せて停めてある。 竹崎は半ば呆れて直ぐ後ろに続く大佐に、


「ここは当然調べた、ということだね?」


 大佐は当惑して、


「つい先程までここにはウチの者が2名いたのです。 昨日確認した時には家屋は閉まっていて、人の出入りは数年単位で無さそうだったのですが・・・。」


「なるほど。 すっかり目を眩まされたな。」


「申し訳ありません。」


 すると先程、爆発物や罠が無いか探知装置で探っていた兵士が、


「クリアです。」


 彼は重いジェラルミンケースを運んで来たせいか、汗をかいている。


「ごくろうさん。」


 竹崎は兵士を労うと、大佐を振り返り、


「あの家屋の裏、薪が束ねて重ねてある。 そこに2名、延びているそうだ。」


 大佐は、これこそ苦虫を噛み潰した顔をすると、後ろに続く兵士に助けるように命じた。 『エンジェル』の4人は、庭のバイクが置いてある切り株の周りに立っていて、脇を兵士たちが睨みながら擦り抜けても、無表情のまま、無関心な様子だった。 


 すると、兵たちが裏へ回るのとほぼ同時に若い女が一人、家の中から出て来て、ミカエルと名乗った男に何事か耳打ちする。 ミカエルが頷くと女は一瞬、何か迷う様な間を取るが、やがてミカエルの右腕に軽く触れ、バイクに近付くと切り株に置いてあったフルフェイスを被る。

 確かに女は黒いライダースーツ姿で、バイクに跨がると2度目のキックでエンジンを掛ける。 一旦降りるとエンジンが掛かったままのバイクを小道まで押して行き、小道で再びバイクに跨がると、ようやく太陽の温もりが感じられるようになった林間に、エンジン音を響かせてあっと言う間に去っていった。


「お待たせしました、中へどうぞ。」


 ミカエルが慇懃に手を家屋の方へ流す。 竹崎は大佐に頷き、兼田に付いて来るように言うと、ミカエルと瓜二つの男の後、家の中に入って行った。


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