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交渉


劉備陣営に使者を出した後、俺達は劉備陣営へと向かう。メンバーは俺、孫策、周瑜の三人。


使者を出したとはいえ、見ず知らずの者を陣地に入れるというのは抵抗があるというもの、その相手がお偉いさんだとしても、顔を知らなければ通そうとは思わない。


案の定、劉備陣営に足を踏み入れようとした時だった。




「待て! お前たちは何者だ? なぜ我らの陣に入ってくる?」



入ろうとした矢先、陣営の前に立っている女性の二人のうちの一人に止められる。


彼女達から見れば、俺達が反董卓連合に参加している諸侯だと分かったとしても不審者だ。当然といえば当然なんだろうけど、それに負けじと周瑜も言い返す。





「控えろ。こちらにおわすは我らが呉の盟主、孫策様だ。……人を訪れることは先触れの使者から伝わっているはずだが?」





こちらにおわすってどこかの時代劇番組で使われそうな言葉だな。印籠見せた後に、頭が高いみたいな感じの番組。


柄にもない様付けで孫策を立てる。


それは相手が相手だからだろうが、いつもの周瑜と孫策のやりとりを見ている俺には、若干違和感を感じてしまう。




「あぁ、貴方が江東の麒麟児か……」




「なにそれ?」




「孫策のことをみんなそう呼んでいる。……知らないことには……まぁお前だしな」




「へ~、私ってそんな風に呼ばれているんだ」




「貴方の勇名は大陸中に響いていますからね」




「お姉ちゃんかっくいいのだー」




「あははっ、ありがと。……でもそういうあなた達二人の名は?」




「我が名は関羽。字は雲長」




「鈴々は張飛なのだー」





なるほど、この二人が関羽と張飛か……史実に残されている人物とはやっぱ全然違うな。


二人とも三国志では有名な武将。高い武力をもち、劉備との桃園の誓いを交わしたことで有名。





「貴方達が関羽ちゃんに張飛ちゃんなのね。……ねぇ、劉備ちゃん居る? ちょっとお話したいから呼んで欲しいんだけど」





―――茶番は抜きにして、ここからが本題。


手を組むための交渉をするために劉備を呼ぼうとする。目的は最初に言ったし、大丈夫だよな。





「呼ぶことは構いませんが……一体どのような御用件でしょうか?」






にこやかな笑顔を浮かべる関羽。


一般世間では当り前の切り返し、しかし関羽のその表情の裏には濃度の高い警戒を隠しながら観察していますという本音が隠れているのが丸見え。


ストレートに物言いせず、本音を隠して動くっていうのは孫策が最も嫌うパターン。


その見え見えの探ろうとする態度が、孫策の逆鱗に触れてしまう。




「……下がれ下郎」




「なにっ!?」







案の定、孫策はキレてしまい、それに対して関羽も突っかかる。


やれやれ……






「我は江東の虎が建国した孫呉の王! 王が貴様の主人に面会を求めているのだ。家臣である貴様はただ取り次げばよい」




「何だと……っ!?」





孫策が南海覇王を、関羽も自分の武器を引き抜こうとした瞬間、俺は刀を抜き、関羽の首筋に峰うちの部分をあてる。


柄を返せばすぐにでも息の根を止められるぞ、と言わんばかりに。


関羽が主を守ろうとする意識があるように、その意識は俺にもある。


……本音を言うと、孫策もからかっているだけだろうけど、側近の俺が主のピンチに何もしないのもな、向こう側は本気にしちゃってるみたいだし。





「そこまでにしておけ関羽、我が主に危害を加えようとするなら、このまま貴様の首を跳ね飛ばすまでだ」



「くっ……!」





少し殺気を出しながら、関羽に牽制を入れる。


……実際関羽は孫策のからかいに気が付いていないし、俺の殺気が本位のものではない、ということにも気が付いていない。


