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海に降る雨  作者: 美斑 寧子
本編
87/152

87.その頃のミリアム


 アクセルがリンと思いがけない再会を果たしていた、丁度その頃ーー。


 (くだん)のミリアム・ヘスターはどうしていたかと言えば、実は、ひどく美しい場所でのんびりとしていた。そこは暖かく、風が吹き渡る気持ちの良い草原で、とても居心地が良かった。ミリアムは


(ずっとここにいたいなぁ~)


などと考えながら、草むらに寝ころんで、雲が流れていく青空をぼんやりと見上げていたのだった。

 しかし、いつまでたっても眠くならない。雲はどんどん流れていくが、太陽が見えないのも不自然だ。それなのに辺りはとても明るくて、周囲に咲いている色とりどりの花々の、赤や黄色やピンクといった色彩がとてもくっきりと鮮やかに見える。改めて見上げてみると、ミリアムがさっきまで眺めていたはずの青空はどこにも見えず、ミリアムの頭上からはただ柔らかな白い光が蛍光灯のように明るく照らしているのだった。

 それを見た途端、ミリアムは何故か、


(行かなくちゃ……)


と唐突に思った。すっくと立ち上がり、草のついているであろう臀部をささっと払う。遠く前方を眺めると、行く手前方にはなにか、ギラギラ光る銀色の光沢をもったものが広々と横たわっているのが見えた。直感的にそこが自分の目的地だということを確信して、ミリアムは一心不乱に歩き始めた。

 ところが、歩いても歩いても、その白く光り輝く場所に一向に近づけない。そのうちにミリアムはイライラしてきた。


(私はあそこに行かなければならないのに、どうして?!どうしてたどり着けないの?!)


しかしその一方で、まったく疲れないことに気付いている、どこか冷静なもう一人の自分が、


(奇妙だなぁ)


と思っているのを感じていたのだった。

 普段、運動をしないことに加えていつも車で移動しているせいで、少し歩いただけですぐに足が痛くなるし疲れてしまうミリアムである。それなのに、こんな風に延々と歩き続けていながら、足も痛くなければマメも靴擦れも出来た気配がない。これはどう考えてもおかしいのである。

 しかし、元が楽観的であまり物事を深く考えないミリアムのことである。


(今日は調子がいいのかも?)


などと、結局はそう片づけて、ひたすら足を動かし続けたのだった。

 ところが、唐突になにかに足を取られて踏鞴(たたら)を踏んだ。


「な、なに?!」


ビックリしたのと転びそうになったのに加え、さっきからたどり着きたい場所にまったくたどり着けないといった苛立ちも手伝って、ミリアムは自分の足下を憎々しげに睨み付け、そして目を剥いた。

 そこには、なんだか白い雲のようなものがもやもやっとわだかまり、ミリアムの両足を丁度、(無限大記号)の形でふんわりと、しかし断固として拘束していたのである。


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