■21話■
内部は鼠色の巨大な石の中を掘りぬいたように、あとからくっつけたような継ぎ目の存在しない不思議な空間だった。
ところどころ、文字が彫ってあり、時折その文字が淡い光を放つ。
部屋全体が淡い光を放っており触れると感触は堅いのに生温かかった。
「なるほど、よく出来ておるのう」
奥の方に砂時計のようなものが、何もない下のから上へ光の粒が舞いあがっている。
「これは?」
「魔力計ですだ。上に光が溜まっていれば迷宮に必要な魔力よりも迷宮を覆っている陰の気が上回っているということになりますだで」
ロリコーンは辺りを見回して、ふと気付いた事を口にしてみた。
「この部屋、ものすごく頑丈そうだけど、ひょっとして俺が魔法を使ってもびくともしない?」
「ええ、おそらく。ロリコーン様をバカにするつもりはございませんだが、どれだけぶつけても傷を付けることはないと思いますだ」
「そんな素材あるわけないから、これも魔法か?」
「ええ、そうでございますだ。『伝導の魔法』が掛かっていますだ」
「ほう。それはどんな魔法なんだ?」
「簡単に言うと、衝撃を分散させる魔法ですだ」
「もう少し、詳しく」
「ふむ、わらわが説明しよう。例えば、ブロック1つにこの魔法をかけたとしよう。それを破壊するのに10の力が必要だとする。そこでブロック2つをこの魔法をかけてみる。すると、破壊するのに20の力が必要になるのだ」
「うん?それって当たり前なんじゃあ」
「なぜじゃ?ブロック1つだろうがブロック2つだろうが、例えば穴を開けるのに必要な力は同じであろう?」
「ああ、そういうことか」
「この魔法をかける範囲が広範囲であればあるほど、強度が増していくというわけじゃ」
「それで城とか作ったら鉄壁じゃないのか?だれも攻められないほどのができそうだけど」
「そうじゃな。じゃが、城なら出入り口を作らねばならぬであろう?固定されているものでなければこの魔法はかからぬ」
「それでも城とかには使われていたりするんだろう?」
「そう言うところもあるが、維持費がかかるからの。人間の居住には向かぬと思うのう」
「維持費?」
「もちろん、魔法の力を維持するためには魔力じゃ。大きければ大きいほど必要な魔力は膨大になる。しかし、小さいと体して意味がない。人間どもには、役に立つ程度の大きさを維持するための魔力を調達するのは難しいじゃろう」
「ふーん?でもこの迷宮って、何気に全体にこの魔法かかってない?」
「お気づきになられましただか」
「ああ、見えるところは土壁だったり、タイルだったり、鍾乳洞だったりするけど、区切りは多分全部この部屋で見えているのと同じもので出来ているんだろう?」
「ええ、そんな冒険者は見た事ありませんだが、重要な壁を壊されたり、直下掘りなどで直接中枢へ行けないようになっていますだ」
「で、それを維持するための膨大な魔力とやらはどこから調達するのさ?もしかして、それも陰の気を魔力に変換したやつで補っているのか?」
「すこし違いますだ。この壁が陰の気を魔力に変換するですだ。じつは衝撃を分散するのは副次的な効果で、迷宮内のあらゆる場所から魔力を抽出することが、この『伝導の魔法』の意義ですだ」
「知ってたかフレア?」
「当然じゃ」
「で、壊されることってあるのか?」
「あまり聞きませんがありますだよ。外壁が維持されるためにはその大きさに比例した、魔力が通っている必要がありますだ。つまり、相応の陰が満たされていなければならないですだ。
で、だ、陰の気があまりほとんど溜まっていない内から巨大な迷宮を構築したばっかりに、ぼろぼろの外壁だったなんてこともあったようですだ。
ちなみに、遥か昔の魔王様の話だと聞いておりますだ」
「フレア見たいな魔王かな?」
「わらわはそんな間抜けではないわ」
「で、その迷宮はどうなったんだ?」
「本来あるべき強度を基準に設計されていたために、意匠を凝らした薄い外壁部分が多かったらしく、何かの拍子に崩れ去ったという話ですだ」