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海に降る雨  作者: 美斑 寧子
本編
127/152

127.プロデューサーはミリアム

お待たせしました!


 アクセルとミリアム、そしてリチャードとグッドマンを乗せたディスカストス家のロングリムジンがギースの別荘に入ったのは、(くだん)の晩餐会の5日前であった。

 つい一週間前にディスカストス侯爵家当主、アクセル名義で発送された、いまだかつて無い広範囲に渡る招待状はアザリス社交界に大激震を走らせた。なぜならば、そこには『婚約披露パーティ』の文字が踊っていたためである。

 アクセルとの縁組みを目論んでいた適齢の令嬢達やその親はもちろん、アザリス国内のありとあらゆるタブロイド紙の記者達は、皆、一様にその大きなショックから立ち直ると、次は、いったい誰があの『麗しの貴公子プリンス・チャーミング』を射止めたのか?と情報収集に躍起になった。しかし、幸いにも何年か前に一度だけ噂になった孤児(リン)のことを思い出す者は多くなくーー。お披露目を控えてひっそりと、しかし、着実に準備を進めていたリンの周囲は騒がれずに済んだのだった。

 今回、わざわざ婚約披露パーティを開いて、アクセルの婚約者としてリンを大々的にお披露目しよう、と言い出したのはミリアムだった。

 イヤイヤながらも長年アザリス社交界とつき合ってきたミリアムには、リンがアクセルと結婚する気になったと分かった時から、こうするのが最も効果的な手段であることが分かっていた。

 しかし当然アクセルは、その『お披露目パーティの席で、リン共々見せ物になる』というアイディアにむっつりとした表情で難色を示した。そんな兄に向かって、ぽっちゃりとした白い指を突きつけつつ、ミリアムはしたり顔で説明した。曰く、


「こういうのはね、インパクトが大切なわけ。もう、バーンってリンを見せつけてやるのが、敵わない、って思わせるのが一番効くのよ。

 眩いばかりに美しいリンに加えて、デレデレに甘くとろけるような表情をしたお兄様が隣にいれば、完璧よ。大抵の人は戦意を無くすわ」


「甘甘……」


アクセルが抗議したそうに口ごもる。が、すかさずグッドマンが


「それについては心配ございません。リン様とご一緒の際の旦那様は見ていて恥ずかしいくらい甘甘でございますから」


等と言うものだから、ますますむっつりと黙り込むことになった。

 そんなアクセルを尻目に、ミリアムが蕩々と語ることにはーー。


「以前にタブロイド紙に好き勝手に書かれたのも、結局の所、お兄様とリンの関係があやふやで脆弱(ぜいじゃく)な、ただの恋人同士だって噂、ってところに問題があったと思うの。

 人の不幸は密の味、っていうでしょ?

 貴族ウォッチャーの人達が注目してるのは、ズバリ、『お金も身分もあるけど不幸』っていうステレオタイプな貴族像なの。そんなトコに、お兄様とリンが、まだあやふやな関係だ、っていうゴシップはピタっとハマっちゃったのよ。まだ、二人の関係を壊すのは遅くないかも、っていう。

 だから、今回は、二人の間にあるのは揺るぎない約束、ってことを強調するの。これは何かの間違いでも、勘違いでも無い、本気の、社会的後ろ盾のしっかりした関係なのよ、ってことをバーンと前面に出して強調する、ってわけ!」


人差し指を振り立てて、ミリアムは意気込んで言葉を継いだ。


「まぁ、芸能人みたいに記者会見してマスコミを利用する、っていうのも一つの手だけれども、私たちは別に有名人じゃないし今後、顔を売っていく必要もないでしょう?それに、マスコミは良い時は良いけど、悪い時は根も葉もないことを、平気で書くのよね。そんな人達に向かって、素直に色々喋るっていうのもねぇ、無駄だと思うのよ、信用できない。。

 だから今回は、正攻法で行く。つまり、古き良き伝統に則って、公式に、誰の目にもわかりやすいやり方、つまり、お披露目パーティを開くことにしたってわけ。一昔前だったら、それに先がけて新聞に婚約記事を出すところだけれども、そこまではね」


どうやら婚約記事については、グッドマンと相談をしたらしいミリアムは、ちらりと有能な執事に視線を流しながらそう言った。


「そんな目的だから、出来るだけ沢山の貴族階級の人達に、直にその目でリンとお兄様の様子を見て貰うのが肝心なのね。

 だから、今回はとにかく浅く広く招待状を送ったわ!ほんの少しでも親交のあった社交界の知り合いはもちろん、ビジネス関係の知り合いからウィリアムズ・カレッジの同窓生に至るまで、ね。ありとあらゆる知り合いに声をかけた。

 そしてーー、ほとんどの人から出席の返事をもらったの。まったく、この国の人達のゴシップ好きと来たら!物見高さというか野次馬根性というか。

 でもね、中には正真正銘、リンとお兄様を祝福する為に来てくださる方もいるから安心して!」


ミリアムが半ば呆れ、半ば驚きと共にそう語ったとおり、この晩餐会は評判になっており、その招待状には、すでに高値のプレミアが付いているという噂だった。特にタブロイド紙各社ではなんとかパパラッチを潜り込ませられないものか、と伝手を頼った招待状争奪合戦が起こっていた。

キリがよいので今日はここまで。

続きはまた明日更新します☆彡

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