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第35話:準備、戦闘訓練と弓と新兵器

【35】


「どうだ、すげぇだろ」

「ああ」


 バルドルの誇らしげな声は、男たちの掛け声と相まってなんとも頼もしげに感じられた。

 青空の下で総勢百名余の男たちがその熱気を競い合っている。精悍の二文字でしか表現できない肉体からは本気の気合が発せられ、赤銅色に日焼けした肌には編んだ麻縄のようにくっきりと浮き出た筋肉が蠢く。贅肉などは一切ない、皆、痩身のソクラテスだ。


 山社の里にこしらえた避難所の大広場では戦闘訓練の真っ最中だった。


 戦闘集団として組織化するにあたり『隊』を作った。古参の戦士を隊長・副隊長として置き、その下に八名から十名の新人を組み入れて『一隊』を構成している。戦士は里に二十名ほどいたので十の隊がすくに成立した。この新人は全てが山社の里の若者たちだ。血気盛んな志願者で、どいつもこいつも己の力量と度胸を示さんと、全身から汗を噴き出しながら槍を振るっていた。


 また、里から離れた小さな集落にも戦士階級の者が二十名ほどいた、彼らは狩人やきこりとして生計をたてているのでそう長期間に渡り住処を離れることは出来ない事情があった。それゆえそんな彼らには隊の構成はさせず、それぞれの場所にて「里の周辺」に気を使ってもらう形式を取った。何かあれば連絡を入れてもらうし集まってももらう。そんな彼らのうち半数も短期訓練ということで、いまは身体と技と連携を磨いている。


 鍛冶の里からの避難民たちからも戦士団を構成してもらった。彼らだけで三隊分、約三十名の工作隊となっている。里が襲撃された際に戦士階級はほとんどの者が亡くなってはいたが、高齢や息子にその席を譲ったとして引退した者などがいたし、何より金属器や鉄製品の製作については一任することはできた。そこで避難所内に竃をこしらえてもらい、武具の製作を中心に、砦の建築の手伝いなどが中心だ。彼らも手が空いた者が訓練に参加している。


 海社の里からは代表戦士を二十名ほど呼んだ。彼らは在来戦士のみで二隊を構成してもらい競わせるように鍛え上げている。ひととおりの知識と組織力が身に付いたら、彼ら自身にて海社現地においてここと同じように戦士隊、防衛戦士団を構成してもらうことになっている。あちらは人口も多く漁師であることから気性の荒い力自慢が揃っている、頼りにある増強戦力となることだろう、まずは志願者で百名ほどの組織を作ってもらいたい。その後は緊急呼集で二百名といったところまで組織化したい。


 そして周辺の村落から賛同し集った者たちがいる。彼らは約二十名。独自に二隊を作ってもらった。それぞれが出身地の誇りと意地を背負っている。どいつもこいつも不敵な面構えだ。斧、弓、槍、小刀とそれぞれ得意の得物を手に訓練中だ。一番荒っぽいともいえる。


 俺はバルドルの向うにいるヴァーリに問いかけた。


「どの隊もよくまとまっているか? 隊の中で、お互いの信頼関係は出来ているのか? そして隊同士の協力は?」

「同じ出身で構成されている隊に問題は一切起きていませんね、槍での訓練、砦構築での協力、皆気持ちよくやってくれてますよ」


 にこやかにヴァーリは答える。彼の日向ぼっこ中の猫のような、人好きのする笑顔に思わず「そうか」とだけ答えそうになるのを、いかんと気持ちを引き締めて再度問いかけた。


「つまり、同じ出身で構成されていない隊では問題が起きているんだな?」

「いえいえ、いまはもう起きてませんね」


 しれっと返答が返ってきて、俺もバルドルも思わず身を乗り出す。


「最初はちょっといざこざがあったんですがね。喧嘩になる度に、俺とヴィーダルさんが仲介に入って、それでもなかなか収まらなくて。で、そもそもの喧嘩の理由を問いただせると「隊長や副隊長が誰か」というところで隊内に不満があったんですね」

