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第43話:陰謀、策略、裏切り。

【43】


 頬を撫でる風はすっかり秋めいてきた。昼日中の日差しは強くとも、朝夕の風に冷たさを感じ始めた。空気も乾燥してきている。蜻蛉トンボが空を飛ぶのを見た。

 イトゥンの言葉によると、秋が深まる頃には驚くほどの数の蜻蛉が茜空の下で飛び交うそうだ。2匹の蜻蛉が繋がって飛行する、仲睦まじい姿が大好きなのだと彼女は言った。この高い空の下、赤く色づいた蜻蛉が無数に飛び交う。それを想像してか瞳を閉じて空に向かって胸を張る彼女の横顔に、一瞬大人びたものを垣間見て何ともいえない胸の痛みを覚えた。そういえば幼少の頃にもそのような光景を見た気がする。飛び交う蜻蛉にきれいな少女の横顔、理解できない感情を抱いた秋の季節。いや、どうだったろう。もしかしたら見ていないかもしれない、感じるようなこともなかったのかもしれない。思春期的に貧しかった幼少期だったのかもしれない、俺は勝手に憧憬の秋のイメージを作り上げてしまたのかもしれない、もう、よく覚えていなかった。何にせよ俺の幼少期は昔日の過去のことだ、今更どうでもいいことだった。しかし彼女が思いをはせる光景を、彼女と共に瞳に映すことが出来るのかと想像すると、心が奥底で何かが躍った。


 海社での発掘作業においては、いくつか予想外の事象も起こりはしたが概ねにおいて順調であった。先日、ついに第一号として海社に「ヒトガタ木組みのカラクリ」を完成・設置をさせることができた。


 里中の避難所と移住者たちの住居建築と鍛冶場も完成した。捕虜たちの住まいとなる住居すらもとりあえずは用意ができ、あとは収穫に向けての最終準備に余念がない段階だ。「今年の実りは豊かなものになりそうじゃな」とは婆さんの言葉だった。いろいろなことがあったが開墾地ではいくらかの作物を生産することが出来ていたし、俺が提案した「追肥」等の手法がうまく行ったためか、既存農地での実入りも良さそうだとのことだった。


 原初的な野生農法というか共生農法に対してはいろいろと敬服するところはあるが、現状この里ではそれに甘んじる訳にはいかなかった。収穫量を上げることは大事なことだ。鍬を使った土起し、雑草駆除、追肥は絶対に必要な手順だろうと判断し、できる範囲と個所から指導をしていたことうまく行ったらしい。今回の成果で皆からよりいっそう信頼されるならば、次から新規農法を大がかりに行い、簡易的な品種改良にも手掛けたい。収穫時、実入りの良い豆や稲穂だけを別に選り分け、それを来年の「種」としていくのだ。昨夜の夕暮れ、海社の各種指導と判断から久しぶりに帰った俺は、夜っぴいて今後の「農業指導計画」について婆さんと巫女と女官に語って聞かせた。


 山社に戻る前の海社では、発掘作業と並行して保存食となる「魚の塩漬け」についてレクチャーをしていた。もっとも塩が結構な貴重品らしく、そう大量に生産することは望めなかった。海水を煮詰めて精製するのは重労働なのだ。こんなことならば夏の盛りを迎える前に「塩田」の手配をしておくべきだったと後悔もしたが、はてさて塩田はどのように形作られていたのだったか。そして夏の盛りの前となると、その時期俺はまだ自身の身の振り方に腰の定まらないデクノボウだった様な気もする。あの頃と比べると、俺の行動はずいぶんとアグレッシブになった。

 何にせよ、今できるのは海水で洗った「干し魚」の生産となった。内臓をしっかり取り除き、綺麗に洗う、上手くやるとその洗い水で「くさや汁」が作れるかもしれない、あれは確か発酵食品だから栄養価が上がると記憶しているのだが……、だが俺はあの匂いがとても苦手でもある、どうしたものか。なんにせよ海社での次期課題は「塩の増産」になりそうだ。俺は出来る限りのレクチャーを行い、ひとまず伝授できること、相談すべきことを発掘現場にし終えると、「ヒトガタの木組み」とそれに付随するいくつかの勘案に対処して、昨日の夕暮れに山社に戻ってきていた。


