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2/22

2〜展開

「来ました。」


 ネゴシエーターが頷き、警察の連中は受話器を上げ、逆探に備える。 部屋の中は静まり返り、呼び出し音だけが響く。 セブンコール待ってから竹崎自身が取る。 直ぐでも放置でもなく、かといって人を介さない。 こういう細かい所まで打ち合せ済だった。


「・・・」


「・・・竹崎か?」


 最初に相手から喋らせる。 相手が竹崎本人かどうかを確かめれば、相手に余裕はない証拠だ。 打ち合せ通りに事は進む。 


「そうだが。」


「中央区中央東郵便局私書箱624に、お前宛の郵便が入っている。 復唱はいらない。 録音を聴け。」


 切れた。


「新宿です。」


 警察組が色めき立つ。 次は新宿と山を張り、短時間で出来る限りの動員を掛けた。 彼らの出来る限りは、最大限と言っていい。


 所轄から本庁、武装警察、軍保安部、そして自治軍組織に、たまたま研修で新宿にある都庁に居合わせた、国家公安庁の首都圏公安部の新人まで、街に出て監視の網を張った。 彼らが高揚するのも当然、新宿駅を中心に半径2キロ以内の公衆電話は、企業内にあるもの以外全て監視下に置いたからだ。


 企業内にあるものも、その会社の保安組織に頼み、監視をさせるか一時的に使用出来ない措置を取らせてある。

 さすが夜警国家の端くれだな、と竹崎すら感心していた。 だが・・・


「何!該当しない、だと?」


 警部の一人が電話の相手、新宿の指揮を取る同僚に声を荒げる。


「そんな訳ないだろう? ・・・・・・え! ・・・分かった、引き続き捜査を頼む。」


 と、受話器を置くと、


「有人監視の第一報ですが、該当する番号の公衆電話はその時間、使われておりませんでした。」


「きちんとした人間が監視していたのかね?」


 陸軍の保安部から来ている中佐が、疑い深げに聴く。 すると警部は極力平板な声に聞こえるよう気を付けながら、


「該当場所を監視したのは、朝霞第一師団の保安部配下3名の方々ですが。」


 中佐もポーカーフェイスを保ちながら、


「なるほど、それなら確かだな。」


 予算から任務まで、ライバル関係や対立関係にある部署が、義務や命令で組まねばならないプロジェクトチームの弱点を垣間見せられた竹崎は、


「ご苦労さまだったな。 どういうトリックだったか、などと探るのは警察諸君に任すよ。 さて、どこぞやの中央区に私宛の手紙があるそうだ。 大阪や名古屋、いや東京や千葉でもいい、賭ける奴は居るか?」


 すると、


「札幌に賭けます。」


 武装警察から出向している、活きのいい髭面の男が手を上げる。


「君はギャンブラーだね。」


 竹崎は笑いながら、


「大穴狙いなら神戸や福岡もあるよ、カネダ君、といったか。 私は大宮の中央区に賭ける。 賭事は苦手なんでね。」


― やはりボスは狸、いや狡猾度から行くなら狐だな。


 態度の大きさと立派な髭から、『キング』、とあだ名される武装警察の男は思った。


― こりゃ『エンジェル』との駆け引きが見物だな。


 13分後。 大宮中央東郵便局の私書箱から、竹崎様、とだけ書かれた白い角4封筒が発見された。 その秘書箱の持ち主は、埼玉県某市市長の長男。 他に届いていた封書はアダルトビデオの注文書で、調べた捜査員には違法行為がプンプン臭った。

 後に、大掛りな猥褻画像販売容疑で長男が逮捕され、市長は辞職に追い込まれたが、肝心のエンジェルとの繋がりは一切見られなかった。 警察にとっては完全な余禄である。


 竹崎宛の封書は、爆発物の有無、危険物封入の有無(その頃、毒物を封入し、開封すると致死性のガスが発生する仕掛けが、テロ組織の間で流行っていた)を確認した後開封、便箋2枚に達筆で書かれた単なる手紙と言うことが確認された後、竹崎に届けられた。