「まあ、大事なところだからな」

「最初は年長で、多くの人員を引っ張ってきた人物を隊長に当ててたんですね。でも連れてきた人員といっても、ひとりで里に来た者以外は兄弟、友人といった、たいがい4人から6人程度の人員でやって来ましたからそう差が無かったんですね。そこにこいつじゃ力量不足だろう、自分より弱いじゃないか、従いたくない、という不満があった訳ですね」

「じゃあ何か、腕比べでもして一番腕っ節の強いヤツが隊長になったのか?」


 バルドルの問いかけにヴァーリは手をひらひらさせて答える。


「違うんだねバル、それじゃ怪我人が続出するのは間違いないからね、それを認める訳にはいかないと思って止めていたんだよね。そこでヴィーダルさんがね――」

「一昼夜かけた飲み比べで決めさせた」

「――はぁ?」


 ヴァーリの言葉に珍しくヴィーダル本人が声をかぶせてきた。相変わらずの「への地口」、むすっという音が聞こえてきそうに見える表情であるが、実はあれは地顔というか癖というか皺というか、とにかくそーゆーもので別に怒っているわけでも不機嫌なだけでもないそうだ。ただそれに口数が少ないのが相まってなんとも取っ付きにくそうではある。そんなヴィーダルの言葉は一言だけで終わっていた。

 俺とバルドルは二人そろって間の抜けた声を出たあと、ヴィーダルの沈黙を見つめながら決めた経緯がどのようなものであったか想像をめぐらせた、しかし分からん。そこに細目笑顔が地顔のヴァーリが再度説明をしてくれる。


「ヴィーダルさんが白酒どぶろくの樽をずらりと並べてねぇ、これを飲めと、そしていまから明後日の昼までかけていいから代表を一人決めろとね。あとは飲み比べ、狂乱の酒宴会だったよ。最初はボクも付き合おうとしたんだけど、最初の夜で終わりだったね。あとはずーっとヴィーダルさんが監督をしてたよ、翌日の昼日中でも飲み続け、翌々日の朝まで起きていれた者が隊長となったんだね」


 白酒どぶろくは蒸留をしていない酒だ、粥のように白くどろりとした舌触りでビールと違ってそう大量に飲めるものではない。少量なら美味いだろうが、それで飲み比べともなると舌にも残るし、喉が受け付けない、腹も膨れる、何より絶対に悪酔いする。蒸留酒のようにアルコール度数は高くはないはずだがそれでも結構なものだろう。俺も先だって槍を抜いた後に海岸で口にし、大いに醜態をさらす羽目になった。あれで二晩ぶっ通しの飲み比べだと? 死人が出るぞ。いや、出なかったようだな、この報告だと。アホみたいな急性アルコール中毒が出なかったのは良かったが、しかし文明社会とはえらい違いの決め方ではないだろうか。いや一緒か?

 俺がぼんやりとそんなことを考えていると、バルドルが呆れたような声を漏らした。


「あー、そりゃヤツら堪らんかったろうな……」

「そのあと誰からも文句が出なかったのか?」


 俺は納得のバルドルと違ってその後が気になった。ヴァーリは猫のように目を細めて再度詳細を説明してくれる。


「言わなかったですね、何しろヴィーダルさんとひとり以外は酔いつぶれて寝ているか、後はげーげー吐いていたからねぇ。それに脱落しそうになるひとりひとりにヴィーダルさんが『じゃあ、お前はかしらにはなれない』と確認を取っていましたからね、もう文句の出ようがないですね」

「ヴィーダル、えげつねぇ」


 バルドルが感想を漏らした。なんでもヴィーダルは戦士の館で一番の酒豪なのだそうだ。そして改めて新たな四十名の荒くれ者を含めてもいちを競える大酒のみであることが証明されたわけか。いや、調整役を兼ねていたのなら、その代表者となった者よりやはり酒は強いと考えていいだろう。往年の若かりし頃はどれだけザルだったんだろう。

