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淡い砂糖の甘み



―――――袁術を追放した後、すぐさま城下町の治安維持にあたり整備を図った。ここ数日間の忙しさは以前の非ではなく、とてもじゃないが睡眠時間を削るおえないほどの忙しさ。


袁術がいなくなったことではじめはここの治安整備はどうするんだと不安を抱えていた民も、ここを統治するのが孫策だと知り大いに喜んでいたという。


これに孫策も、ようやく母様の悲願を達成することが出来たとホッと胸を撫で下ろしていた。周瑜がいたらこんなことで胸を撫で下ろされても困るなんて言われそうだけど、少しぐらいは良いんじゃないかなと思ってしまう。


彼女にとって屈辱的であった袁術の配下から開放されたわけだ。


だからちょっとくらいは肩の荷を降ろしてやっても良いだろう。少なくとも、俺は孫策のことをしっかりと見守ってやりたい。











「ん……」



そんな政務に明け暮れた毎日が続くある日のこと。


丑三つ時に急に目が覚める。


俺を目覚めさせた理由は生理現象、人間としては当たり前のように起こる現象のため、自身の力ではどうにもならなかった。


布団から起き上がり、館内にあるトイレへと向かう。


最近夜は肌寒い。もしかしたらそれが原因で身体が無意識に冷たくなってしまったのかも。


とは言うものの、解決策があるとするのなら厚着をして寝るという手段しかなくなってしまうわけで。でも逆に厚着しすぎると汗をかくし、汗をかくと寝苦しくなって反射的に布団を取る。


すると結局は身体が冷えてしまうし、最悪風邪を引くこともある。


これに関しては我慢するしかなさそうだ。エアコンとかそれ類の便利な温度調節機器があるわけではないし。


結論を言えば寝る前の水分は最低限にして、必ずトイレに行ってから布団に入ってくださいってこと。


小学校の時よく言われたな、そんなこと。





駆け足でトイレを済ませて、急いで自室に戻ろうとしたときだった。



「……ん、明かり?」



 帰り際に並んでいるドアの一つから光が漏れている。こんな明け方に何をしているのだろうかと思いつつ、そっと部屋のそばへと歩み寄る。周りは他の兵士達の部屋になっているために声を出すわけにも行かない。


かといっていきなりノックして部屋に入るのも気が引ける。


さて、どうしたものか。



……どうしたものかじゃなかった、そもそもこの部屋が誰の部屋なのかも分からないというのに入るわけには行かない。


万が一甘寧の部屋だったりしたら俺の命に危険が及ぶ。いや、もちろんそこまでは行かなくてもそれ相応のことにはなりそうだ。


あーでもない、こーでもないとその場で考えていると、ギギッと音を立ててドアが開かれる。


……まずった、音が聞こえていたのか。


とはいえ今更逃げるわけにもいかない。それにもしも本当に甘寧の部屋だったとしたら逃げたら後でどうなるか分からない。腹をくくって中から出てくる人物を待つ。



「……あ、飛鳥様!?」



「……呂蒙だったか」



ホッと一息つきながら胸を撫で下ろす。いや撫で下ろしたからどうかなるって訳じゃないけど、いきなり襲われるってことはなさそうだ。


しかしこんな遅くまで一体何をやっているのか。



「も、申し訳ありません! もしかして起こしちゃいましたか!?」



「いや、そんなこと無いよ。俺の方こそ音立てちゃったか?」



「あ、いえ。何か入り口から誰かが見ている気がして……そしたら……」





俺がいたってことか。


確か呂蒙って小さいときから戦場に出て育ったって言ってたっけか。だとしてもドアの前に無音でいる気配をそう簡単に察知できるものなのだろうか。


少なくとも俺はなるべく音を立てないようにドアの前に立っていたつもりだし、まさか気が付かれるなんて思っても見なかった。


もしかしたら俺が思っている以上に、呂蒙という人物はすごい人物かもしれない。いやむしろすごい人物か、史実じゃ関羽倒しているし。


……とはいえ、いくらすごいといってもこんな時間まで何かしているのはいただけない。ただでさえ、今は毎日が忙しいというのに休めるときに休まなければ身体を壊してしまう。



「なるほど……で、こんな遅くまで何やってたんだ?」



「その少し勉強していまして……」



「勉強……?」



入り口から呂蒙の部屋の中を見てみる。確かに机の上にはいくつもの兵法書やら参考書が山積みにされていた。


……まさかとは思うけど、この量を毎日勉強していたわけじゃないよな?



