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海に降る雨  作者: 美斑 寧子
本編
109/152

109.リンの独白(4)

「許せない!絶対に許さない!絶対に!!」


「今度こそ、放逐してやる!教会から!全ての組織から!」


「なにがなんでも、追い出してやる!」


「私の味わった絶望を、哀しみを、痛みを、同じように思い知らせてやる!!」


「不幸にしてやる!」


「いっそのこと、いっそのことーー」


「死んでしまえばいい!!」


それは初めて感じた"憎しみ"。生まれて初めて自覚した"呪詛"であり、"(のろ)い"の言葉達でした。それらの言葉は容赦の無い言葉の飛礫(つぶて)になって、目の前の男へと投げつけられました。

 男は顔を歪ませ、あわあわと口を開いたり閉じたりしながらも、言葉を発することも出来ずに私を眺めることしか出来ずに、ただ突っ立っていました。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


いまやシンと静まりかえった廊下に、私が呼吸を整える、荒い息だけが響きました。

 その時でした。

 司祭の醜い法衣に縫い込まれた十字が、私の目に飛び込んできたのは。

 私は我に返りました!


(え、なに?今の……。私?私の中から聞こえた?)


知らず知らずに、足下がよろめきました。一気に血が下がり、手足が冷たくなったのがわかりました。

 さっきまであんなに、燃えるようだった頭と身体が、まるで氷の張った湖に飛び込んだかのように冷たく冷え切っているのが感じられます。


(私、今、この人を殺したいほど憎んだ……。死んでしまえばいいとまで思った……)


全身を覆っていた興奮が急激に冷えたせいで、全身がブルブルと震えました。それをなんとか止めようとして、両手を握り合わせながら、顔を上げて目の前の男を見るともなしに眺めました。

 途端に男の吐く、(くさ)(くさ)い息の臭気が鼻の奥に蘇り、腹の奥底からなにかがせり上がってくるのを感じた私は、それを押しとどめようと、両腕を身体まわして抱きしめると同時に、必死で右手を口にあてました。そうしていないと叫び出しそうでした。そして、一度(ひとたび)叫びだしたらもう、コントロール不能になってしまいそうで、自分がどうにかなってしまいそうで怖かったんです。

 私が恐怖したのは『憎しみ』でした。

 腹の底からせり上がってきたあの黒い黒い(かたまり)の正体は、(まさ)しく私自身の中に存在していた『憎しみ』だったからです。

 それは、爆発的な『怒り』を媒体に顕在化し、外に出ようとして私の身体を支配しました。それに屈服ーーいいえ、喜んでコントロールを受け渡した私は、何もかもを忘れ、相手の"死"までも渇望し、あまつさえそれを口に出したのです。

 私自身の『憎しみ』。私の中に確かに存在して息づき、少しずつ少しずつ育っていた、暗い暗い暗黒ーー。

 私は絶望を知りました。

 いいえーー知っているつもりでいた絶望が、ほんのささやかなものであることを、知ったのです。

 私はなにも知らないで生きてきたのだとーー自分自身を知らずに生きてきたのだと言うことを、なにも知らなかったということを知ったのですーー。


短いですが、キリがいいので今日はここまで。

続きは明日、8/28(水)に更新します。


いつもご愛読、どうもありがとうございます♪

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