 そのあくる日だった、事件が起きたのは。



☆☆☆☆☆



 久々に山社に数日の滞在ができる余裕ができたと思っていた、身体の深部に残った疲れをここで一度抜いておくべきだろう。そう思い、巫女たちとの夜っぴいた談議の翌日、俺は昼間から露天風呂に浸かるという贅沢を楽しんだ。もちろんひとりだ。そう何度も混浴にされてはたまらない。もちろん指導者たる立場の俺が、こっそり山社を抜け出すようなことはしない。忍び足で抜け出したら偶然誰にも気が付かれなかった、というだけなのだ。

 秋空を眺め、時折見る蜻蛉を眺め、鳥のさえずりに耳を傾け、茹るほどに温泉を堪能した。充分すぎるほどにしっかりと身体を温めた後俺はいくらかの準備運動や剣の素振りを行い、夕餉に間に合うようにと山社に戻った。

 その山社の山門にて集団と出くわしたのだ。山社の敷地前、山門では護衛戦士三人とヴァーリたちが問答を繰り広げていた。ヴァーリの背後には戦士隊が詰めていた。十人以上いる。


「ヴァーリ、何があったんだ?」

「継手どの!? う、海社にいたのではないのですか?」


 突然、背後からすっと姿を現した俺に対し、驚愕という表情でヴァーリが反応した。


「昨夜に戻ったよ、海社での作業が思いのほか早く終わってね」


 どうやら海社の頂上に鎮座させた「カラクリ」が早速効果を表し始めたらしい。きっとヴァーリは俺が海社で保存食の助言作業を数日続けて行うという計画を聞いていたうえで、海社の山頂に設置を終えた「カラクリ」を目視したか、その話を伝え聞くことでまだ俺が海社で仕事をしていると思ったに違いない。

 里の者の認識すら誤魔化せたというのなら、あのカラクリ作成にヴィーダルを始めとした鍛冶の里の戦士隊に骨を折ってもらって正解だったということになる。俺の口元には自然に満足げな笑みが出た。するとヴァーリは途端に血の気が抜けた顔をいっそう青ざめさせた。なんだろう、何をそんなに焦っているのだろう、いつもの余裕のある、彼特有の独特の笑みがちっとも出ていない。そこに門番役の戦士が俺に報告をする。


「ヴァーリ殿は継手殿の指示により、交代戦士を従えて社と砦に向かわれるとおっしゃられて……」


 不審そうにそう伝える戦士に対し、ヴァーリは「い、いや、実はわたしに指示を出されたのはヴィーダルさんなんだ、ヴィーダルさんが先ほど継手殿から指示を受けたと……」とあわてて言葉を被せてきた。


「ヴィーダルには鍛冶集団をまとめてもらってまだ海社だぞ? 昨日、最優先事項の最終詰めについて話し合った。その時ヴィーダルは何も言ってはいないし、俺は何の指示もしてないぞ?」


 俺がそう言うと、門番役の戦士は「どういうことです?」とヴァーリを睨んだ。ヴァーリは困惑したように「あ、いや、その、ですね」とまたいつもは見せない焦りの表情を浮かべた。俺は何かいやな予感がした。なんだろうこの違和感は? 俺はぐるりと周囲を見回した。そしていくつかの違和感に確信を持って、ヴァーリの顔を見据えてから門番に伝えた。