「私は本来無教養な人間ですので……」



 物心付いたときから戦場に立っていれば確かに勉強する時間なんてのは少ない。ましてや呂蒙はずっと下官として国に使えてきたことを考えると……いきなり孫策、孫権直属の部下ともなれば教養は必要になってくる。


この時代は文字を読めない人間も多い。彼女なりに必死になってやっているんだろう。


俺達が見る十分でも、彼女にとっては不十分だとそう感じているのか。



「うーん……」



 正直困った。呂蒙は頑固な子だし、俺が少し休息を強要したところではいそうですかと応じてくれるとは考えにくい。


……ということはだ、勉強という意味で外に連れ出すのもありかもしれない。


独立してからというもの、書類整理が基本となっていた俺の仕事はそれにプラスして、街の警邏も担当するようになった。これには少しでも俺という存在を民に知らせるためっていうのもあるらしいが、俺もたまには手伝わないと人がいないため。


警邏に出ているのは、独立以前から孫策に仕えている兵たち。独立後……つまり元々袁術の傘下にいて、袁術追放後に孫策に仕えた兵達はまだ警邏に出さしていない。


その理由は厳しい訓練により、孫呉に完全なる忠誠を誓わせるため。


つまり袁術への忠誠が抜け切っていない今、表に出すのは少しリスクを伴うということ。


例えていうなら、江戸時代にあった譜代大名と外様大名みたいなもの。江戸に近いところに譜代大名および御三家を置き、遠く離れた領土に外様大名を置く。


ようは垢を抜けさせてから、表舞台に出そうという魂胆って訳だ。


領土が広がったけど、使える人数が以前のままだから人が少し足りず、代わりにたまに俺が手伝うってことに落ち着いた。


別に毎日そんなことがあるわけではないし、警邏の当番のときは俺の政務の仕事を減らす配慮はしてくれてはいるため、特にこれといった不満も無かったりする。




……話がかなり脱線したな。


結論をいうとその警邏に呂蒙も連れて行こうという算段。


別に名義上は仕事な訳だし、俺が普段どんなことをやっているか知ってもらうってことで。


もしかしたら呂蒙もこれから先体験することかもしれないし。



よし、そうと決まれば早速提案してみるか。




「とにかく、この忙しい中毎日こんなことを続けてたんじゃ身体持たないぞ?」



「う……でも、私はもっと勉強を……」



「分かってるよ。だから明日は俺についてきて勉強してもらおうと思っている」



「へ……はひっ!!?」



「そんな驚くことじゃないだろ。呂蒙も近いうちに同じ仕事をするようになるかもしれないし、たまには人の仕事を見て勉強っていうのも良いだろう」



「そ、それは確かに嬉しいんですけど……め、迷惑ではないでしょうか?」



「全然。……むしろ身体を壊されるほうがあれかな」



「あぅ……」



顔を袖で隠す。


何か恥ずかしがると絶対に反射的になるよな呂蒙の場合。


……彼女がどれだけ努力したのかは孫権からも聞いている。元々彼女は眼鏡をかけていなかったのに、ここ数ヶ月で眼鏡をかけざるおえなくなるほど視力が落ちたということも。


その努力が彼女がここにいることが出来ている一番の要因か。期待しているとはいえある程度の学が無ければ軍師という大役を任せられるものではない。



「というわけだから今日はゆっくり休め。女の子が夜遅くまで無理するものじゃない」



「は、はい……」



渋々といった表情で参考書を閉じていく。



「午後から回るから、時間になったら迎えに行くよ。今日はもうゆっくり寝てくれ」



「あ、はい……明日……」



「じゃあな、おやすみ」



「お、おやすみなさい……」



パタリと呂蒙の部屋のドアを静かに閉める。


ちょっと強引過ぎたかと思いつつも、呂蒙が女性だと考えると無理をさせたくないという気持ちになってしまう。


お前が言うか、なんて言われればそれまでなんだろうけど……別にいいよな?


