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一蓮托生






「痛いわねぇ~何よもう……」




「よっと」




 木から落ちた孫策だったが、見たところ外傷はないらしい。

若干腰を抑えているところを見ると、衝撃を抑えきれなかったみたいだけど。


俺も孫策に続いて、木から下りる。



孫策を何かで狙った人物はもう分かっているから、ぶつかった何かを俺は探す。




「ん?」





木から少し離れたところに、ぶつかったであろう何かが転がっている。俺はそれを拾い上げて、孫策へと見せる。


……その見せた時に俺の視線の先に、修羅が見えたのは気のせいだろう。




「これって、巻物? 何でこんなところに……」




転がってるのよ、と孫策は続けようとしたのか、しかしその言葉はある人物の一言でさえぎられる。




「やぁ~っと見つけたぞ」




「あ、あは……あはははは……冥琳~」





 ものすごい表情を浮かべるのは周瑜、薄笑いを浮かべながら並々ならぬ威圧感を放っている。これには流石の孫策も苦笑いを浮かべるしかない。


というよりもひきつった顔の方が適正だったりする。


冷汗をかきつつ、一歩一歩後ずさりしながら、俺の背後に隠れようとする。


おい、さっきの威勢はどうした。たまには息ぬかなきゃどうたらとか言ってなかったか?




「仕事をサボって酒盛りとは……良い御身分だな」




「いや、あのね、これはそのぉ……飛鳥! 飛鳥がのめのめうるさくて♪」




おい、俺はそんなこと一言も言ってないぞ……




「………」




「悪いが俺は身に覚えがないぜ、俺が来た時には既に孫策は酒をのんでいたぞ」




「きー! 飛鳥、私のこと売るつもりなの!」




売るつもりって……そんな大層なものじゃないだろと思わず心の中で突っ込みを入れる。


俺自身も孫策の持っていた酒を飲んでしまった手前、あまり偉そうなことは言えないが、少なくとも俺からノリノリで酒を飲んだわけじゃないぞ……




「とりあえず、孫策。俺も手伝うから残った仕事片付けようか……ってこら」





どさくさにまぎれて逃げようとする孫策の手を俺は掴む。


油断も隙もあったもんじゃないというのはこのことか、見つけられたというのに往生際が悪い主だ。










「ちょ、飛鳥! はーなーしーてー!」




「見つかったんだから、大人しくしようぜ、孫策」





「いーやー!」









これでは埒があかない。


俺は周瑜にアイコンタクトで助けを求める。すると孫策に近づいて、耳を勢いよくつまみ上げる。




「きゃんっ!」




「とりあえず今は仕事優先ですので? 言い訳は後でゆっくり聞きましょうか? 孫伯符殿?」




「分かったから! 働くから離してちょうだい~」




「……約束だぞ?」




その言葉とともに周瑜はその手を離す。








「あー痛かった。冥琳てば本当に容赦ないんだから」




「そうか、まだ足りないのか」




素直に謝ればいいものをと思ったのは、ここだけの秘密。


当然自らの日を認めなかった孫策に対して、周瑜は再び耳をつまもうとする動作を見せる。


笑顔だけど、目が笑っていない。


流石に二回痛い思いをするのは嫌なのか、ちょっと控え目に孫策は拗ねる。





「うぅ~……冥琳のいけず……」




「ふむ、今のは肯定ととらえていいんだな?」




「……あーっ、もう! 私が悪かった! 落款ぐらいいくらでも押してやるわよー!」





「分かればいいんだ。分かれば」







どうやら勝負は周瑜の圧勝で決まったようだ。


そもそも軍師相手に弁論で勝とうなんて虫がよすぎる。


勝つんならよほどのものがないとな、俺の生死を分けたあの時の弁論みたいに。




――――と、急に俺の右手が握られる。






「行きましょ♪」






孫策は右手に俺、左手に周瑜の手を掴み、歩き始めた。




















――――…











「うふふ♪ これって両手に花ね」




孫策の両手は確かにふさがっている。俺と周瑜の手でだ。


両手に花という言葉は男の時に言うものなんじゃ無いか? というつっこみに関しては全力で封じ込んでおくことにする。




「今日のところは、花に甘んじておくとしよう」










孫策が楽しそうな笑みを浮かべる。


いや、孫策だけじゃない、周瑜も笑っている。しかも愛想笑いではなく、心の底から。













……何故だ。この二人を見ていると何か妙な気分になる。


別に恋をしているとかそういうわけじゃない。もっと別の何とも言えない……欲望のような……

















―――――あぁ、そうか。


単純に俺はこの二人の関係が羨ましいんだ。






ずっと裏の世界で生きてきた俺に対して、二人はずっと一緒だ。


二人の仲は切っても切れない、信頼関係で結ばれている。だからこそこうして二人で笑いあっていられるんだ……






俺にとって信頼関係など無かった……信頼関係の代わりに与えられるものは金銭だった。



今の俺には、この二人の存在はまぶしすぎる。



信頼関係を知らない自分に対して、苦笑いしか出てこない。
















「どうしたの飛鳥? ぼーっとしちゃって」





「ん?」








声に反応して我に戻ると、孫策が俺の顔を覗き込んでいた。


顔に出ていたのか、どことなく俺の事を心配しているのか……
















「相変わらず二人は仲がいいと思ってな」




「当り前よ♪ 私と冥琳はずーっと一緒だもの」




「私は苦労させられっぱなしだけどな」





「何よそれー?」
















―――今はこれで良い。



時代は違えども、ここにきて少しずつ、何となく分かってきたような気がする。













―――人として本当の生活を……

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