123.大船に乗ったつもりで
瞬く間に2ヶ月が過ぎた。
と言っても、瞬く間に感じたのはリンとその周囲の人々だけで、アクセルにとっては、ジリジリとした、夏の日射しに似た焦燥感を伴った、長い日々ではあった。
それでも、アクセルがメールを出せば、リンは必ず返信をしてくれるようになった。しかも、3回に1回はステラの写真付きだったし、5回に1度はアクセルへの返信でなく、リンが自らメールをくれるようになったのは、アクセルにとってようやく、と言える出来事だった。
しかし、それに浮かれて上機嫌になっているところを失笑し、その上、今リンが取り組んでいる『努力』という名の『企み』について、最も深く関わっているクセに、一貫して黙秘を貫いている老練で有能な執事に何とも言えない眼差しで眺められるのは、不愉快なことには違いない。
しかも、この執事は、やれステラに会っただの、会ってアレをした、コレをした、と自慢げに話すものだから、アクセルの心中は荒れまくりであった。無論、父親としてのプライドを見せて、決して羨ましそうにはしていないつもりのアクセルだったが、ギリギリと奥歯を噛みしめていることは、グッドマンにはバレバレであった。
ただ、今まで苦労しかかけた覚えのない、ほとんど親代わりのグッドマンが実に幸せそうなのを見て、恩義を感じているアクセルとしては、少しは部下孝行になったか?と、それなりに良い気分になるのも事実ではあった。
一方、リンに会えないアクセルの羨望を集める人物がもう一人いた。実の妹、ミリアム・ヘスター・ディスカストス侯爵令嬢その人である。
この妹もそして、妹の夫であるリチャードもまた、グッドマンの指揮するリンの『企み』に一役買っている、と、退院直後に知らされた。というのも、アクセルがマニティ島からデリースの邸宅に戻るやいなや、リチャードとグッドマンを従えてやってきたミリアムが宣言したからである。いわく、
『お願いだから、大人しく2ヶ月待つように!』
アクセルは辟易してそっぽを向いた。2ヶ月待つとは言ったが、まさか、一度も会わないつもりなわけないだろう、と高をくくっていたのである。というより、そんな仕打ち、もはや耐えられそうにない、と思っていたというのもあった。
そうこうするうちに、再びリンがマニティ島からも消えたことを知りったアクセルは、リンを探し出した調査会社に再度依頼をして、再びリンを探し出して貰おうと計画していたのだった。
ところが、ミリアムにそれを禁じられてしまった。ということは、本当にこれから2ヶ月間、愛するリンにも、愛する娘にも会えない、ということであろう。
承服しかねる、と憮然とした表情でもって、無言で主張する大人げない兄に向かい、ミリアムは言った。
「リンったら、もうね、涙をポロポロこぼしながら、謝るわけよ。もぉーー、そんな風に謝るくらいなら、失踪なんかするな!って感じよねぇ?」
呆れたように言いながらも、実はリンとの再会の場では、同じくらい泣いたミリアムである。
「とにかく!私はあれ以上、リンを泣かせるわけにはいかないの!
だから、お兄様、お願いね。大人しく待っていて!
それにね、今の私とリチャード、そしてグッドマンから、一つだけ確実に言えることがあるとしたら、お兄様は、確実に大船に乗ったつもりでいてくだされば良い、ってことよ」
ミリアムはニッコリと笑って、請けおった。
かくして、アクセルは気になることは気になるが、リンの捜索はせず、妹の言うとおり、大船に乗ったつもりでいることにしたのだった。
ミリアム久しぶり!
ってか、ちょっと短いですが、キリがいいのでここまで。
続きはまた明日更新します☆彡