特に俺の周りには無理をしがちな子が大勢いるのだから、たまには気を抜いてもいいのではないかなんて思う。もちろん気を抜くってのはサボるってことじゃなくて、力を抜くってこと。


名前言うなら孫権とか周泰とか。後は俺の隊の張楊とかな。


逆に言うともう少しちゃんとやってもいいんじゃないのかってのもいるけどな、あえて名前は伏せるけど。皆すぐ分かるだろう。



……おい、今俺を想像したやつ。後で日本刀で素振り1000回だから覚えとけよ。




そんな冗談はさておき、俺も部屋に戻るとするか。


呂蒙のことを散々休めって言っておいて俺が休まないんじゃ示しがつかないし。


じゃ、ゆっくり休むとするか。









―――――――…








次の日の正午過ぎ。


無事に政務を終わらせて俺は待ち合わせである城門に向かう。


呂蒙のことだ、多分指定した待ち合わせの時間よりもかなり早く来ていることだろう。一応想定内のことだからそれよりも早い一時間前に出てきた。


だから抜かりは無いはず。


……自分で言うのも何だが、意気揚々と城門へと向かった。










「あ、飛鳥様! こ、こんにちは!」



「え、あ、あぁ……」



……ちょっと待て、今一時間くらい前で間違いないよな。


俺が時間を間違えているって可能性もあると思ったけど、どうやらそんなことは無いみたいだ。一瞬俺が完全にミスって予定時刻に遅れてしまったなんて可能性も考えたけど違った。


ってことは。


呂蒙がきたのは俺が来るはるか前に来ていたことになる。


ナニコレ? 待たせないためにはもっと早く行けと?


……分かった。次からは二時間くらい前に行こう。次があるかどうか分からないけど、次があったとしたら行ってやろうじゃないか。



「じゃあ行くか。まぁ俺が普段やっていることだけど……」





二人で城を出て、街を回り始める。


教えることは大まかな流れ。呂蒙も警邏をやったことはあるだろうから、俺が警邏する上で注意する点とか出会う人々に接するときに大事なこととかを教えていく。


特に呂蒙にとって重要なのは後者。


 元々人付き合いが苦手といっているくらいだから、これからの呉を背負っていくためにも解消してもらわないと困るって言うのが本音。ただすぐに直るものではないからなるべく多くの人と接して自然的に直していくしかないっていうのも事実。


慣れた人間にこそ心を開いてくれるものの、警邏で出会う人間は初対面の人間ばかりだ。


道を聞かれているのにまともに答えれないようじゃ話にならない。


軍師とはいえ、こうやって町に出る機会はあるだろうし。


誰かがいないと恥ずかしくてなんてことは……


………いや、まぁ女性だったら許すかもしれない。


んで、警邏のときにトラブルなんかがあった場合……特に喧嘩やら争いやら武力行使が絡んできた場合。


正直配属されたばかりの新人なんかはこれになかなか慣れないって者も多い。本気でやればいいって訳でもないし、逆に手を抜きすぎたらこっちが被害を受ける。



ただ正直、俺はこの問題に関してはさほど心配はしていなかったりする。


小さいころから戦場に出ていたみたいだし、騒動の鎮圧は多分無事に出来ると思う。


そもそも騒動自体がそんなに頻繁に起こるものじゃないから。


だから心配なのが人付き合いってこと。


孫策……までは行かなくても孫権くらいに出来れば全く問題ない。後は別の路線を行くとするなら甘寧か。あっちは逆に怖すぎて人が何も聞けないって方だろうけど。


ま、何とか勉強しつつ慣れていって欲しいものだ。



「あーーーーーすーーーーーか!!」



「えっ……うおっ!?」



後方からまるで野球でランナーがキャッチャーに体当たりでもするような衝撃を受ける。いや、実際そこまでの衝撃は無いけど。


不意をつかれて突き飛ばされた俺は二、三歩前に出ながらも転びそうになるのをこらえる。


……こんなことをする人物は二人、でもあたった時の体格的に考えて候補から一人は外れる。となると残る候補は一人。



「こんなところで何やっているの? 飛鳥、それに亞莎も」



「後ろからは危ないだろう……尚香」



「小蓮様!」



「大丈夫♪ 飛鳥なら転ばないって思ってたから!」



「そういう問題じゃないだろう……」



はい、容疑者一名確保。


やっぱり俺の思ったとおり、ぶつかって来たのは尚香だった。


これといった悪びれもなく、ニコニコと笑顔を見せる。次からスピードを緩めなさいって言ったところで絶対に聞かないだろうし。むしろ男がそんな小さなことでめそめそしないのくらいに言われそうだ。