完全に本気にしてしまっている。あくまで俺の牽制は、万が一ということ。




その硬直状態が少し続き、やがてバタバタと足音が聞えてくる。


―――どうやら、誰か来たみたいだな。





「愛紗ちゃん! どうしたのっ!?」




「何だ何だ!? どうした愛紗!」




「ご主人様に桃香様……」





「愛紗と孫策お姉ちゃんのとこのお兄ちゃんがちょっと喧嘩したのだ。でもお兄ちゃんは本気じゃなかったから二人とも心配しなくてもいいのだ」





―――ほう、本気じゃないと見破ったのか、今のを。冷静だから見破れる訳ではない、それは一定以上の戦闘勘による気配察知がなければ見破ることはできない。


……妙齢だが、この子はこの年でそれを察知できる能力を持っているということ。大したものだ。





「あら、飛鳥が本気じゃないってどうして分かったのかしら?」




「刀を首筋にあてているのに全然殺気が感じられなかったのだ。それに本気でだったら愛紗は今頃やられてるのだ」




「ほぉ、大したものだな」




刀をしまいながら、俺は張飛の方に向かって声を掛ける。




「えへへー♪ ……愛紗、武器を収めて下がってるのだ」




「くっ……分かった」





 関羽は張飛に諭され、武器をしまいながら一歩後ろに下がる。

あれか、関羽は感情的になると思った以上に冷静さを保てないタイプなのかもな。現に張飛になだめられるところを見るとそう思える。


ま、武の腕は確かなんだろうけどもう少し感情のコントロールが出来るようになるっていうのが今後の課題点だろう。



一方、褒められたことがうれしいのか、ニコニコと笑う張飛。



そして俺の姿を一通り見終えると、首を傾げながら俺に対して思った疑問を率直にぶつけてきた。





「……ってあれお兄ちゃん、どこかで見たことある服着ているのだ……」






……そりゃそうだ、今そこにいる人物が毎日着ているであろう服と同じなんだから。


さっきは黙って様子を見てたから俺の身なりなど詳しく見ている見ている暇はなかったんだろう。



そして関羽と張飛の代わりに劉備であろう女性が出てくる。横には当然、あの人物もいる。





「すみません。愛紗ちゃんがご迷惑をお掛けしました……」




「別に構わないわ。どうせ関羽も本気じゃなかったでしょうし……それと隣の君」




「はい? 俺ですか?」




「ええ、あなたが劉備陣営にいるっていう天の御遣いね?」




「一応そういうことになってます。でも何で急に?」




「ちょっと確認してみたくてね、あなたと同じ服を来た御遣いがうちにもいるから。……ね? 飛鳥♪」




「あぁ、そうだな。ったく、ホントお前の行動にはヒヤヒヤさせられる」




「あら、いいじゃない。 飛鳥の男らしい一面も見れたし♪」



「はぁ……」






 一応劉備って近い将来蜀の国の王となる人物だよな。そんな人物の前で人をからかうとか……実際冷静を装っていたけど、割とドキドキだったぞ。


孫策の横に立ち、劉備とその御遣いに目を向ける。正体は知っているけど、ここでいきなり声を掛けるのはやめとこう。





「申し遅れた、俺の名前は時雨飛鳥。一応御遣いって言われている。そんな自覚ないけどな」




「ってお前……同じクラスの時雨か!?」





……折角後で話をつけようと思っていたのにも関わらず、いきなりその計画をぶち壊された。


壊すのは幻想だけにしてくれ……仕方ない、予定を変更するか。





「あぁ。久しぶりに元クラスメイトとの再会っていうシチュエーションをやるのも悪くないが、今はその時間はない。とりあえずこっちの話を聞いてもらいたい」





俺は再び一歩下がり、孫策の斜め後ろに立つ。


『くらすめいと?』とか『しちゅえいしょん?』とか考え込む声が聞こえたのは気にするな。良いか、気にするなよ?



