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見慣れぬ場所



「………ここは?」




―――いつも通り業物の手入れをして、明日の学校のために布団に潜り込もうとしていた時だ。


何かまぶしい光に包まれたかと思ったら、急に景色が変わった。目を覚ますとそこは寮の部屋ではなく、見たこともない砂地が広がっている。それどころかあたり一面建物らしき建物も見られない。


 どっぷりと日が暮れていて、周りには外灯の一つも無い。ゆえに足元は暗いはずなのだが、思いのほかそこまで暗いとは感じなかった。そう感じなかった理由は空にあった。

煌々と照らす月の光が足元に差し込む。いつも見慣れているはずの星が何故か今だけは真珠のように美しいと思ってしまった。


ただ今現在、空の美しさにかまけている暇は無い。話を元に戻そう。


寮の近くにはこんな場所は存在しない。流石にここが寮の近くではないことははっきりと分かる。


「あっついな……」


 何やら暑苦しい、視線を自分の身体に向ける。不自然だけど着なれているもの、いやある状況に置いては不自然となり得るものと表現した方が良いかもしれない。



「フランチェスカの制服……一体何がどうなってやがる」



 これから睡眠を取ろうとする人間が学校指定の制服を着るなんてことはしない。


何が何だか理解が出来ない。一体俺の周りで何が起きたのか、そもそもここがどこなのか……


とにかくこの状況に置かれて下手に考えていても何も浮かばない。


だったら少しでも歩いてここがどこなのかはっきりとさせた方がいい。


少なくとも見ず知らずの場所に来てしまったとするのなら、衣食住も確保しなければならなくなる。


考えているだけで頭が痛くなってくる。


やめよう。いちいち考えたところで何の役にも立たなさそうだ。


それに生きる術をこんなところで考えるくらいなら………



「じっとしていても仕方がないってか……」



自然と解答は出てくる。まずは行動しないことには始まらない。


 気が付いたら身体は動いていた。まるで目に見えない何かに操られるかのように勝手に。辺りをぐるりと見回してみる。これといった状況の変化はなく、周りには砂の大地が吹き荒れているだけ。風で舞った砂埃が顔に当たり、俺の行動を制止しようとしてくる。

その量がまるで自分が砂の壁に囲まれているような感じがするほどの量の時もあるからたまったものではない。


その砂は嫌悪感を抱かせるだけではなく、六感の中である視覚を邪魔しようとするから瞬きが多くなる。また、場合によっては目を閉じなければならない状況に陥るほど。


まただ、また吹き荒れてくる。これが試練とばかりに、自然は容赦してくれない。


その中を俺はひたすらに進んでいく。この先に何かアテがあるわけでもなく操られたかのように。



―――――刹那、距離にして数十メートル先にきらりと何かが光った。町があるわけでも水源があるわけでもない。ただ動き出した身体を止める術は無かった。


10メートル、5メートルとその距離は徐々に近づいていく。近づいていくにつれてその光ったものがなんなのかはっきりしてくる。はっきりしてくるだけではない、自分にとって日常的に目にしているものだと気が付く。


目的の場所まで到着した、足元にはそれが落ちている。確信を持ってその落ちているものを拾い上げる。


独特の白い全体像に、(つば)の無い合口拵(あいくちこしらえ)。日常的に目にしているもの、それはそれで当たり前だったりする。落ちていたものは紛れも無く、俺が持っている刀だったからだ。


今一度自分のものか鞘から抜き出して確認してみる、刃の部分は青白く光っており、その光は切れぬものなど何も無いと言わんばかりの切れ味を感じさせてくれる。


何回確認しようとも、俺のものだということに間違いは無かった。


腰のベルト付近にさし直して帯刀する。鍔が無いから上手く固定が出来ない、ベルトをさらにきつく締めてずり落ちないように出来るだけ頑丈に固定する。


とりあえず、刀があれば物の採取や護身には役に立ちそうだ。少なくともこの刀が人をあやめるために使われないことを切に願う。


……とはいえ、これだけ歩き回って見つけたのは刀一つだけ。個人的には水とか食料、欲を言うのなら街とか建物があることを期待していたんだが、それは残念ながら叶わなかった。


土地勘も全く無いこの大地でこの状況下に置かれて、何をどうするかなど誰にでも分かる。最低限生活できそうな場所を見つけ、そこに水があるか、植物はあるか。あるのならそこで生活すればいい。


ただこれだけ探索しても成果がちんぽけなものしかないのなら、やりきれない感じは否めない。実際に成果として手に入れたのはこれだけだ。もういっその事、など人として考えてはならないことまで頭に浮かんでくる始末。


これからどうすればいいのか、途方にくれかけている俺に背後から野太い男の声がかけられる。


「おい、そこのにーちゃん!」


「俺たちちょっと金に困っててさー」


「身ぐるみ全部でいいからよぉ。おいてってくんねーか」


「?」



反射的に後ろを振り向く、と、バンダナをした三人組が立っていた。


一人は無精ひげを生やしたいかにも悪人です!とでも言うような目つきの悪い中肉中背の男。三人の中で一番男らしいといえば男らしいかもしれないが、どうにも特徴という特徴が無い。


