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海に降る雨  作者: 美斑 寧子
本編
74/152

74.アクセルの誤算

※3/2 10:50am

 色々間違いがありましたので、修正しました。筋に変更はありませんが、書き足した部分がありますので、再度読んでいただければ幸いです☆彡

 それでもアクセルはまだ、楽観していた。昔と違ってグッドマンにもジョン・マシューズにもそして自分自身にも、パパラッチとタブロイド対策のノウハウは蓄積されているのだ。今回もその応用で何とかなるだろう、と考えていたところがあった。つまり、普段からあまり人前に出ない自分の綺羅綺羅しい外見、大物独身男性であること、そしてこの国の人々が人の恋愛ゴシップが大好きだ、と言うことを甘く見積もっていたのだった。


 かくしてタブロイドの出た、運命のその日ーー。


 その日の明け方まで、ディスカストスの名を冠した企業体のビジネスに悪い影響の無いようにと、方々との対応策や各種調整のための指揮をとっていたアクセルは、ソファで軽い仮眠をとっていたところを、グッドマンに起こされた。

 寝不足でズキズキ痛む頭を抱えたアクセルが、アスピリンを飲み下しながら2Fの窓から見下ろした。すると、ディスカストス侯爵家のデリースの邸宅門前にズラーっと並ぶ、パパラッチとテレビ局スタッフの群れががやがやとたむろしているのが見えた。アクセルはまるで犯罪者になったようなイヤな気分になった。


「……あれはなんだ、グッドマン……?」


「無論、パパラッチにワイドショーの取材クルー、そして、少しばかり一般人の貴族ウォッチャーも混じっておりますね」


「そんなことはわかっている!どうしてあんな輩がこんな朝早くから、あんなところにたむろしているんだ!

 警察を呼べ!退去させるんだ!」


「……残念ながら、旦那様。ああして公共の歩道で待ち伏せすることはなんら法を犯しておりません。昨今のマスコミ関係者はちゃんとどこまでやれば警察に捕まって、どこまでだったら大丈夫だと、よく分かっておりますからね。

 法を犯していない以上、警察は動いてはくれません」


この2~3日、アクセルと同じくらいハードな日々を送っていたにもかかわらず、疲労の色は露ほども見せない初老の執事は、すました顔でアクセルのカップに紅茶を注いだ。


「なんてことだ……」


頭を抱えて、アクセルはソファに沈み込んだ。そして、自分の見通しの甘さを呪った。

 実は前日、『念のため、姿をくらまし、しばらくの間ホテルに滞在した方がよいのでは?』とのグッドマンのアドバイスを一笑に付してこの邸宅に留まることを決めたのは、アクセル本人なのである。

 ここまで自分が注目されるとは思っても見なかったアクセルは、やはり自分の事をよく分かっていないといえた。

 そうした騒乱の中、アクセルの長い、長い一日が始まった。

 アクセルがCEOや役員を務める企業のCI部署から次々に指示を仰ぐ連絡が入って来る。幸い従業員に動揺も見られないし、よく知りもしないくせに、アクセルについてペラペラと喋りまくる従業員も、ましてや仕事を放り出して逃げ出すネズミもいない、ということだった。しかし、マスコミの攻勢を避ける為にガードマンを増員するという話や、それに付随する予算の話など、打合せの議題は多岐に渡った。アクセルはこれらを全て邸宅の中に急遽設えた、インターネット会議室で行った。というのも、朝まだはやい時間帯に移動用のラグジュアリーセダンで外に出ようとしたところ、『轢くわけがない』と思っているのか問題のマスコミ取材陣たちが、ワンショットでもアクセルの表情を撮ろうとして、どんどん車の前に立ちはだかったからである。どんなにアクセルが迷惑を被っている被害者だとしても、さすがに人身事故はまずい。

 一方、アクセルは仕事の合間合間を見て、なんとかリンと連絡を取ろうと何度も何度も電話をかけたりメールを送ってみたりした。ただ、リンが一旦仕事に入ったら昼休みでさえスマートフォンのチェックはしない、ということを聞かされていた為、返事は期待してはいなかった。本当は病院の代表電話にかけて、リンを呼びだしてもらおうか、とも思ったが、そんなことをしたら最後、タブロイドの記事に妙な信憑性を与えてしまいそうで出来なかった。正確に言えば、リンに迷惑をかけたり嫌われるのがイヤだったのである。しかし、ここでもアクセルは自分の影響力を低く見積過ぎていたことに気付いていなかった。つまり、首都を遠く離れたギースで同じような騒ぎが起こっているとか、ましてや、記事の内容のせいでリンが事務局長に呼び出されるなどといった事態を、まったく想像もしていなかったのである。

 というのも、記事が出ることはわかっていたが、内容までは編集部内でもトップシークレット扱いになっており知らなかったからだった。記事を読んでそのあまりにひどい内容に、アクセルは怒りの余り頭がスゥっと冷えるような気がした。


(面白いーー。人は怒りすぎるとかえって冷静になるものなのだな……)


そんな事を思いながら、信頼している弁護士に連絡を取る。ただの恋愛ゴシップだったならば相手にするよりも無視したほうが沈静化が早い為放っておこうとと思っていたが、この内容はリンの名誉に関わる問題だ。厳重に抗議して、謝罪記事なりなんなり出させなければならない。アクセルは冷え冷えとした脳裏で、かつて無いほどの怒りが沸々と沸き上がり、超新星のように青白い炎を吹き上げるのを感じながらそう決意した。

 かくして、想像していた以上の大騒ぎになった1日が夕方にさしかかる頃には、それまでもほとんど睡眠時間が取れなかったこともあって、さすがのアクセルも意識が朦朧としてきた。しかし、どうしてもギースへ、リンの元へ行かなければならない、という意志は堅く、そんなアクセルに運転を禁じたグッドマンによって手配された車が、そっと屋敷を抜け出したアクセルを乗せてギース目指して走り出したのは、辺りがすっかり夕闇に沈んだ頃だったのである。

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