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海に降る雨  作者: 美斑 寧子
本編
128/152

128.ゲスト達、ギースに集まる

 ディスカストス家の面々がギースの別荘に到着するのを待っていたかのようにギースに現れたのは、アザリスの貴族階級の面々だった。伝統と古い血筋を持つアザリス社交界の面々、王族に連なる最も古い一族としてこの国の身分・階級の天辺にその名を連ねる人々が、次々とロングリムジンやラグジュアリーセダンでギースに集まった。彼らはだれもがこの高級別荘地に先祖代々のクラシックで使い勝手の良い別荘を持つ、正真正銘の貴族ばかりである。

 夏の終わりのこの時期という季節はずれの主の来訪に、留守居を預かる沢山の使用人達はてんてこ舞いをさせられた。

 ピリッとした松の匂いが漂う夕べ、少し涼しくなったせいで(とも)された暖炉からたなびく細い煙は、湿った空気の中まっすぐにたなびくことなく、夜露に濡れたスレート屋根の上をじっとりと流れていった。

 

 続いてギース入りしたのは、アクセルやミリアム、リチャードと実業界の集まりで顔を合わせ親しくなったり取引をするようになった、成功した実業家の面々だった。彼らには、仕事が忙しくてそうそうギースに滞在するわけにもいかないという事情があった。

 それでもひとかたならぬ財産を持つ彼らであるから、ギースに点在するホテルは最上階のスイートルームから満室となっていった。おかげで例年ならばシーズンオフの収益キープに頭を悩ませる筈のホテル従業員達は、『ディスカストス侯爵閣下様々だな』と言い合った。


*-*-*-*-*


 一方、貴族だの実業家だのといったゲスト達を迎えて行われる晩餐会を、成功裡に運営する為にディスカストス侯爵家お抱えのスタッフ達がディスカストス侯爵家別荘に入ったのは、主達に遅れること1日後の事である。

 本番までたったの4日しかないことに、慌てる素振りも見せず、彼らはプロフェッショナルとしての実力を如何無(いかんな)く発揮し、数々の準備を着々と進行した。

 今回の晩餐会の総取締はミリアムだったが、その手足となって現場を取り仕切っているのはグッドマンとギースの別荘屋敷のハウスキーピング全般を取り仕切る薔薇師の妻、ジョン・マシューズの母親である。

 そんな彼女は、晩餐会を切り盛りする為に、アザリス各地のディスカストス侯爵家所有の荘園屋敷から集められたスタッフ達にビシバシと指示を出しながら、何時にも増してクルクルと動き回っては、一回りも若いハウスメイド達に檄を飛ばして回った。

 厨房を取り仕切る為に呼ばれたのは、首都・デリースの屋敷で、アクセルとその使用人達の為に働く、調理長である。伝統あるディスカストス侯爵家の、これまた伝統ある厨房を任され、当主閣下の口に入るものを準備するという栄誉に浴しているその小柄なシェフは、ギースに入ったその翌早朝、近隣の鮮魚市場と青果市場をその目で直に見て回ると、あっという間に献立を立て、原材料を集めた。

 地域で取れる新鮮な魚介類はもちろん、フレッシュハーブや野菜、そして脂身が少ないのに柔らかいと評判のギース牛の高級部位である、霜の入った美しいフィレ肉を切り分けながら、晩餐会に出席する全ての人々を満足させられるよう念じながら、手抜かり無い下ごしらえに励んだ。


短いですが、キリがいいのでここまで。

続きはまた明日!

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