 今、雄々しく訓練している彼らを見ながら、別の意味で同情した。自分は悪酔いの体調不良で倒れているのに、相手は平然としているところを見せ付けられた訳で、まぁ、表立ってすぐに反論は出来ないかもしれん。ヴァーリは説明を続けてくれる。


「それに隊長になった彼が、ウルって言う名前なんだけどね。それなりのやり手でね、その後は彼の指示で別の一隊の隊長と副隊長までまとめてくれたんだね。だから合力衆の二隊は実質一隊として機能しているね。隊長になった彼、うん、槍の腕前はそこそこだけどね」


 あ、ウルだよ――。そういうヴァーリの示す指先には、バルドルやヴァーリとそう変わらない、二十歳前後の青年の姿があった。背は彼らより高そうだ、しかしひょろりとした印象の青年で、細い体躯というのはこの里の全体の特徴ではあるが、彼はなで肩で腕が少し長くのように見えたので、より一層その印象が強かった。変わった髪型をしている、片側で髪を編んで連続した赤い玉で止めているのだ、おしゃれさんだ。


 ウルと呼ばれた青年の姿を確認しながら、俺は追加で聞いてみた。


「ところで、酒の飲み比べでうまくまとまらなかったら、次はどうしてた?」

「走らせた」

「ああ、それいいな」


 ヴィーダルがまた一言だけで答えとバルドルがど同意した。えーっと、どういう意味だろう。ヴァーリが苦笑しながら答えを補完してくれた。


「そうですね、一昼夜ぶっ通しの山登りをさせましたかね。走ることならボクが監督できますし、そっちならボクも少しは自信があるからね」


 そうだった、ヴァーリは健脚で、山道を歩くのは誰よりも早かったのだ。疲れ知らずでバルドルだってたぶん彼には敵わない。

 そんな会話をしていると、ウルたち『合力隊』は弓の訓練を開始したようだった。使っているのは長弓だ。十人組づつ横に並び的を射るようだ。

 この里の弓は、その材質に複合素材を使っていないため距離と威力を上げるためには、どうしても長くなる。しかし弓本体が長くなると当然その者の身長が長さの限界となる訳で、腕力はもちろん必要だが、背の高い者がより「強い弓」を引ける体格を有しているということになる。矢をつがえる部分・握りの部分は「弓の半分」の位置となるからだ。もちろん横撃ちなどという曲芸撃ちでもできれば話は違うが、弓の構造・矢の放ち方からそれで飛距離はまず伸びない。そこでその不利を補うために、弓に長じた者は、弓本体の曲げを調整し、握りを弓の下「三分の一」まで下げている場合もある、こうすることで弓全体の長さを補完し、距離を延ばし、威力を高めることができる。


 ウルという名の青年は長身にもかかわらず握りが「三分の一」だった。つまり恵まれた体格を持ち、それに驕らず工夫する射手ということになる。しかもウルの手にする弓には木の皮も貼られているように見えた。あれは里で用意した品ではない。持参した品だろうか。もしかしたらあれは1つの樹から切り出した単純な丸木弓ではなく、2種類以上の木材を張り合わせた初歩的な複合弓に分類される品なのかもしれない、驚きだ。そうなると業物と呼んで差し支えない、けっこう手間のかかった品なのかもしれない。


 ひゅっと音がした。弓はまっすぐに飛び、目標とした的にかつんと当った。ほう、と俺たちが見惚れていると、彼はそのまま第二の矢、第三の矢、第四の矢を立て続けに引き絞り、放った。かつん、かつん、かつん、横に並んだ的の全てに当ててゆく、これには俺たちは声も出なかった。

 的までの距離は四十~五十mはある、当てるだけでも熟練者だ、それを彼は連射で、しかも「それぞれ別の的」に当てたのだ。この里でいちばんの腕の射手でも「同じ的」にならば4連射できたとしても、別の的に4連射を成功させる者は居ないだろう。 