残った二人のうちの一人はだらしなく出た腹を惜しげもなくさらしだし、それで人前に出て恥ずかしくないのかと思うほどに不摂生そうな男。ただこの男に関しては他いる二人に比べて上背があり、威圧感がある……はずなのだが、そのいかにも太っていますといわんばかりのしゃべり方がどうにもそれを阻害している。


そして最後に残った一人。……正直、本当に男性なのかと思うほどに小柄な体つきで、小突いたら軽く吹っ飛びそうなほど。頑張って強がっていますっていう努力は認めたいところだが、自分より身長が低い人間からドスの利いた声を聞いたところで怖いとも思えない。特に小さい男性ならなおさらそう思ってしまう。


その三人の特徴をそれぞれ確認したところで、今度は三人を同時に見てみる。



「………」



……何とも不釣り合いな三人組だろうか、バランスというものが全く無い。幾分、悪人といえそうなのは最初の男だけで、残った二人は論外。戦闘力はどうだか知らないが、少なくとも一人の人間を複数の人間で脅そうとしている時点でその力量など高が知れている。


 そもそもこんな時にいざこざを起こしている場合ではない。万が一過剰防衛でこっちが訴えられたら、それこそ馬鹿らしくなってしまう。物理的に手を加えられたのなら話は別だけど、まだ三人組は俺に手を加えていない。


なら、無視をするに限る。俺はその場から身を翻してその場を立ち去る。一歩二歩と歩を進めていくが、三人組が俺の行動を阻害しようとする行動どころか、声一つかからない。


どうやら上手くまけたか。後ろを振り向く事無く俺は先を進む。それにしても本当に何も無いのな、日本にもこんなところがあったのかと感慨に浸れば浸るほどに、所詮世間は狭いものだと認識してしまう



「てめぇ!何を無視してやがる!」


「ぶっ殺されてえか!」


 このまま何事も無く無事に終わる。そんな幻想は一言で潰された。まるで獣が走るかのように俺の前に回りこむと一斉にこちら側に槍や剣を向け始める。槍に剣とは随分派手なものを使う、万が一傷を負わせたらすぐに傷口の広がり方からすぐに持ち主が断定されるだろうに。


……ちょっと待て。こいつらが向けている槍、よく見たら金属じゃなくて石か?


 今一度よく見ている。やはり刃物に見られる光沢はまるで無く、石を削って突起状にしましたと言わんばかりのまがい物ばかりだった。もちろん当たれば人体を貫通するだろうし、危ないものに変わりは無いんだが……その耐久性はかなり低いはずだ。


まさかこんな時代にまだ石で出来た刃物を使っている奴がいるとは心底驚きだったりする。三人組には申し訳ないが俺としてはものすごく落ち着いている。それこそ凶器を向けられているにもかかわらず全く動じないほどに。


悪い例え方をするのなら俺が見ているのは、人間は人間でも生まれてきて間もない子供を見ているかのように。



「……」


「てめぇ! 何か言えやぁ! 兄貴が仰ってるんでぇ!」


「くくっ、チビよ。多分ビビッてるんだろうから、このままやっちまおうぜ!」


「そいつぁいい考えですね!」


 俺が喋らないから痺れを切らし始めたのか、口調が徐々に荒くなっていく。もはや無様にやられていく負け犬というテンプレを見ているみたいだ。実際、こいつらの服装はとてもじゃないが一般人とは思えないようなものだった。着ている上着もズボンもボロボロで、何かそこら辺に捨てられている布をつなぎ合わせましたって感じのもの。


もらい物だからって言われれば使い古しな訳だから大目に見てやらないでもないが、常識的に考えて一般世間に触れる場所に着て出てくるって言うのはちょっとばかしありえない。少なくとも一緒に居たいなどとは天地がひっくり返ったとしても言わないし、言いたくも無い。


つまりそういう手合いの人間だから風呂なんかにもまともに入っていないんだろう。近寄りたいとも思わない。


―――――それが俺が思った第一印象だった。時代遅れの追いはぎにもほどがある。後かぶっている黄色い頭巾はファッションのつもりなんだろうか、正直ダサすぎて目も当てられない。


大体そんな頭巾をしている連中って言ったら昔の……



昔の何か書物のようなもので見たくらいしか覚えが無い。


「っつー訳で……覚悟しやがれえええ!!!」


 考え込んでいる俺に三人のうちの一人、小さい男が剣を片手に突撃してくる。少々不意をつかれながらも、馬鹿正直にまっすぐと突っ込んでくる単純なもの。当たってしまえばそれで最後だが、当たらなければどうということはない。