「それで何してたの?」



「あぁ……呂蒙に警邏のこととか色々教えててな。一応軍師希望だけどこういうのも教えておいたほうがいいかなって思って」



「そーなの? だったらシャオも一緒について行ってあげるー♪」



「へ?」



遊びに行くのと勘違いしてないか尚香……


何かもうすでにルンルン気分だし、呂蒙は呂蒙でなぜかオロオロしているし。


果てしなく不安になってきたぞこれ……


本当だったら一応仕事上のことだから断るところなんだけど、断ったら断ったで後でメンドクサイことになりそうだし、どうしたものか。


まぁ正直なところ、呂蒙が連れて行ってもいいって言うのなら俺は別に連れて行ってもいいんだけど……



「いいか……呂蒙?」



「はい、大丈夫ですよ」



「何か悪いな……」



折角休息も視野に入れてこうして回っているのに、それを潰してしまう感が否めない。



「こうして飛鳥に教えてもらっていることが、参考書などで知ることが出来ないことばかりですごく為になっています。だから小蓮様が一緒でも全然問題は無いです」



「そこまで言われると、何かこっちが恥ずかしくなるんだけどな……」



「え……あ、その……あぅ」



再び顔を赤くして俯いてしまう。そんな様子をニヤニヤしながら見つめる尚香。何かもうそのからかう視線が孫策そっくりだ。


別に悪意は無いからいいんだけど。



「少し人数増えちまったけど、続き行くか」



「は、はひっ! よろしくお願いします!」



「しゅっぱつしんこーーー!!」







人数が少し増え、かなり賑やかになりながらも無事警邏を終えて館に戻った。


途中で『手をつないでいい?』とか『あそこいこうよー』などと尚香にしばし振り回されまくっていたのはご想像のとおりだったりする。


ある意味本当に休休暇をとった人間っぽいことをしていたわけだけども、呂蒙も結構喜んでくれていたしよかったのかなと思う。むしろ遊びすぎたとも思えるくらいに。


ただ呂蒙にとっていい気分転換になったかなと







―――――館に帰って夜、俺は夕飯時に食堂の者に作らせていたものを持って、再び呂蒙の部屋の前まで来ていた。


とはいえ今日はそんなに長居するつもりはないし、すぐに部屋に戻る気でいる。


あくまで目的は差し入れしに行くだけ、特にこれといったことはない。あるとするのならあまり無理をしないように言うことくらい。


意を決してドアをノックする。




「……あれ?」



部屋にいないのか、ノックをしても返事が無い。


……それとも集中しすぎていて全く気が付いていないとか。


ありえるかもしれない。


申し訳ないと思いつつも、部屋のドアを少し開けて中をのぞく。



「………」



そこにいたのは机に向かい、参考書とにらめっこをしている呂蒙の姿だった。


昨日こそ俺がドアの前にいたことを察知したものの、今日はそれに全く気が付かないほどの集中振り。素直に脱帽してしまう。


邪魔をしないようにその勉強する様子を見守る。


サラサラと筆を走らせながら文字を書いていく姿があまりにも絵になってしまい、思わず見とれていたって言うのは別の話。


そんな状態が十数分ほど続いた後、ちょうど区切りがよくなったのか。参考書から目を離し、疲れた表情で自分の肩を叩く。俺が来る前からずっと勉強していたのかと考えると相当長い時間集中していたに違いない。


んーっと背筋を伸ばす呂蒙に近づき、労いの言葉をかけてやる。



「お疲れ、呂蒙」



「あ、あああああ飛鳥様!? いつからここに!?」



「ついさっきだ。返事が無かったから勝手に扉を開けたけど、ちょうど区切りがついたみたいだから」



「そ、そうなんですか……」




まさか勉強している姿をしばし眺めていたなんていえるわけが無い。


このくらいの嘘は許して欲しい。



「あ、の。それで、何か用があるのですか?」



「ん、頑張っている呂蒙に差し入れをと思って」



「差し入れ……ですか?」



「そ、差し入れ」



自分の背中に隠していた包みを呂蒙に渡す。城内では結構皆が食べているから喜んでくれると嬉しいんだけど……


呂蒙は恐る恐るその包みを開いていく。



「これは……」



「ごまだんご、もしかして好きじゃなかったか?」



「いいいえっ、そういう訳では……」



「?」



もしかして食べたことが無かったりとかするのか?