「これは、私と奴らのトップが直に話しをしたい、話をしたら投降する。 そういう内容と理解したが。」


 尋ねられたのは、竹崎が執務室として宛がわれた個室に集められた5人。

 ネゴシエーター、警視庁の警視、陸軍特殊部隊の大佐、武装警察の少尉、それにTシャツの上に黒い皮ジャン、そして黒いジーンズ姿の30代後半の大柄な女だった。


「要約すれば、ですが。」


 一番年上の警視が答える。


「何か他に意図は?」


 するとネゴシエーターが、


「あなたに対し何か行動を起こすと思われます。」


「具体的には?」


「選択肢でいうなら可能性の高い順に、人質として拉致、報復として殺害か傷害、そして、洗脳、です。」


「ほう。 面白いな。」


「どれもお一人で事に当らなければ回避可能なものばかりですから、心配いりません。 但し、事前に彼らを厳重にチェックした後でなければ、たとえ護衛付きでも会ってはなりません。」


「自爆でもすると。」


「その通りです。 あなたを道連れに自壊的行動を起こす可能性もあります。」


「では私がこれを無視した場合は?」


「何か別の手段であなたと連絡を取ろうとするでしょう。 その場合、強硬手段に訴えてでも、と考える危険性が高いですし、完全に追い込まれて破壊活動に出る可能性も高いでしょう。 どちらにしても、今の状態の彼らが、危険であることに変わりはない訳ですが。」


「なら奴らが自我を保っている内に収穫すべきものは収穫する。 会おう。」


「向こうの条件通りに、ですか?」


 警視が疑い深気に聞く。


「そうでないと会っては貰えないのだろう?」


「まあ、それはそうですが。」


「一人では行動しない。 大佐の保護下で行動する。」


「ここに書いてある、『お互い邪魔の入らない静かな場所』、とはあちらだと、」


「シィ!」


 大佐が話を始めた所で、警視が警告した。 なるほど、ここには保安レベル最高度のFIVE-Aをクリアしていない人間が1人いる。


「出ていますか?」


 すごいメンバーの中、1人だけ違和を感じて極力小さくなっていたカネダが苦笑交じりに言う。


「いいや、居てくれ。 そもそも、そのために呼んだのだから。」


「でも、それでは皆さん、色々と話し辛いでしょう。 それとも、耳栓でもしますか?」


「耳栓などしなくていい。 君は今からFIVE-Aだ。 警視、記録してくれ。 警察庁重装備警察部隊所属、警視庁埼玉支部派遣カネダ少尉は、機密保護法第23条2項により機密AAAAAの保護指定除外を受ける。 任命者竹崎進、日付、時間、だ。」


「・・・書きました。」


「カネダ少尉。 君は警察に入る時、国家に忠誠を誓ったね。 その誓いに基づき、今後君が知る権利を得た、国家の機密事項につき、目にするもの耳にするもの一切を、口外または文書、その他記録に残さないと誓うか?」


「あ・・・ええ、はい。」


「では諸君。 以降このメンバーに秘密は無い。」


 立て板に水の竹崎の対応に、少々面食らったキング、カネダ少尉は、深く息を吸い込んだ。


「なんで私ごときをご指名で?」


「直裁に物事を言う奴が欲しいからだ。 奴らのような者を相手にしているとだね、どうしてもプロ中のプロばかりで組んでしまう。 プロは、深読みし過ぎて、目の前の当たり前が見えない時がある。 君は不遜な所が取り柄なんだろう? だから厄介払いとばかり君の上司が本プロジェクトに指名した。 直感で構わんから何かおかしい、と思ったら、君の捕り得を発揮して、何でも言いたまえ。」


「はあ。」


「フッ、まあ、いいさ。 済まんな。 大佐、続けてくれ。」


「アリスの穴クラブへようこそ、少尉。」


 大佐が皮肉っぽく言うと続けて、


「奴らの言う通り、あちらで会うのですか? 准将。」


「あちらの事を言っているのだろうよ。 中立地帯と言う訳だ。 ただし、奴らの方が良く知っている土地にはなるがね。」


「危険過ぎます。 私は責任負えませんよ?」


「君らは遠巻きにしているだけでいいさ。 あちらの連中が、嗅ぎ回らない様にだけして頂ければ良い。 エンジェルには充分に注意をするし、中佐を傍らに置いておくからね。」


 竹崎は、先程から足を組んで黙ったままの女の方を示した。



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