相手との距離が一足一刀の間合いになるかならないかの瞬間に、軽く右にステップし、その斬撃を避ける。まさかよけられると思っていなかったのか、驚きの表情で盛大な空振りをする小さい男。攻撃が必ず当たるなんて思って大振りなんかするから隙が生まれる。おまけに重心がバラバラだから綺麗な型といえないだけでなく、少しでも茶々を入れられたら立ってもいられなくなるだろうに。


そんな油断を見せるのならもう少し強くなってからにするんだな。


勢いよく突撃してきた相手の足に自分の足をかけると、相手は慣性の法則にしたがってこけた。


「うげっ!!?」


 こけた勢いのままゴロゴロと二回転、三回転と繰り返してようやく止まる。打ち所が悪かったのか、小さい男はピクリとも動かない。多分気絶でもしているんだろう、そんなに強く蹴り飛ばしたとか、頭を強打したわけでもなさそうだしな。ま、当分立てないだろうけど。


さて残るのは親玉っぽい男と太った男の二人か。二人の表情は怒りと焦りが混ざり合った何ともいえない表情、その怒りはあっけなくやられたチビ向いているのか、それとも俺に向いているのか。どちらにせよ焦っているわけだ、数メートル離れている俺から見てもその額から溢れてくる汗ははっきりととらえることが出来た。


 じりじりと俺に近づいてきてはいるものの、俺に対しての警戒心が一気に高まったのか。先ほどのように急に間合いをつめてくるということは無かった。かくいうこっちもここでまざまざとやられたいとは思わない。腰の刀の鞘を左手で握り、右腕はいつでも刀を引き抜けるように脱力状態にする。


とはいえ、ここで人を殺めるわけにも行かない。相手が持っている武器をなくしてしまえば、向こうも諦めてくれるだろう。そんな感情を持ちながら、一言、二人に向かって声を投げかける。



「一回一回相手をするのは面倒だ。……二人まとめて来い」


「こ、このやろう! 馬鹿にするなぁ!!」


 何気なく放った言葉が相当頭に来たのか、俺の言ったとおりに二人同時に突っ込んでくる。作戦という単語とはなんだったのか、そう言わんばかりに馬鹿正直に。とはいえ、油断は大敵。少しでもしくじってしまえばこっちがやられる。相手の動きをよく観察しながら、許す範囲のギリギリの間合いまで今度は相手をひきつける。


二人の同時の攻撃だ。片方が攻撃を遅らせてくればそれを避けることは難しい。それに加えて片方は槍、間合いが違う。二人揃って攻撃の間合いが違うことは一目瞭然だ。


 槍を持った親玉の男が自分の間合いに入ったか、槍を進行方向に向かって突き出してくる。風を切りながら相手を射抜かんと刃先が近づいてくる。だがその一撃は所詮素人そのもの、速さが全くといっていいほど足りない。だからこちらからすれば怖くも何とも無い。


俺の許容の間合いに刃先が入り込む。それに対して納刀状態から一閃。上から振り下ろして相手の矛先からつながっている木の部分を叩き斬る。これで槍は使い物にならない、そしてもう一つ向かってくる剣を今度は踏み込み、返しながら相手の刃の部分を根っこから斬り飛ばす。


相手は自分の身に何が起きたのか全くわからないまま、自分の無残に折られた獲物を見いやる。何の抵抗も無く一直線にきれいに斬られるということがどういうことを意味するのか、二人にもよく分かっていた。


よほど戦うことに長けていなければ、そんな芸当は出来ない。そもそも簡単に切り飛ばすことも出来ない。


格が自分達とは違う、相手の獲物を使い物にならなくすることがそう思わせるには充分なことだった。自分の置かれた状況をようやく理解し、サーッと顔を青ざめさせていく二人。そこにあるのは相手に対する恐怖感、そしてこのままやったら自分達では勝てないという絶望感。


そんな二人がとる行動は一つだった。


「「お、覚えてやがれーーー!!」」


 負け犬の遠吠え、とでも言うべきか、チビをデブが抱きかかえながら二人は負け惜しみを吐きながら逃げていく。使っている物自体が刃こぼれしやすいものだったのは明らか。まさか石を武器状にするなんてことは思いもよらないことだった。


俺自身も正直に言うと弾き飛ばすだけのつもりが真っ二つに。もちろん使えなくするつもりで刀を振りかざしたつもりではあったが、その時の手ごたえが鉄を切り飛ばしたって感触ではなかった。例えるならやや頑丈な木製バットを叩ききる感じ、質量を考えるとどっちもどっちという感じだった。


逃げ去っていく姿が完全に消えたことを確認すると、慣れた手つきで刀を鞘へとおさめる。カチンという独特の音が鳴り響くことできちんと納刀されたことを確認する。


さっきから散々な目にあってばかりだな、こう考えると。やってもやりきれない、もう何か全てがどうでもよくなりそうだ。



「みごとじゃ。小僧」


再び後ろから声がかけられる。今日二度目のシチュエーションだかなんだか知らないけど、ここは無視するべき時ではない。自分の本能がそう悟っていた。


意を決して声のする方へと振り返る。


そこには二人の女性が立っていた。













――――…

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