衝動
「ふふっ、ぞくぞくするわねー」
そう声を上げるのは孫策。はたから見たらかなり危ない発言だが、このケースは違った。
大陸の混乱こそ、呉の独立に向けての第一歩となる。
とは言いつつも「初陣が黄巾党か~」的な考え方なんだろうな、こいつらにとっては。
勘を取り戻すにはちょうどいいアップとでも考えてるのかもしれない、おお……怖い怖い。
「時雨、今何か失礼なことを考えてなかったか?」
「いや、別に」
――――人の心を勝手に読むなとでも言いたいところだが、まぁいい。
呉に求められるのは圧倒的な勝利。相手が誰であろうと全力で叩き潰す。
誰もはっきりと口を出して言わないが、暗黙の了解だろう。
「さて、さっさと黄巾党を皆殺しにするわよ」
「待て孫策。圧倒的な勝利をするなら策を練ろう」
「策なんているかしら、相手はたかが盗賊の集団よ?」
「だからこそだ、敵に甚大な被害を与え、尚且つ歯向かう気すら削ぐほどの苦痛を与える必要がある」
「ふ~ん……で、いい策があるの?」
「そうだな………」
――――…
策が決まり、孫策の大号令が終わる。
全員が抜刀し、孫策の突撃命令とともに自軍の兵士たちが突撃していく。
それを見ていた時だった……
ドクン!
「!?」
―――『それ』は、唐突に現れた。
胸が高鳴る。それと同時にまるで全身が何かに浸食されていくかの様な感じ。
――――間違いない、これは……
「周瑜」
「どうした、今更怖気づいたのか?」
「……俺も、行く」
「は? 何を言っている?」
「安心しろ。死にはしない………」
「………分かった。後衛は黄蓋殿に任せよう。頼めるか?」
「承った。時雨、周りは気にせず、目の前の敵にだけ集中すればよい。周りの敵は儂が片付ける」
「あぁ……」
もう後ろの声は何も聞こえない、二人が何か言っているんだろうが、俺の耳には何も入ってこなかった。
刀を手に取る。
そう、この衝動は俺が裏の仕事を行うときの衝動そのものだった。
完全に己を殺し、冷酷非情なもう一人の人格が出てくる。
―――――その合図。
「任務……開始」