「門番の役目ご苦労だったね、ぜひこのまま、緊張感を持って続けてくれ」


 そしてヴァーリに対しては


「ヴァーリ、いますぐ俺に報告すること、ないか?」


 と言った。ヴァーリは「いや、その、特にはないですね」と返答してきた。俺はゆったりと力を抜いて彼を正面から見据えて言った。


「なあ、ヴァーリ。あそこにいるのは『捕虜』たちだよな? なぜお前の隊の戦士じゃないんだ?」 

「あの者たちは『捕虜』なんですか!?」


 門番が驚きの声を上げた。


「だ、大丈夫です、彼らには言い含めていますよ? 隊の者たちはすぐに到着します、ええ、ちょっと別の用事がありましてね」

「先ほどは、砦と社の防衛強化のための戦士だとおっしゃられていたではないですか!」

「確か一番隊はここしばらく作業が続いていたから、三日間の休息を取るように伝えていたよな?」

「え、ええ」


 ヴァーリの反応が悪い。歯切れが悪く、俺の視線を受け止めない。そして俺の脚元ばかりを見ている。


「なあ、俺の眼には、あの捕虜たちは『戦士』に見えるよう衣装を誤魔化していたように見えるのだが」


 視線をこちらに向けず、外套フードを被り顔を隠しているものが半数。俺の発言に門番の戦士たちから唸り声が漏れ、ぶわっと空気が変わる。


「お前の言う一番隊の『別の用事』というのは、もしかしたら里の消火作業か?」

「え?」


 門番の戦士たちが身構えながらも変な声を出す。戦士たちより頭ひとつ突き抜けている俺の視線には、夕暮れに染まる里の一角から立ち上る黒煙を見つけていた。あれは夕餉の準備の煙とはちょっと違う。ボヤ程度かもしれないが火事だろう。


「焼けているのは食料庫のあたりか? 死人が出ていなければ良いのだが――」


 俺の声を打ち消すようにヴァーリが踏み込んできた。俺は決して手放すことのない剣鉈で受ける。俺の脇腹を狙ったヴァーリの拳は剣鉈の鞘に当たった。呻いた。ヴァーリは傷めだろう拳を引き、俺から二歩離れた。俺は木鞘が脇腹に激しく当たって充分すぎる痛みを受けた。もし拳がそのまま当たっていたら肋骨をへし折られていたかもしれない。痛みで呼吸が浅くなりながらどうしても抑えられず俺は声を上げた。


「――どういうことだヴァーリ! なぜ、お前の隊に変わって、捕虜が戦士の装束でお前と共にいる!」

「一番隊は『わたしの隊』ではないですよね? 継手たる貴方と、戦士長たるバルの隊ですよねぇ?」


 身構え叫んだ俺に対し、やっと普通の笑顔の表情に戻ったヴァーリが答えてきた。だが答えは普通のものでは無かった。


「俺に隊はない! バルドルも総括だ、直属隊は持ってない。一番隊の長はお前だ、ヴァーリ!」


 そういう俺に対してヴァーリはいつものやさしげな笑顔で答えた。


「隊の戦士たちはいつも皆こう言っていたんですね、『一番隊は戦士長の直轄隊だ、一味違うところを見せなきゃならん』ってね」


 痛みに身構える俺と、動揺しながらも槍を構え直す門番役たち。そしてヴァーリの背後では捕虜たち十数名がばらばらに棍棒や手斧を構えだした。


「皆が、誇りに思って働いていましたよ?」


 穏やかに笑顔を浮かべる彼の瞳に、なぜか哀しみが見えた。穏やかに笑っている顔に涙の流れた跡が見えた気がした。彼の頬は濡れてないのに声に湿り気が感じられた、なんだろう、この感覚は。口にする内容は憎まれ口の嫌味だらけだが、決して下卑た風には見えなかった。そして激しい怒りや糾弾の言葉でない分だけ、彼の感情の深さが見えた気がした。焼印のように彼の心に貼り付いた感情はなんなんだろう? 哀しみか、嫉妬か、それとも諦めや諦観や無気力だろうか。そして、やはりそれらの感情の奥底で怒ってもいた。そうだヴァーリは怒っていたのだ。静かに、深く。俺はそれに気づきながら叫んだ。


