表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海に降る雨  作者: 美斑 寧子
本編
39/152

39.恋愛レクチャー

 昨夜、4人が考えた作戦とはこうである。


 まず、ミリアムとリチャードがでかけリンとアクセルを2人きりにする。そうしてからアクセルはリンを連れてレ・バン湖畔にある有名な土産物街を散策してなにか気の利いた雑貨をプレゼントするなどして、リンの気持ちをほぐす。


 ここでミリアムは言った。


「お兄様、今までお兄様を狙っていたハイエナ令嬢達や、後腐れのない女を装って虎視眈々と妻の座を狙っていた女性達と違って、リンは宝石を喜ばないから注意してね!」


「おいおい、ミリアム、私だってそうバカじゃないぞ?半貴石というのか?そういう安くて色の薄い宝石だろう?お前達の世代の女性が好きなのは。それくらい知ってる。」


「はぁーー・・・。お兄様、ダメよ、それじゃ。リンみたいなタイプは宝石とかアクセサリとか、全然喜ばないのよ。」


「・・・。」


「本当よ?もし、突然そんなものプレゼントする、って言いだしでもしたら、リンのことだから、フフッ!即座にその場から逃げ出すわよ?」


「それは困る!」


「だったら、ちょっとした可愛い小物よ、買ってあげるのは。できれば、リンが気に入ってちょっと手に取ったけど、ちょっぴり高くて諦めた、って感じのものをしっかりチェックしておいて、リンに気付かれないように買ってプレゼントするの。」


「それじゃあ、一緒に見て回れないじゃないか?」


「一緒でいいのよ。でも買う所は見られちゃダメ。一旦そのお店を出て、さりげなく戻って、その小物を買うの。」


「さりげなく、ってどうやって戻るんだ?」


「それくらい自分でお考えになられては?」


呆れた顔でグッドマンが口をはさんだ。


「なんだ、その言い方は?」


ミリアムには言われっぱなしのアクセルだったら、グッドマンにはムッとした顔を隠さない。


「トイレでも、忘れ物でも、なんでもいいのよ、お兄様!とにかくこっそりと買って置いたものをプレゼントするの。

 そうすれば、きっと喜んでくれるわ!」


「そうか、さすがだな、ミリアム。」


今までリンについては、数多の失敗を重ねてきたディスカストス侯爵閣下は、謙虚な生徒となって、妹の言葉に神妙に頷いた。


「昼食の後は、絶対に、湖畔の散策路を楽しんでね?あの小道は、周囲を林に囲まれてるからひっそりとした良いムードだし、湖はキラキラ光って、すごく綺麗だし。告白にはうってつけだわ!」


「旦那様、決して先走ってはなりませんよ?間違っても結婚のけの字でさえも口になさいませんように。」


「ナゼだ、グッドマン?私の真面目な気持ちを表現するのに結婚の意思を伝えることほど、有効なものはあるまい?」


「恐れながら、旦那様。旦那様はディスカストス侯爵と言う爵位にその押出のお強いご容姿。加えて、大金持ちという、少々人とは変わったご様子の男性でございます。

 そういった男性に対して、バクスター様のような聡明で、キャリア指向の女性は得てして苦手意識を持つものなのでございますよ。

 下手すると、なにかの理由があって、自分を騙そうとしているのでは?等、不可思議な事をご自分なりに理解し、処理しようとして逃げ出すこともございます。

 まずは、旦那様のお気持ちが冗談でも間違いでも、ましてや勘違いでもない、本気の本気であることを分かってもらわねばなりません。」


いつになく饒舌な、そのディスカストス侯爵家随一の切れ者使用人は言い切った。


「旦那様、真心、真心で接するのでございますよ?それが大切です。」


「私はいつでも真心を尽くしてリンに接してきたつもりだ。」


「旦那様の場合、真心が少々、いやかなりズレまくっております。特に堅実な育ちをしていらっしゃるバクスター様とは。」


グッドマンはリンの育ってきた環境を『堅実な』と表現したが、確かにアクセルにとっての『普通』と呼べるものが、リンにとってのそれとは、大きくかけ離れていることを、アクセルとて分かっている。

 しかしアクセルにとってはそれも一つの楽しみであり、リンと過ごす未来への贈り物だった。そうした違いを一つ一つ、見つけ合って、愛情を深め合っていくのだ。

 当たり前の事などなにもない、そんな関係をリンとならば、作り上げていける。アクセルはそんな風に思っていた。


「ちなみに、リンは無駄遣いは決してしないけれど、雑貨は大好きなはずよ?

 ああ見えて、落ち着いた色合いのものよりもパっと目を惹く、綺麗で鮮やかな色合いの物が好きなの。私があげたプッチ柄のがま口ポーチもすごく愛用してくれているわ。」


アクセルはミリアムと共に訪れるデューランズ首都のメゾンを思い浮かべた。当然、リンにオートクチュールのワンピースを買ってやりたいという衝動に駆られた。

 しかし続いてかけられたグッドマンの言葉によって、冷水を浴びせかけられたかのような気分になった。


「ですから、旦那様、いつも30ドル程度の衣料品を着回しているバクスター様に、10,000ドルもするオートクチュールなんか差し上げても、当惑こそすれ感謝など到底してはくれません。それどころか、あっという間に逃げられます。 真心を込めて、バクスター様の価値観や審美眼に寄り添い、合わせることが肝要でございます。」


「・・・逃げたら追うまでだ。」


「ダメダメ!お兄様!そんなこと言っていては!まずはリンに受け入れてもらわなくてはならないんだから!優しく、気を配って、エスコート。そして、直球勝負で告白!よ!君が好きです、って。もっと知り合いたい、って。」


ミリアムの言葉に頷きながらも、浮き立つ心を抑えきれないアクセルだった。


かくして、翌朝、計画通り、アクセルはリンを伴って車を走らせ、レ・バン湖畔に向かったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