信頼できる部下
「隊長、時雨隊の準備、整いました」
「あぁ、ご苦労」
「つかぬ事をお聞きしますが……ご体調の方は……」
「問題ない、大丈夫だ。心配をかけてすまないな」
「いえ! 隊長が無事で何よりです」
「お前が俺の補佐でよかったよ、張楊」
「もったいなきお言葉……!!」
時雨隊副隊長の張楊。
時雨隊の創設時から俺に仕えてくれている、俺直属の部下だ。
俺がいない時の部隊の指導、指揮。そして俺の補佐を任せている。武力と知力両方に優れ、名だたる武人達の相手も出来る。
色々と俺の事を心配してくれるんだが、どうにも心配症のところも多い。でも女の子だし仕方ないよな。
……え? 女の子だって聞いていないって?
………言う必要がないと思っていただけだ。別に特に理由があるわけじゃない。あれだ、副官が女性だからって言っても俺は別に手を出しているわけじゃないからな?
キスも今のところ、孫策との一回きりだ。
たまに張楊に顔を赤らめられることもあるけど……特に何かしたわけでもない。
……てか今はそんなことはいい。
そんな俺のプライベートをペラペラと喋る気は毛頭ない、結構しゃべっちまったけど。
「提案なんだがな張楊。誰かお前直属の部下を作ってもいいと思うんだ」
「私の部下……ですか?」
「あぁ、これから独立に向けて戦いはより激化するだろう。確かにお前の第一任務は俺を守ることだが、そうすると俺の方に気が行きすぎて、部隊全体が上手く機能しないことがあるかもしれない。切り札はいくつあっても困らない……俺達がいなくても時雨隊は脅威だってことを、相手に知らしめることも出来る」
「そうですね……」
実質今までの戦闘では、俺が表だって戦場に出るパターンと、俺は後方に下がって軍師として指揮を執るパターの二パターンがあった。
前者のメリットとして、俺が直接戦場に出ることで部隊全体の士気が上がるということ。一方でメリットは俺に危害が及ぶ可能性があるということ。
この場合は張楊が俺の護衛として、俺と行動を共にしているが。危険がないわけではない。
無論、俺も簡単にやられるつもりはない。
少なくとも、大体の相手に対しては対応できるつもりだ。だが孫策クラスになってくると、相手をすることがきつくなってくる。
つまり、一番命の危険があるのが前者だ。
で、後者。
俺が軍師として戦場に出る場合だ。
作戦の指示は俺がするが、戦場の指示は張楊一人だ。だが例えば部隊が分断せざるおえない状況に直面した時、片方に指揮できる人材がいなくなる。
このようになるケースは少ないかもしれない、でも万が一ということもある。
黄巾の乱ではたまたま、そういう状況にならなかっただけかもしれない。
「ま、あれか。急にと言われても難しいよな」
「そうですね、でも考えてみます」
「さて、そろそろ予定時刻だ。行くぞ、張楊」
「はっ!」
―――…
「へぇ、随分大規模なんだな……」
「諸侯達も勢力を伸ばそうと必死ですから……」
「そうだな、数年後にはここの何人が残っていることやら」
行軍中。
俺は時雨隊を率い列の最後尾につけていた。目的地に到着後、孫策達と合流することになっている。
ここから見える各勢力の旗、孫呉の旗だけではなく、曹に劉、そして劉の旗の中に『北』という文字が見える。
劉備の軍勢の中に『北』という文字がつく武将がいるという話はない。……あれが劉備の下に降り立ったという天の御遣いの旗か。
一度お目にかかりたいものだ。
「張楊、部隊の状況は?」
「体調不良者無し、欠員無しです!」
「よし」
部隊の状態は悪くない。
孫呉の独立に向けて着々と鍛錬を重ねてきた。武官達の戦闘能力も今までとは比べ物にならないほどに成長している。
俺を信頼してついてきてくれている部下達のためにも、俺は自分の仕事をしっかりとやらなければならない。
日差しが照らす中、俺達は行軍を続ける。
「……張楊」
「なんでしょう?」
「これからは血なまぐさい戦いが続くだろう。それに犠牲者の数も間違いなく増えてくる」
「はい……」
「もしかしたら思ったような結末にならないかもしれない……」
もしかしたら親しい誰かが
尊敬している上司が
守りたい仲間が
この世を去ることになるかもしれない。
でも――――
「俺の野望など小さなものだ。民の笑顔、そして孫呉の平穏……」
望むのは民の笑顔、そして孫呉の土地に平穏をもたらすこと。
はたから見たら小さいものかもしれない。
天下統一を目指す理由がそんなちっぽけな理由なのかと。
でも争いがなくなればそれでいい。権力のぶつかり合いによる不毛な争いがなくなり、平和な世が訪れるなら、俺はそれで充分だ。
「俺に……ついてきてくれるか?」
「仰せなるままに。貴方についた時点で私は貴方の家臣。この張楊、どこまでも貴方についていきます」
―――本当に良い部下を持ったと思う。
張楊に微笑むと、俺は再び前を向く。
目的地はすぐそこだ。今は前だけを見つめて、前進するのみ。




