昔話
僕がフレイの村に住みだして一週間。冒険者生活で大量の金銭と新しい武器も手に入った。スキルは手に入らなかったけどネ。
生活も安定してきたことだし、そろそろこの異世界の事を調べ始めようか。
女将さんに挨拶をしようと部屋から出て、食堂に行く。するとこの村でよく見る赤い頭巾を見つけた。
「おにぃちゃんおはよー!」
「フレイよ・・・お前ほんと暇なのか?」
毎度フレイが僕を訪ねてくることを、宿の皆は知っているので、女将さんも朝ごはんを用意して待っている。用意がいいな女将さんや。
一緒にフレイとご飯を食べ、『妖精の庭』から出て本屋を目指す。
なお一緒に行動する時のフレイの定位置は僕の肩車である。
「わーい!たかいたかーい!」
そんなことを言いながら現在進行形で彼女は喜んでいるが、それでも平均的な中学生の身長で見る高さと大して変わらない。僕の身長140ぐらいだからそうなっているが、彼女の父親の方が明らかに高い景色を見せてくれるだろうに。
そうこうしてるうちに本屋に着いた。
「おお・・・!」
立ち込める古本特有のどこか甘く感じる匂い。床にこぼれたインクの跡。
趣味で小説を書いてるだけあって、元の世界では味わえない本屋の原点を見ているようでなんだか感動した。
「さて、さっさと目的の本を探すか」
まずは魔法について調べたい、そう思って魔法学のコーナーを調べていたら『魔法入門』という本を見つけた。どうやら『魔法とは何か』を説いている物らしい。まだ魔法を使えない僕はこれで十分だろう。
次に歴史について知りたかったので、昔話のコーナーに向かって本を探していると頭上のフレイが話しかけてきた。
「まほうのほんはないけど、むかしのほんはいっぱいおうちにあるよ?」
「本当か?」
「うん!」
「そうか、ならこの後フレイの家に行って探してみるか」
「はーい!」
この世界の本はまだ印刷技術が未発達のせいか、かなり高い、パンが一つ50ゴールドに対して本は安いものでも一冊5000ゴールド。意外なところで節約できてよかった。
☆・☆・☆・☆・☆
フレイの家は村の北側の入口に最も近い家だった。僕の宿は村の西端にあるから3km程度の結構な距離があるんだが、よく毎朝うちの宿来てるな?
「いらっしゃいませぇ~♪」
「どこの店だよ」
なぜかフレイの家は周りの家よりも少し豪華だった。
周りの民家が木の壁に対して、壁はレンガで出来ていた。
屋根は赤いペンキが塗ってある。
本は思ったよりもたくさんあった。その中から1つ昔話を選んで読んでみた。
☆・☆・☆・☆・☆
―――昔一人の『赤い頭巾の少女』がいた。
彼女には身寄りがなく、獣と話す能力を持っていたため、誰からも好かれることもなく、たった一人で暮らしていた。
暮らしは貧しかったが不自由はなく、友達もたくさんいたから、彼女は幸せな暮らしを続けていた。
だが、ある日大量の魔物が彼女の家の周辺に攻め込んできた。
首領は大きな『狼の魔物』、リスや鹿、終いには熊でさえ丸呑みにするほどの巨体を誇っていた。
少女は逃げた。彼女の友達である獣たちにかばわれ、涙を流しながら、靴が擦り切れ、足の皮が切れても逃げ続けた。
しかし敵は魔物、『魔女』の使い。彼女が逃れる術は無かった。
彼女は徐々に追い込まれ、狼の牙が彼女を襲うかと思われたその時―――
―――『白い髪の少年』が現れた。
彼は万の武器を使いこなし、魔物を瞬く間に殲滅した。
それでも『狼の魔物』は強く、彼でも追い払うのが精一杯だった。
彼は少女のもとに何人かの家来を『神器』残し、『狼の魔物』を追いかけていった。全ての根源、『魔女』を狩るために。
それ以来、彼女の一族は『巫女』と呼ばれ、人々に崇められた―――
☆・☆・☆・☆・☆
「ここでおしまい・・・か」
(『赤い頭巾の少女』に『狼の魔物』かまるで『赤ずきん』だな。)
『赤い頭巾の少女』はそのままだし、『狼の魔物』もおばあさんを喰った狼と考えていいだろう。
だが『赤ずきん』には『魔女』や『白い髪の少年』、『神器』は現れない。
それに『巫女』・・・守衛のオッサンもいつかそんなことを言っていたかな。
「最後に・・・『万の武器』ねぇ・・・」
偶然か、それとも必然か。まだまだ決めつけるにはまだ情報が足りない。とりあえずメモを取っとこう。タイトルはぼやけすぎてて分かんないけどな。
そう思いアイテムボックスから手帳とペンを取り出そうとしたが、手帳はあったがペンは見当たらなかった。
「あれ?ペンが無い」
「おにぃちゃんどうしたの?」
「ああ、書くものが無いんだ」
「そうなの?じゃあちょっと待ってて!」
そういってフレイがタンスの中を探り始めた。
・・・下着やら服やら女の子アイテムと一緒にナイフとか弓とかときめかないアイテムも出てきたんですけど、どう反応すりゃいいんだ・・・
やがて彼女は目的の物を見つけたらしく、手に木の箱を持って笑顔でこちらに走り寄ってきた。
「おにぃちゃんこれでだいじょーぶ?」
「んーどれどれ?」
中に入っていたのはどこからどう見ても万年筆だった。この世界にもあるんだな・・・。まあ筆記用具としては一級品だ。有難く使わせてもらおう。
「ああ、大丈夫だ。これ借りるな。」
「これおにぃちゃんにあげるよ?」
「いいのか?」
「くまさんのおにくのおれい!」
幼女から施しを受けるのも情けないと思うが、そう言われたら断れないな。
「分かった。大事に使わせてもらうよ」
「うん!」
彼女から貰った万年筆は思ったよりも使いやすかった。
そろそろ物語を進めましょう!




