戦乱の幕開け
――――それはいつも通りの朝のこと……
館に駆け込んできた一人の使者の伝達が戦乱の世の幕開けを告げた。
黄巾の乱。
中国全土にわたって荒れ狂い、戦国時代に突入したことをその使者は説明する。
―――そして今、俺達は軍議の際中。
ちなみに孫策は袁術に呼ばれ、本城にいる。
「問題はいくつかあるが、大きな問題が兵糧、軍資金、そして兵数の問題か……」
「まずは兵数ですね……袁術さんのことですから、本隊に私たちをあてるでしょうし。五千……頑張って一万ってとこですかね」
「少ないのぉ……それで本隊とあたるのは勘弁してほしいものじゃ」
陸遜の兵数報告に、不満を募らせる黄蓋。
いくら黄巾党とはいえ油断は出来ない、いくらこちらの兵が優秀だったとしても数で押し切られてしまえば、こちらの被害はおのずと大きくなる……か。
ふむ、策がないというわけではないが果たしてこれがうまくいくのやら。
「兵量も同じだ。今我らの金子は多いわけではない。なるようになるしかないな」
「うーん。どうしましょうかねぇ~?」
「時雨、何か良い案はないか?」
唐突に俺に話を振る周瑜、とりあえず俺は今思いついている案を話し始めた。
「まずは兵糧と軍資金の問題だが……これに関しては袁術に出してもらうのがいいだろうな」
「ほう? またどうしてだ?」
「簡単なことさ、袁術が俺達を本隊にあてるということは自分達の損害を少なくしたいからだ。ただそれは俺達も同じだ。だからここは俺達が本隊を撃破することを条件にその他は袁術に負担させればいい。ま、要は等価交換ってことだ」
「拒否されたらどうする?」
「俺達が南の分隊を撃破すればいい。仮にだ、俺達が本隊を撃破しようが分隊を撃破しようが、袁術が何もしないということは考えにくい。仮にも太守だ。俺達が手柄をあげれば、太守として顔に少なからず泥を塗ることになるだろう……それを引き合いに交渉出来れば、おのずと結論は見えてくる……ただあくまで仮定の話だ。俺達が何も得られずに本隊と当たる可能性もある。だが交渉はしてみる価値はあるだろう。面倒かもしれんがな……」
「なるほどな。我らの現状ではそれが得策といったところか……時雨の案を採用しよう」
言ってみるものだな。
仮にもここにいるのは呉の名軍師の陸遜伯言と周瑜公謹だ。
俺が出した案も、頭の片隅に考えていたことだろう。
もう一つはボイコットして、袁術に軍を出させるっていう案もあった。しかしこの策を行うと、袁術は太守らしい働きを見せるものの、こちらのメリットはない。
たかが賊だといっても侮るなかれ。
塵も積もれば山となる
小さな成果でも積もればってことだ。
だから何としても交渉をこちら優位に進める必要がある。
――――黄蓋が使者を呼びつけ、孫策への伝令を伝えている。
つまりは交渉役は孫策だが、正直若干不安だ。
普段の袁術に対する態度を見てると、南海覇王を抜くというイメージが想像できてしまうあたり、間違いないだろう。
「どうした周瑜?」
先ほどからじっと俺の顔を見つめている周瑜が気になって、思わず言葉に出る。
……何か変なものでもついているのか?
「いや、雪蓮の言う通り、案外な拾い物だったと思ってな」
「そりゃどうも」
「で、だ。時雨、お前も出陣しろ」
「……分かった。俺でいいなら出陣しよう」
「ふむ、お前の未来の話を聞く限り、人を殺めることは少ないと聞いたが……ずいぶんあっさりとしてるんだな」
「未来は未来、今は今だ。かつて俺はそういう世界にいたが、今いるのは戦乱の世だ。割り切らないとどうしようも無いだろう。それに策を立てたのは俺だしな」
――――目をそむけてはならない、俺の策が敵の目を欺き、そして敵を仕留める。
それを受け入れなければいけない。
俺が今までして来たように、相手の死という真実から逃げることなんて出来ない。
例えどんなに恨まれようとも、俺が孫策に忠誠を誓った時から、この運命決まっていたのだから……