「それがどうした! 誤解があるならそれを解くべきた。隊長として、副官として役割を――」


 正論を吐こうとする俺に対し、再度ヴァーリは言葉を重ねてきた。


「継手殿は本気であの果国の大軍に勝てると思っているのですかね?」


 俺は混乱しそうになる頭を必死で動かし、即答した。


「勝つ。勝たねばならないのだから」


 そうだ、それ以外に道は無い。


「わたしにはソレが信じられないのですよ」


 ヴァーリは俺から離れたまま少し力を抜いたように見えた。どうやらすぐに二手三手を繰り出す気はないようだ。俺は視界を広く持つことにした。里の黒煙はそう大きくは無い、まだ大丈夫だ。山社も無事だ。連絡は届いておらず、峠の砦においても問題ないようだ、俺はヴァーリに話しかける。


「理由を聞かせてくれないか。信じられないというのなら、それは何故だ」

「何故!? 何故ですって! 当たり前のことを聞かないでくださいよ! 分かりきったことじゃないですか、数も規模も違い過ぎる!」


 そうだ、分かりきったことだ。


「なるほど、判断の根拠は分かった。だが俺はそこまで急激に思いつめた理由が腑に落ちない。理由は何だ?」


 俺は問いかけ続ける。すると呼吸二回、ヴァーリは沈黙すると一度ぎゅっと口を噛んでから笑顔に戻り回答した。


「わたしの姉は、鍛冶の里に嫁いでいたんですよ。わたしの恋人は海社の里にいたんですね」


 穏やかに彼は言った。その一言で俺はヴァーリの選択の理由を悟った。俺の顔はきっと蒼くなった。ヴァーリは滑らかに語り続けた。


「最初に鍛冶の里に行ったときは驚きましたよ。そして次に怒りを感じ、そして最後に恐怖しましたよ? こんなに大規模で、徹底的に、矢継ぎ早に攻めてくる敵は見たことも聞いたこともなかったものですから。なのにバルもアナタも、誰も彼もが怯みもしない。ねぇ、攻められているんですよ? 戦場は常に相手側ではなく、こちら側で行われているんですよ? コレでなんで平気なんですかね?」


 俺は答えることが出来なかった。悲しみに暮れていた里人や戦士の中に、彼の姿もあったははずだ。しかしその姿が一瞬だったので俺は見過ごしていたに違いない。気に留めていなかったに違いない。彼の気持ちを、その心の奥底を知ろうとしていなかった。彼の家族構成すら俺は表層一辺倒のものしか知ろうとしていなかったのだ。婚姻で出て行った姉だって? そういえば食事時の馬鹿話で聞いていたような気もする。それにこの里ではよく家族交換が行われる。そうだ、海社の里のスュンがすぐに俺を信頼してくれたのも、実は彼女はニョルズの実の姉だったからなのだ。ニョルズは山社に嫁いだ母方の姉、伯母夫婦の養子として山社の里に来ていたと聞いた。利発であり、血が濃くなく、それゆえに彼には皆が期待していたのだ。里にあらたな活力を与える『次代の子』として。スュンはそんなニョルズから俺の人となりを直接聞く機会があったからこそ、あのようにすぐに俺を信用してくれたのだ。

 この里では家族はとても仲睦ましいが、それは血族という意味に繋がっている。一戸の家にかならずしも一家族だけが住んでいる訳ではなく、家族、兄弟、両親、親戚は同意語で語られ生活もしている。そしてそれは時に混ざり合う。養子や再婚、保護の役割分担として。それを俺は知識として知っていたのに、その繋がりをしっかり知ろうとしていなかった。


 それに、ヴァーリの指摘は正しい。敵である果国は強大であり、常に攻め手としてやってくる。それに対しこちらは後手になる防衛戦ばかりで、いまに至っても防衛戦の準備しか出来ていないのだ。これでは被害はこちら側に出るばかりだ。犠牲になった人たちの哀しみと絶望はどれほどだったろう。


「わたしは気になって気になって仕方がなかったですよ。捕虜の話によると果国の規模はこちらよりはるかに大きいじゃないですか。まして巨人の数が違い過ぎる! 勝てませんよ、これは!」


