121.信じて待っていて
リンが意を決して顔を上げると、グッドマンと目が合った。頼りになる老執事は、無言のままこくりと頷いた。その眼差しは、言葉無しでも
(信じたように、ありのまま、そのままぶつかって行けば良いのです)
と言ってくれているように見える。
(そうよ。私にはもう、怖いものなんてない。失いたくないものも、ない。
今、私は人生を生きる意味そのものを、手に入れた。愛する人の真心を。閣下の、私を愛してくれているという心を。
あとは私が心の底から信じれば良い。自分と、そして閣下を……)
リンは、自分の中にまっすぐ差し込んだ力強い光の柱を感じて、背筋を伸ばした。今から自分が話そうとしていること、そしてこれからやろうとしていることが間違いなく正しいのだ、と強く確信できる。 それは、この3年間、リンが少女から女性へと変化していく過程で、いつのまにか忘れていた感覚だった。
ウィリアムズ・カレッジに入学し、医師という夢に向かって着実に一歩一歩進んでいたあの頃ーー。幼い故の一本気な気持ちや、自分を、将来を善きものと信じられる眩いほどの確信に満ちていた。
ところが、アクセルと出会い、ミリアムと共に過ごす内にリンは惑い、以前のような確信を持って生きることがどんどん出来なくなっていったのだ。人生も、人の心も簡単なものではない。良い人ばかりではなく、努力が実を結ばないこともある。それでも、それを乗り越えて進んでいった先に、幸せはあるのだろう。逆に言えば試練を乗り越えて行った先にしか、本当に手に入れたい物はないのだろう。リンはそう思えるようになった。
(私の中の、純粋であるが故の、透徹な強さは失われてしまったけれども。
その代わりに、柔らかくて強靱な、しなやかな強さを手に入れた。自分の限界を知って、それを謙虚に受け入れて、それでも諦めずに努力し続ける。愛する人に助けを請うことを恐れない。そんな強い心をーー)
リンはそっと目を伏せ、再びぐいっと顔を上げた。優しい目をした、愛する人が目の前にいる。腕の中には、小さな小さな愛の具現を抱いて。リンは大きく息を吸った。
短いですが、キリのいい所で切りました。
続きは明日、連続投稿します☆彡
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