52.グッドマンの来訪
少し短いですが、キリがいいところで区切りました。
代わりと言っては何ですが(笑)、続きは明日更新します☆彡
「お嬢様は旦那様とバクスター様が結婚出来なくても、よろしいのですか?」
久しぶりに会った執事から、恨みがましい目で見られて、ミリアムは絶句した。
「な、なんですって?グッドマン、あなたどうしちゃったの?!」
「私はどうもしておりません。」
憮然としながらも、手はちゃっちゃと動く。間もなく薫り高いダージリンが目の前に置かれた。
ここはウィリアムズ・カレッジの小面会室である。アクセルはいない。デューランズにあるディスカストス侯爵家所有のワイナリーに、貴腐ワインの試飲に行っているのだ。今年のそのワインを出荷するかしないかを判断する、重要な仕事で、アクセルは絶対に人任せにしない。
「お兄様も、因果な人よねぇ。もう少し、誰かに任せる、ってことを覚えた方がいいのに。」
グッドマンの持参した、ディスカストス侯爵家秘伝のレシピによるスコーンに、これまた専用牧場から届けられるオリジナルのクロテッドクリームをたっぷりとつけて頬張り、ミリアムは一人ごちた。
「そんな旦那様の心を動かす為にも、バクスター様との関係が大切なのです。」
珍しく、向かいの席に座って自ら淹れたお茶を啜りながら、グッドマンが諭すように言った。
「グッドマン、言ったはずよね?私、応援はするけど、あくまでリンの味方だ、って。リンがその気にならないなら、私にできることなんて何もないわ。
そして、今、リンは恋愛どころじゃないのよ。ウィリアムズ・カレッジ始まって以来、最年少の医師養成コース卒業者になるかどうかが、この半年にかかっているのだから!」
喋っているうちにどんどん興奮してきたミリアムの頬が、バラ色に染まる。そんなミリアムを見て、グッドマンはため息をついた。
「お嬢様、私とてバクスター様のお邪魔をするつもりはございません。」
ぴしっと伸びたその背筋は、この30年来、変わらずディスカストス兄妹の側にあって、陰に日向に尽くしてきた自負に溢れている。
「バクスター様の勉学の妨げにならない方法で、どうか、旦那様との精神的な距離を縮める手助けをしていただきたい、そう申し上げているのです。」
「どういうこと?」
スコーンを平らげ、これまた絶品のディスカストス侯爵家自慢のキュウリのサンドイッチに手を伸ばしながら、ミリアムが興味を惹かれたように言った。
ミリアムとて鬼ではない。兄の幸せを祈っているのは忠義者な執事と同じなのだ。
ただ、リンに輪をかけて直情型のミリアムにとって、あれもこれもと、多方面に気を配るというのは最も苦手とする所なのである。つまりは、リンが勉学に必死に取り組んでいるその状態を応援することにしか、気を回せないのがミリアムらしいと言える。
ただ、ミリアムとて、リンと一生とぎれることのない濃い関係性(義理の姉妹)を結べるのであれば、こんなに嬉しいことはないのだ。
一番良いのはリンの邪魔にならない程度に、アクセルの応援をすることなのだが、その『程度』に自信がない。だから、今はリンの応援だけにしておこう、と考えていたわけである。
しかし、主人の恋路に無関心に見える妹にカツを入れる為、誰よりも頼りになる有能な執事がわざわざここまで出向いてきたのである。
これはミリアムにとっても、渡りに船な状況だった。
「じゃあ、グッドマン、教えてよ。リンの邪魔にならず、なおかつ、お兄様の恋路の手助けになる、っていうその中身を!」
そう言いながら、ミリアムは心持ちふんぞり返って座り心地の良いウィリアムズ・カレッジ自慢の一人掛けソファにその身を深く預けた。
続きは明日更新します。




