■1話■
「なるほど、それでフレアは人間から身を守る為に強大な力を持つモンスターを召喚しようとしたわけか?」
「呼び捨てするでない。フレア様とか魔王様と呼べ。
憎き人間どもをひれ伏しぎたぎたにすることができる邪悪な魔物を
呼び寄せるつもりだったのじゃ。それがよりにもよって人間。しかも弱そうなお前が出てきた」
フレアは今にも泣きそうな表情でカケルを睨みつけた。
しかし、その表情はカケルのロリコン魂を揺さぶるだけのものだった。
「まぁ、確かに弱いと思うけど、俺はフレアの味方だよ」
カケルにとっては幼女こそ正義だった。
「人間の癖に本当にわらわに味方すると申すのか?わらわは人間の敵ぞ。肉を引き裂き骨を砕き魂を食らう」
「出来もしないことを言う」
「う、うるさい!その予定なのじゃ」
白くて小さなこぶしを握りしめ、上目遣いにカケルに訴えた。
「なんという可愛さ。フレアちゃんの為なら悪魔にだって魂を売ってもいい。
俺の少女への愛の強さを信じてほしい」
「人間のくせにそなたの心はどこか邪悪じゃのう。おぬしの放つ陰の気が僅かばかりわらわに力を与えてくれよる」
「フレアちゃんをだっこさせてくれたら多分もっと力を与えられると思うよ」
「その厭らしい表情は何とかならんのか?」
その時、遠くで人の声が聞こえた。「こっちはいない、そっちはどうだ?」
どうやらフレアを討伐するために編成された兵の集団のようだ。
「む、もうここまできおったわ」
「フレアちゃんを殺そうとするやつらか?」
「うむ、わらわもお主を召喚するためにすっかり力を使い果してしもうたわ。見たところお主も大した力を持っておらぬようだし
ここは逃げるぞ」
そうして二人はそそくさとその場を後にした。
「ところでフレアちゃんはこれからどうするの?」
「陰の気が集まる場所へ行って魔力を蓄えるのじゃ」
「陰の気って?」
「魔の力の源じゃ、死や怨念、恐怖、負の感情が渦巻く処に集まりやすい。有り体に言えば辛気臭い場所じゃな」
「それが集まってフレアちゃんができたの?」
「そっから出来たわけではない。陰の気を力の源にしているというだけじゃ。わらわ自身を形成するのに陰の気が全然足りんかったためにこのような姿になってしもうた」
「陰の気がほとんどなかった?」
「そうなのじゃ、何やら人間どもが陰の気が溜まるはずの場所を尽く潰して清めおった。わらわが生まれるその年に合わせてな」
「たとえばどんな?」
「歴代の魔王たちが作った迷宮や塔、洞窟などじゃ。人間をおびき出す為の財宝や貴重なアイテムなんかを置いてのう。
欲望を満たし栄光を手に入れることを夢見た者たちがその志半ばで絶命し、その怨嗟が染みついた内部は、濃厚な陰の気が満ちておったのじゃが」
「全部攻略されてしまったとか?」
「それだけならまだよいのじゃが、内部に住み着いたモンスターを追っ払ってしまったようじゃ。
そこで死に絶えた冒険者たちの魂も供養され怨嗟の念も払われておるな。
さらになにやら聖なる術で陰の気がたまらないように細工されておる」
「300年ごとに毎回毎回魔王が現れるって分かっているなら、いい加減対策されてしまったってことか。しかしそれだともう陰の気があるまる場所ってないんじゃ」
「場所は潰されてしもうたが魔物自身も陰の気を纏っておる。奴らのおる場所も陰の気が蓄積されるからのう。陰の気を辿っていけばこやつらに会える。そこで魔力を蓄えつつそいつらを配下にするのじゃ」
「なるほど。って、魔物がいるところに行ったら俺襲われないか?人間だし」
「うーむ、そういえばそうじゃのう。人間といえどもわらわの初めての部下じゃ。死なせるわけにはいかん。おぬし、人間をやめぬか?おぬしの持つ陰の気を開放して、魔に落ちるがよい」