「すげぇ腕前だな」

「うむ」


 バルドルとヴィーダルがひとりごちる。そしてバルドルは駆け出した「オマエすげぇな!」と言って「オレと勝負だ!」とか言っている、物おじしない奴だ。でもたぶん勝てないだろう、バルドルは剣の腕前なら里随一だが、弓はせいぜいちょっとうまい程度だ、戦士の館でもバルドルより腕のいいやつが四~五人はいた。それに対してウルの腕前は空前絶後だったのだ。


「槍の腕前はそこそこでしたが、これは参りましたね……」


 ヴァーリが呟いた。

 彼の使う弓、その弓弦を取り付けるのに必要な人力は何人だろう、一人で張る一人張りが普通だが、もしかしたらあれは二人張り、三人張り、四人張りとかなのかもしれない。まっすくに矢を放つだけであの距離だ、距離を高める斜め打ちをしたのなら、飛距離は百mを越え、二百mに達するのではなかろうか。俺は弓兵隊の組織化を一瞬真剣に考えた、が、弓の扱う技術は下手をすると剣よりなお難しい。彼の技量が特別なのだ、皆にそれを求めてはいけないだろう。何より腕力だけなら随一の俺だって矢を的に当てるのは5本中2本あれば、いや1本あれば上出来だったのだ。弓技術の習得は本当に難しい。

 射的場では「なんでだー!」とバルドルが叫んでいた。ああ、あれは外したな。


☆☆☆☆☆


 その後は槍稽古になった。

 まずは集団戦の訓練となり、木の柵のこちらから、柵の向こう側に向けて激しく突き入れる。一人で、集団で、的に明確に突き入れるための訓練だ。一斉行動の訓練でもある。板塀や物陰にしゃがみ込んで身を隠した位置から、一斉に立ち上がり突き立てる。


 そして「投槍器」を使っての遠投げ訓練だ。

 投槍器アトゥラトゥルは木でできている。槍を保持する板状の、柄杓のようになった形状で、窪みの部分に槍の石突き部分をはめ込んで、手首のスナップをより効果的に拡大させる器具だ。これを使わずに槍投げをしても、そう簡単には目標に突き立てることは出来ない。しかしこの器具を使えばわずか半日の訓練で、がつんっと目標に突き立てることが可能となる。飛距離も大きく伸びる。

 最初、これを提案した時、里の戦士たちは皆「なんだこれ?」と首をかしげていたが、俺が実演してみると「おおぉーっ」とどよめいた。明らかに飛距離が違い、突き刺さる音が違う。黒曜石の槍先が的の木板から抜けないほどに突き刺さっていたのだ。


 そして「石投器」での投石訓練。

 綺麗に割った「紡錘形」の弾を使い、投げ紐で頭上回転させて投石すれば下手な弓よりも遠くに飛ぶ。しかも矢より大きな衝撃を相手に与え、損害を与える。鎧がまだ普及していないこの時代において「石の重さ」という運動エネルギーは馬鹿にはならない、しかも紡錘形。下手に当たれば胴体に風穴すら開けれそうな勢いだ。

 頭上回転させる投法では目標に向かわせるコントロールが難しいが、投球方式で一息に投げ込む方法なら結構簡単に狙った方向へ飛んでゆく。距離と命中率のバランス配合と見極めが難しいが、投法自体は弓より初期習得が簡便で、弓よりも道具調達が容易なのが魅力的なので訓練に組み込んだ。


「投槍器といい紡錘形の弾といい、継手殿の発想は驚きますね」

「しかしすぐに陳腐化するだろう」

「でも今は、まだこちらだけのものですよね?」

「確かに、な」


 一戦だけなら、また数年間ほどなら歩兵戦においてこちらが有利に進めるかもしれない。それでも戦力差が五倍十倍にもなればどうだろう? 分からない、俺は別に戦略家でもなければ、天才軍師でもないのだ。俺はひりひりする不安を押し殺し、穏やかな表情を保つことに注意した。俺は里の指導者の一員なのだ、俺が不安がってどうする、俺は皆の不安を受け止める立場なのだから。

