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海に降る雨  作者: 美斑 寧子
本編
100/152

100.執事の回想(2)

「いったいなにがあったんですか?何をなさったんですか?」


リンの失踪を知り、知らず知らずに(なじ)る口調になってしまったグッドマンを責めもせず、アクセルは語った。


「リンと私は結ばれたーー。

 リンは私を愛し、そして私もリンを愛した。それにはなんの行き違いも間違いもなかったと、断定できる。

 しかしリンは消えたーー。こんな風に。

 私はリンの身の上に、なにかが起きたのではないかと思っている。

 あの日ーー、ホテルを出てミリアムの枕元に(はべ)り、そして私がミリアムの病室に到着するまでの間に。

 リンがこんなふうに消えるしかない、と判断せざるを得ない、なにかが。

 そして今、この瞬間も、後悔を抱えながら、どこかで生きている。心のどこかで、私が見つけてくれるのを待っているに違いない。そう、思っている。

 いや、たとえそうでなくてもーー、リンが自分の意志で私の前から消えたのだとしてもーー、私はまだリンに伝えてないことがある。それを伝えなければならない。

 だから私はリンを探す。


 ーーいや、違うかな……。私はただ、リンの元気でいる姿を確認したい。元気でーー、笑っている顔を、もう一度確認したいだけなのかもしれないーー」


そこにはいまだかつて無い表情をしたアクセルがいた。嘆き悲しむのでも、絶望に沈むのでもなく。それは愛を確信した人間だけが持つ、限りなく強靱な精神であり、何かを見通す力を与えられた魂の輝きだったのかも知れない。

 そんなアクセルを見て、グッドマンは思った。


(……それならば、私はもうなにも言うまい……。旦那様の言うとおりならば、いずれバクスター様に辿り着くでしょう。

 そして、それが叶わなかった時には、またはバクスター様が旦那様以外の男性との人生を選択した後だった時にはーー、旦那様の傷ついた気持ちがうまく軟着陸するための時間というクッションを用意する為に、私に出来ることといえば、一つしかないでしょうーー)


 そうして、グッドマンは捜索に力を入れるのをやめたのだった。

 ディスカストス侯爵家の執事という立場から考えれば、グッドマンはなんとしてもリン・バクスターという女性を捜すべきだということは良くわかっていた。なぜなら、愛情深い彼の主人は、リン以外の花嫁を娶るわけがないだろうことが、容易に想像できたからで、そうなると直系の跡取りは望めない、という状況が出現する。

 そうなると、幸いなことに、一命を取り留めたミリアムとリチャードの間に子供ができたとしても、なんだかんだと小うるさい親族が、継承権を持ち出して爵位に群がり、色々すったもんだあるだろうことが予想されたからだった。かつて、アクセルとミリアムが若くして両親を失った時の様々な出来事を反芻して、グッドマンはゲンナリした気分になった。


 その後、のらりくらりとした調子でしかリン探しをしないグッドマンに見切りをつけ、別の調査会社に徹底的な捜索を指示したアクセルが、上がってくる報告書を読む度に暗く落ち込んでいるのを見るにつけ、心に迷いが生じるグッドマンだったが、のらりくらりを貫くという方針は曲げなかった。万が一の時、こうした時間がきっと、薬になってくれるだろう、そんなふうに半ば願望のように考えているグッドマンだったのである

 やがて、そうこうするうちに季節は二巡りして過ぎ、とうとうアクセル直属の調査チームがリンを発見したということなのだろう。

 そして、それを知らされたアクセルが、取るものもとりあえずに、一刻も早くリンに会いたいという衝動を堪えきれずに、悪天候の海に出る、という無謀な行動に出た結果が、こうして満身創痍でベッドに横たわるディスカストス侯爵、というわけなのであろう。


短いですが、キリがいいのでここまで。

次回更新は、8/7(水)です☆彡

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