 俺にヴァーリの言葉を止める言葉がなかった。なぜならその不安は常に俺と共にあったからだ。


「なら、それなら、降るしかないじゃありませんか。負けるなら戦わない方法を探るしかないじゃありませんか!」


 しかし例えそうであったとしても、俺はそれを飲むことは出来ない。


「そして、娘たちを慰み者にし、俺たちは無法者の仲間となるのか」

「死ぬよりましでしょう!」

「死ぬより酷いことなんだ!」


 魂の問題だ。守るべきものがある。大事な人々、連綿と受け継いできた『里』という集合体の意義であり文化であり信仰、それらの全てに繋がることなのだ。本当はヴァーリだってそれを知っているはずだ! しかし、俺にはそれをうまく言葉が紡げない。何だと言えばいい? 『正義』とはとても言えない、『誇り』と言うべきなのか、『意地』と言うべきなのか。『家族』という言葉は彼には届かないのだろう、彼の家族は死んでしまった。その状態で『命』をかけるほどの意味はあるのかと聞かれると、もうそれは言葉では伝わらない、伝えきれない事のように思えた。なんて言えばいいんだ、この大事なものをなんて伝えればいいんだ! 俺は想いをそのまま言葉にした。


「俺は、この里が、好きなんだ」

「私だって好きですよ?」

「この里にある、いろいろと大事なものを、失いたくはないんだ」

「私はもう奪われた気持ちです、ですから生き残る方策を選ぶことにしました」


 俺は「そうか」と呟いた。俺には守りたいものがある、彼にはそれが無い、何と伝えればいいんだ、どうしたらいいんだ。


「もうひとつ、聞いていいか?」

「なんです?」

「抗わずに戦を回避する、そう選択するなら、なぜ皆の前でそう言わなかったんだ? なぜ、いまお前の側に里の戦士はいないんだ?」


 どうしても納得できない理由はそれだった。なぜ自分の考えが正しく、皆のためになると思うのならそれをそう伝えなかったのだろう、ヴァーリなのだ。里の重鎮のひとりであり、内政と医療に関しては並々ならぬ能力を持っていた、秀でた知性ある男なのだ。先ほどより、ずっと長い時間沈黙したのちヴァーリは答えてくれた。


「――すっかり抗戦で盛り上がっている人たちには、何を言っても無駄でしょう」

「無駄か。無駄だと思って、お前は捕虜にだけ話を付けたのか」


 ヴァーリは歪んだ顔をした。この戦に勝てるはずがない、そう言った時と同じ表情だった。「勝てる訳がない」諦めた者の表情だった、諦めることになった事象と理由を憎んで、妬み、僻んでしまった者の表情だった。


「今からでも、お前は皆にお前の考えを語り、説得するべきだ」

「無理ですよ、もう」


 俺の願いにヴァーリは即答した。


「里の食料庫の全てに火をつけたつもりでしたが、どうやらしっかり延焼したのは一棟だけのようですね。食料が無くなれば戦を続けるのを諦めてくれると思ったのですがね」

「きちんと分散管理をしている、子どもたちが巡回に協力もしてくれているんだ」

「なるほど、実に手回しがいいですよね。私のこの行動にも既に何か?」

「どうだろうな」


 何もない。まさかヴァーリがこのような不満と不安を抱え込んでいるなんて思いもしなかった。いま彼らは十数人の集団だ。こちらは四人しかいない。かなりまずい。


「本当なら、ここで巫女どのにご同行を願って、果国へ向かい、休戦と迎合の話し合いの席を設けようと思っていたのですがね」

「そんなに簡単に話が付くものだとは思えないが」

「それこそ、しないといけないこと、でしょう?」


 何を選び、何のために動くのか、それを決めるのは常に自分だ。ヴァーリはそちらを選んだ。


「巫女は渡せない。お前が山社に入るというのなら、俺たちは死を賭して抗う」

「でしょうね」


 ヴァーリは笑って言った。

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