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初対面





行軍をやめ、約束時間よりも早く着いた俺達は、孫権達の到着を待っていた。



孫権か、孫策の妹……史実だと弟にして孫呉の独立後の初代王。







……孫策は初代王とはなれなかった。孫策自身が許貢の客人の矢によって負傷し、それが原因で病死してしまったからという為である。



だからもし、この世界が三国志通りに進んでいくのだとしたら、孫策はいずれこのような結末を迎えることとなってしまう。






――――そんなこと絶対にさせない。






絶対に守ってみせる、何があってもだ。






……話を戻そう。


孫策から孫権のイメージはどんなものなのかと聞いたところ、私とはまるで正反対だという旨を伝えられた。


孫策の正反対……すぐに想像できてしまうのがあれなのは仕方がない、孫策が非常にわかりやすい性格をしているのだから。



つまりは生真面目だということ。





何にせよ、これからは共に乱世を歩む仲間となるわけだ。孫策はそれ以外のことも期待しているみたいだけど……




ま、嫌われないようにするしかないよな。












―――――…















「後方に砂塵あり、ですー。どうやら蓮華様達がやってきたみたいですよぉ♪」





「さすが蓮華様だ。合流時間をしっかりと守ってくれているな」





「そういう融通の利かなさが、心配なんだけどね~」






ここはお前が言うか言った方がいいのか。


とりあえず、孫策は仕事をしてくれと言いたい。


……理由? 孫策の放り投げた仕事の大半が俺と周瑜に回ってくるからだ。




と、不意に旗が止まる。


そしてそこから一人の人影がこちらに向かって全速力で向かってくるのが分かる。





「お姉様! 今、報告を聞きました! 単騎で敵陣に突入するとは、どういうことですかっ!」




「うわ……」










ものすごい勢いで孫策に言いよる少女。


孫策と同じ褐色の肌に、ガラス細工のような綺麗な長髪。


ネコ目のような青く透き通った瞳に、整った容姿。


そして、このやりとりですぐに把握することが出来た。






―――この子が孫権。孫仲謀だと。










「あなたは孫家の家長にして呉の指導者! それがこんな戦いで蛮勇を振りかざしてどうします!」





「ご、ごめんなさい……」





おお、あの孫策が押されている。


孫策を止められるのは周瑜だけだと思っていたけど、実際は妹もそうみたいだ。


ってかそろそろ勘弁してあげてもいいんじゃないか……?