 笑顔のまま握った手に汗が溜まる。こめかみから汗が流れ、顎をつたう、日差しは日に日に強くなる。



☆☆☆☆☆



「来たぜ」

「来たな」


 俺はバルドルと並んで眼下を見下ろした。山頂部に組んだ櫓からは青空の下、急峻な登山道が見える。その向う、樹木の茂その奥、川べりに沿った道すがらに、小さく蠢く集団が見える、敵だ。果国の兵たちだ。ヨトゥンの姿は見えない、大猿の姿もない、しかしあの人数は百や二百の数ではないだろう。斥候からの話と、うごめく集団の目測から、おそらく千程度の人数はいる。この世界において「補給部隊」という概念はない、兵のひとりひとりが自分の食料や食器を背負い行軍する、多少は年若い見習い兵が同行する場合もあるだろうが、あれは純然たる「千人の軍勢」なのだ。


 砦に待機するこちらの戦士の数は百数十名だ。

 海社の里から来た戦士たちは一隊を残し海社に帰している。急ぎ、後続となる戦士たちを組み上げ、呼ぶためだ。明日以降であれば百か二百か三百かの増援を望めるはずだが、はてさて個人の技量はともかく練度はどれほど望めるだろう。


 構成は「山社の戦士」が百名、「鍛冶の里」が二十名、「海社の戦士」が十名、「合力隊」が二十名。伝令や観測・偵察に振り分けている人員がいて、里に残してきた者たちがいる。


 数の差は、百五十 対 千。六倍以上の格差となる訳だが戦力差として考えるとどうなるのだろう、確か何かの軍記もので読んだ記憶では数の差は二乗倍的に影響するらしい、つまり数で一対二ならその戦力差は実質一対四の意味合いになるというのだ。つまり六倍差は三十六倍の力の差になる。俺は脚が震えた。怖い、まずい、唇が震える、舌がこわばる、俺はなんて大それたことを考えたのだろう、三十六倍だって? 勝てる訳ないじゃないか!


 恐怖にかられ背後を見た。山社の屋根が眼下に見えた、山社の里の家々が見えた、その向うには海社の里と社、光り輝く海が見えた。風が頬を撫でる。笑い声が聞こえた気がした、澄んだイズナとイトゥンの声、明るいクナの声、闊達とした婆さんの声、豪快で開けっぴろげヴァールの声、朗らかなスュンとシェヴンの声、涼やかなフレイの声、そして――ゲヴン! 腰の剣鉈が俺の意識を引き戻す。山を吹き抜ける風を首筋に受け、俺は剣の柄を撫でた。


 下を見る。皆がいた、集った戦士たち皆がこちらを眺めていた、上を向いて俺を見ていた。俺を見つめる人の中にはニョルズの姿もある、傷は塞がり骨は繋がったが決してまだ完治したわけではない、なのに「僕もこの里のおのこです、必ずお役にたってみせます!」と志願をして、あの激しい訓練に日々くらいついていたのだ。少年らしい細く頼りげのない身体を、まっすぐな視線で補い立っている。

 俺は口元で笑顔を作り「まだ来ない、ずいぶんとゆっくりの訪問だ」と眼下の皆に告げた、彼らが笑う、俺も笑う、バルドルが見ていた。俺はバルドルの瞳を見つめる。とび色の瞳がこちらを見ている。

 呼吸をひとつ。大丈夫だ、俺たちは強い。皆がこの時のために訓練をしてきた、そして皆で作り上げたこの砦がある。城を攻める際に攻め手が必要な数は三倍というじゃないか、なら俺たちは六倍ぐらいどうということはない、跳ね除けてみせる、俺たちは――強いのだ。

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