……そんなことより、だ。



さっきから関羽がものすごい顔で俺の方を睨んでくるんだが……


 そんなにさっきの事が納得いかないのか、いずれにせよ俺に良い印象を抱いていないのは確か。……何か冗談が効かないタイプの人間でもあるらしい。


何かこういうの見ていると妙にいじめたくなる気がしないでもない。今の状況下でそれやったら『この無礼者が!』的な感じで戦いになりそうだけど。


やめてくれ、俺にそんな勇気はない。





「それより……あなたが劉備?」



「え? そ、そうですけど……あなたは?」



「孫策。字は伯符。呉の王よ。、あ、呉の王とは言っても今は領土もなく、家臣も少ないけどね」



「あ……あなたが孫策さんだったんですかぁ」





口をぽかんと開けながら、じっと孫策の姿を見つめる。


反応から見て孫策の事をちゃんと知っているみたいだな、ただどんな感じの人かっていうのを知らなかったって所か。




「あの、それで御用の方は?」



「ん……とりあえず挨拶。あとちょっとした提案にね」



「提案、ですか?」



「そ、あなた達先鋒にさせられたのよね?」



「はい……」





孫策の言葉にシュンとしょげる劉備。あの場は啖呵を切ってあのように言ってしまってけど、まさか先鋒を押し付けられるとまでは思っていなかったんだろう、表情は堅い。




「どう? 勝てる見込み、あるかしら?」



「正直言うと、分かりません。愛紗ちゃんや鈴々ちゃんが居たとしても、絶対的に兵士の数が足りてませんから」





―――ま、そうなるよな。


 逆にこれに勝てば確かに成果として得るものは高い。でもその代償として多くの人材を失うリスクが伴う。

果たしてそれによって、自分達が得をするのか。このケースで言うならば間違いなくマイナスだ。


ただでさえ少ない兵士を無くしてまで勝っても、その後の自分達の防衛はガタガタなのは目に見えている。そんな所を敵兵に攻め込まれたら、それこそおしまいになる。




「そうよねぇ。……だったらさ、手を組まない?」



「へっ!?」



「劉備軍と私達孫呉の軍が先鋒を取れば、兵の数も倍以上になるし。そうすれば勝てる見込みも高くなるんじゃないかしら?」



「それはそうですけど……」



「俺達からすれば、それが孫策さん達に何の得になるんですかってなります」



ごもっともで、普通はそうなるよな。



「ふむ……」




その言葉に何かを考え込む孫策。何を考えているのか、少しの間考え。




「良いわ。あなたを信じて、胸襟を開いて見せましょう」





―――…




「知っているかどうかは分からないけど、呉の土地を奪われた私は今、袁術の客将という身分に甘んじているわ」





そこから話は続く。


孫文台の死により、領土の多くを失ってしまったこと。


苦肉の策として、今は袁術の客将という立場に甘んじているということ。


でもいつまでもその立場に甘んじている気はなく、いつか必ずすべての領土を取り戻し、独立してみせるということ。


言うなら簡単なれ、しかし孫策は言葉に自分の本心をぶつけるように劉備へと伝えた。




「そういうわけでね、その為には、外の見方が必要なの。……分かるかしら?」



「だから私達に協力するんですか?」



「そう。……そして劉備、あなたもこれからの割拠の時代を生き抜くために、どこかに味方が必要でしょう?」



「……はい」



「お互いの利益が一致していると思うんだけど。私の勘違いかしら?」



「……いいえ、孫策さんのおっしゃる通りだと思います」



「なら、協力する?」



「どうして……私なんですか?」



「あなたが義理堅そうだから。信用できそうっていうのが、一番の大きな理由。二つ目は私達の勢力が五分五分だからよ」



「なるほど、わかりました。……でも」



「何かしら?」



「孫策さんが信用できるかどうか。私にはまだ判断ができません」





 交渉に来た相手、ましてや噂だけで自分が見たこともない人物を信用しろ、というのは無理な話だ。

長年付き合っている友人であっても、心の底から信用できる親友というのは少ない、必ずどこかで疑いがある。


中には一生親友に出会わない人だっている。


少なくとも信用に値する人間になりたければ、それ相応の信義を見せろ。


そういうことだろう。





「良いでしょう。孫呉の戦い振り、その目に焼き付けておきなさい。もし私が信頼するに足らないと判断したならば、それはそれでよし。……いつか戦場で矛を交えるだけよ」



「……分かりました。では孫策さんの信義、しっかり見させていただきます」



「ええ。では一刻後に出発ってことでいいわね?」



「はい!」




「なら、そういうことで。私達は陣に戻るから……あ、そうだ御遣い君」



「はい?」



「飛鳥は出発時間まで貸してあげる。変なことしちゃだめよ?」



「は、はい! わかりました」





それだけ言い残すと今度こそ、孫策は自陣営へと戻っていく。


その姿を見送り、俺は劉備達の方に向き直る。




「悪いな、話が終わったら俺もすぐに戻るから」






―――…

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