周瑜の説教に続き、二度目の説教を受けている孫策のしょぼくれた顔が目にうつる。


若干俺の方に目配りで、助けて的なアイコンタクトを送ってくるけど俺はそれを全力で無視する。


いや、あれを止めるのは無理だろう……。



孫権はしょぼくれた返事が気にくわないのか、尚も説教を続ける。






「あれが孫権か」





「あぁ、雪蓮の妹にして、孫呉の後継者だ」





「……カタブツぽいな」





率直にその言葉が出てきてしまう。俺が孫権の第一印象で思い描いたこと、なんだろうか。







「そういうな。王としての器の大きさだけでいえば、雪蓮よりも大きいだろう」





「へぇ……」





「お前が思っている以上に、蓮華殿は優しいお方だぞ」





「周瑜の言わんとしてることが分からんでもないけど……俺完全にガン無視されてるよね?」








孫策の説教に夢中というかなんというか……まだ視野が狭いというか……


姉思いなところはあるけど、一つの事に集中していると周りが見えなくなるというか。


おかげさまで、こっちは完全に蚊帳の外になってしまっている。






「策殿の身を誰よりも案じているからじゃろう、そこは仕方のないことじゃ……お、いらっしゃったぞ」








黄蓋の言葉に振り向くと、孫策への説教が終わったのか、こちらに向かって近づいてくる。


何か凄い目つきで見られている気がするんだが……







「貴様が天の御遣いと言われている男か」





「そう言われてるな。名は時雨飛鳥、俺自身に自覚はないけど」





「胡散臭いわね」





「自分で一番理解してるよ……孫仲謀」




「!? 名は孫権、字は仲謀だ! お姉様を誑かす気なら、すぐに立ち去れ!」







皮肉をこめて言ってやる。


こっちは自己紹介をしたのに、仮にも次期孫呉の王ともなろうものが挨拶の一つも出来ないのかと。


あえて、相手の名を呼ぶことで。



孫権の俺を睨みつける目が一層鋭くなる。



俺は平常心を保ちつつ、孫権の目をジッと見つめる。ただあくまで見つめるだけ、敵意を込めていない。





「孫権様。確かにこやつの素性は知れませんが、今までの行動、戦功、人柄を見る限り、怪しい素振り無く。我らが思いつかない知識を持っています。……孫策様の片腕としては十分すぎるくらいの素質を持っているものと」




「公謹がそういうのならばそうなのでしょうね……だけど私はまだ認めないわ」







言いたいことを言われっぱなしだといった表現が適切か。


正直、今のあれでは良いイメージを持てと言われても無理だ・






「あれが孫権だよな?」





「ああ」





「……めっちゃ嫌われてるんだが」





「嫌われているわけではないと思うがの」





「……黄蓋、いい目医者紹介しようか?」





「なんじゃとお?」






嫌われてるだろ、とつっこみを入れたいが、今は我慢だ。


……少なくとも、姉の孫策を見ていると対比した時にまるで違っていることが分かる。



それに初めから胡散臭いと言われては、俺の中での孫権の株は大暴落、とても仲良くなんて出来そうにない。





でも孫策との約束もあるわけだ。今回は折れなければ収集がつかない気がする。



……もしかしたら時間がたつことで、孫権の気持ちに変化が訪れるかもしれない。もう少し待ってみようと、自分の心に言い聞かせてみる。





―――と、孫策につられて孫権と他の見知らぬ女性がこちらに向かって歩いてくる。


孫権の臣下か何かか?






「まだ何かあるのか孫策?」





「貴様、姉様に向かって何たる口のきき方か!」




前言撤回したい気持ちを押さえこみ、俺は孫権の言葉を全力でスルーしながら孫策の目を見る。


ここはお前がなんとかしてくれと、期待を込めて。





「良いの。飛鳥には口調だけじゃなくて、真名を呼ぶことも許してるもの。冥琳と祭、穏もね」




「なっ……!?」




「……それほどの人物なのですか? 私には胡散臭い男にしか見えませんが」





「胡散臭いわけじゃないですが……」






孫権に引き続き、キリッとした目つきのお団子頭の子にも胡散臭いと言われる。


もう一人の……日本人っぽい子は特に俺に対して嫌悪感というものを抱いているわけではなさそうだが、孫策以外の二人が真名を許したことに対していささか疑問を持っているようだ。



もういい、好きにしてくれ。





「結論から言うと、こやつはお前達の夫になるかもしれん人物だ」









「「ええっ!?」」








うん、そういう反応になることは分かっていた。どんなに相手の事を好きでも、いきなりこんなこと言われたら誰でもこんな反応をする気がする。


そんな一言に、ジャパニーズガールっぽい女の子が、顔を赤らめながら孫策に尋ねる。





「あ、あの……どういうことでしょう?」





「飛鳥は管路の占いに出てきた天の遣いなの。その血を孫呉に入れたら大きな力になるでしょ?」





「少なくとも、評判にはなるだろうな」





「保護する時に契約済みなのよ、孕ませろってね♪」











……なんつーことを笑顔で言うんでしょうね孫策さん。


孫権に至ってはものすごい剣幕で詰め寄っているし。




―――だが、その言葉に孫策の顔が王の顔になる。


孫家の人間である、孫権の意志は否定される。



母である孫堅の悲願、天下を目指す為には、何としても俺の力が必要だと。




そんな一言に、孫権は押し黙ってしまう。



泣きそうな顔を浮かべる孫権。








……?