「……あ、あの、昨日もお話しましたけど……


私は幼いころから戦場で育ちましたので、こういった甘い菓子の類にはあまり縁が無いのです」



「あ、そうだったのか」



「はい。本来砂糖は高級品ですし」



「なるほどな……」



言われてみればそうだ。確かに砂糖は高級品だし、街に出ても食べている人を見たことはない。


日が浅い呂蒙が食べたことも無いって言うのは、無理も無いか。



「ま、食べてみな」



「は、はい……なんだか、ドキドキします……」



大げさだなと思いつつも、初々しいなとも思ってしまう。



「砂糖は手軽に栄養補給できるからな……頭を休めるのにもちょうどいい」



「はあぁ~、勉強になります」



すると再びごまだんごを見つめながら興味深げな視線を送る。


どこと無く疑問を持ちつつも、意を決して手に取った一つを口の中へと放り込んだ。



「んっ……むぐ、もぐもぐ…………おいしい」



「そりゃよかった」



「はいっ! とてもおいしいです!!」



笑顔がまぶしい。


そんな言葉が似合うくらいの笑顔だった。


おいしい食べ物は人を笑顔にする、どうやらこの言葉は満更嘘ではないらしい。



「香ばしくって、もちもちしてて、甘くって……こんな美味しいもの、私初めてです……!」



喜んでもらえて何より、持ってきた甲斐があるというもの。


もぐもぐと、差し入れたごまだんごを口の中へ運んでいく。



「そんなに美味しかったか。なら今度、呂蒙にも作ってもらいたいものだ」



「ふぇ……私にですか?」



「ああ、いくらでも待つよ」



ここまで美味しく食べてもらったのだから、これを機会にぜひ、呂蒙にもチャレンジして欲しいなんて思ってしまう。


別に無理強いをするつもりもないし、機会があればっていう段階の話。



「が、頑張りますっ!」



「ははっ、そうか。……じゃあ俺はそろそろ戻るから。ほどほどに頑張ってくれよ」



「は、はい! ありがとうございました!!」



俺は呂蒙の部屋を後にした。









――――――亞莎 side―――――



「ん、もくもく……」



私は飛鳥様が持ってきてくれたごまだんごを全て食べ終わった。


ふと思ってしまう。どうしてここに来たばかりの私にあれだけ優しくしてくれるのだろうと。


私は飛鳥様に嘘をついた。


飛鳥様が扉を叩いた音は気が付かなかったものの、その後に飛鳥様が入って来たことには気が付いていた。


でもちょうど書いている文が途中で、途中で立ち上がるわけにはいかない。だから反応することが出来なかった。


そんな私に声をかけるわけでもなく、飛鳥様は長い間私が文を書き終えるまで待ってくれていた。


終わった私にかけてくれる労いの言葉が嬉しくて、心の中がすごく晴れやかになった気がする。


昼の警邏の時もそうだ。


常に私のことを気を使ってくれて……


小蓮様がきた時も、身分なんかがはるかに違う私にも気軽に接してくれて……


心がすごく暖かい。


無意識のうちに、飛鳥様のことを想像してしまう。






"呂蒙にも作ってもらいたい"






今日はじめて食べたごまだんごに舌鼓をうっていた私に、ぜひ作ってもらいたいと言ってくれた。


私は飛鳥様の期待に応えたい。


自分が始めて作った料理を


美味しいっていってもらいたい。


それしかもう頭の中に浮かんでこなかった。


今はまだ未熟な私ですが……


いつか必ず


飛鳥様に美味しいって言ってもらえるようなごまだんごを作ってみせる。



新たな目標を胸に誓った。



――――――亞莎 side end―――――

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