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海に降る雨  作者: 美斑 寧子
本編
118/152

118.混乱する侯爵閣下

(……赤ん坊?)


 グッドマンが大切そうにその腕に抱いていたのは、小さな赤ん坊だった。全身をピンクでくるまれているその様子から、どうやら女の子らしいとあたりをつけるアクセルである。白いフリルの付いたスタイ(よだれかけ)を着けたその小さなレディは、口にスカイブルーのおしゃぶりをくわえていた。

 意外な展開に腰を浮かせ、今やすっかり立ち上がってしまったアクセルは、訳が分からないといった体で、グッドマンに抱かれた彼女を見つめた。すると、彼女もまた、アクセルをじぃーっと見返してきたのである。

 アクセルが真っ先に目に留めたのはそのふさふさとした巻き毛だった。


(……不思議な色だな。灰と金と、茶も入っている……いや黒もか?なんだかいろんな色の糸を、ごた混ぜにして、更に手櫛でこう、ぐちゃぐちゃっと散らかしたような髪の毛だな……)


そんな少し失礼なことを考えている。と、そうこうしているうちに、グッドマンがアクセルの真ん前に立った。そして、無言でその赤ん坊の顔をアクセルの方へと向けるように、身体を回転させたのだった。まるで自分の子どもやペットを、世界一可愛いと信じている人間が良くやる仕草だ。


『ほら見てくださいよ。うちの子、可愛いでしょう?』


そんな心の声が聞こえてくるようである。ご多分に漏れず、グッドマンの顔もまるで砂糖で煮詰めたように甘い表情になっている。


(……いつもはしれっとした表情で、憎まれ口にしか聞こえない小言ばかりを口にしているクセに……)


混乱しながらもアクセルは思った。しかし、そのいまだかつて無い程幸せそうなグッドマンの様子に、


(……グッドマンがこんな顔をするのを見たのは初めてだな……)


等と思い当たって、アクセルは益々混乱した。

 と、次の瞬間、グッドマンの腕の中できょとんとしていたその赤ん坊が、アクセルの方へとまるで当然のようにその両の(かいな)を伸ばしてきた。


「……!!……」


アクセルの斜め左方向で、いつの間にか立ち上がって黙って様子を見ていたリンが息を飲んだのが分かった。


(……まさか……この赤ん坊の父親ともう、リンは新しい人生を始めていて、それで……?)


アクセルの心臓が、またぞろイヤな鼓動を打った。次いで再び気管が締め付けられたように、息がしにくくなるのを感じる。

 ところが、アクセルがそんな暗い思考に陥っていることにまったく無頓着に、ピンクの塊のようなその愛らしいレディが、アクセルの胸の辺りにグッとしがみついて来たのである。


(……えっ?!)


アクセルは慌ててグッドマンから彼女を抱き取った。


(暖かい……)


アクセルの第一印象はそんなものだった。不器用な手つきで、その暖かく柔らかくミルクの匂いのする生き物を抱き留め、知らず知らずに腕の中で周囲を見回している小さな頭を見下ろした。

 まぜこぜ色の不思議な色の巻き毛で覆われた頭頂に、意外にスッキリとした旋毛(つむじ)が見える。次いで、その下で瞬きを繰り返している、驚くほど長い睫毛が目に入った。


(髪の毛はごたまぜ色だが、睫毛は黒いんだな……リンと同じだ……)


と、その時である。腕の中から赤ん坊がアクセルを見上げた。当然、かなりの至近距離でアクセルと彼女は見つめ合うことになった。


「えっ?」


アクセルは思わず声を上げた。ビックリして、眼を逸らすさえできずにただただその、驚くほど大きな瞳を見つめ続けた。


「あ……ああ……!」


無意識に、喉の奥から声にならない声が、まるで断末魔の呻きのように漏れ出てきた。アクセルは(うめ)いた。いや、(うめ)くことしかできなかった。

 ふっくらとしたピンクの頬。ごたまぜ色の、不思議な髪の毛。


(自分とリンの髪の毛を混ぜたなら、丁度こんな色合いになるんじゃないか?)


そして、その灰色の瞳。とろりとした水銀に、薄い薄いベイビーブルーのクリスタルガラスをかぶせたようなブルー・グレイの瞳。光の加減で、ゆらゆらと揺らめく光を反射して、角度によってはまるで地中海の海の青を映したような、青い(まだら)が浮かんでいるように見える、不思議な色合いの灰色のーー。アクセルはまるで金縛りにあったように、ただただ腕の中の瞳を見つめ続けた。

 なぜならーー。

 それは(まさ)しく『自分』の瞳だったからである。


キリのいい所で分けました。続きは明日更新します☆彡

いつもご愛読、どうもありがとうございます♪

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