何だ? 今一瞬何か違和感が……










「とにかく、互いを知りなさい。まずはそれからよ」




「………」





「興覇、幼平。良いな?」




「……は」





「は、はい!」







慌てる二人、興覇と幼平に対し、黄蓋と陸遜がフォローを入れていく。


この二人があの甘寧と周泰か……これで有名どころはほぼ揃ったってことか。



……んで、肝心の孫権は?






「ふん!」






思いきり睨まれたのち、目線を外す。


……終わったな、これは完全に。


いくら顔には出さないからと言われても、女性からここまではっきり嫌悪感を出されると凹む。








「とにかく、三人は飛鳥に真名を預けなさい」






「孫策、俺に真名を預けても、俺は呼べないぞ……」







「知ってる。でも預けさせるのはこちらの意志。呼ばないのは飛鳥の自由だけどね」










――――孫策がそれを伝えると、先ほどのジャパニーズガールみたいな子が前に出てくる。











「あの……姓は周、名は泰、字は幼平、真名は明命! よろしくお願いします!」





「……俺は時雨飛鳥。一応天の御遣いってことになってる。まだ分からないことばかりだと思うけど、これからよろしく」





「はいっ!」





元気一杯に返事をしてくれる周泰。


そんな健気な一面に俺の心が少し和らぐ感じがした。


何と言うのか、凄い可愛らしいというか癒されるというか。



……素直な子なんだなと俺は思った。




続いて、お団子頭の目が鋭い子が前に出てくる。











「我が名は甘寧、字は興覇……真名は思春という」




「よろしく」





「………」











彼女の顔がよろしくするかどうかは、孫権次第だと訴えてくる。


なるほど、そこまで徹底した忠誠か。



……仕方ないな。










「……孫権」





「なんだ」












先ほどと変わらず、嫌悪感を隠さないままに俺の声に反応する。



こちらとしては仲良くしてほしいっていうのが本音なんだけどな。


……少なくとも、甘寧の反応を見てみる限り、彼女の忠誠心は孫権が十分に仕えるにあたる人物だと判断したからなのだろう。



目を見れば、それははっきりと分かることが出来た。




……だからこそ、今は初めの一歩を踏み出すことが大切だと。












「君にとってまだ俺は信用に足らない人物だろう……だからまだ真名は預けなくてもいい」





「!」





その言葉に、孫権は少しながらも表情を変える。俺はなおも言葉を続ける。





「だからこれからの戦いで俺を見定めてほしい、俺が信頼に値する人物か、そうじゃないか……もしそうでは無かったら……」











俺は一歩一歩孫権に近づいていく、敵意を見せるとかそういうものではない。


普段の感じで、ゆっくりと彼女へと近づいていく。




そして孫権の前までくると、俺はその場で立膝をつき、頭を垂れる。











「……遠慮なく、俺の首を刎ねればいい」





「!?」





「ちょっと、飛鳥! 何言ってるのよ!」





「……大丈夫だ孫策」






俺の口からこんな言葉が出るとは思って無かったのだろう。


孫策は慌てて俺を止めようと前に出てくるが、俺がそれを言葉で止める。



真意が伝わったのかどうか分からないが、渋々といった表情で下がっていく。



……ふてくされてる、全然納得いっていないって感じだ。



……後でフォロー入れとくか。














「……だからまずは俺の事を知ってほしい。孫策を支えたいって気持ちは本当だ。それだけは信じてほしい」





「……」












あっけにとられている孫権。その顔をじっと見つめる。


少し視線を外しながら、彼女は一言ずつ答えていく。













「……会ったばかりの人間の気持ちなど、見透かすことは出来ない……だから間接的には認めてやろう」













照れながら、孫権は後ろへと下がっていく。


俺に対しては敵意をむき出しにしていたけど、それは彼女の本心ではない、ということがよく分かった。



今はこれでいい、そう思いながら俺も後ろへと下がった。






「さて……と。自己紹介はこれでおしまい。部隊の再編をしたらすぐに出発しましょうか」











―――孫権の引き連れてきた部隊を含め、部隊の再編が始まった。

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