■9話■
「さて、我らもそろそろ行こうか。草はもう取り終えたか?」
「あ、はい、ありがとうございました魔王様」
そう言うとまた一行は歩き始めた。坂の下りが終わってすぐ先に渓が現れた。断崖絶壁で向こうまでは50mはありそうだった。底には僅かに川が流れている。
渓にそって北へ歩き始めたすぐ後に偵察に向かっていたハッチが戻ってきた。
「吊り橋のこちら側に人間の兵士が2人いるって」
「前に渡った時は兵士なんていなかったのに」
「わらわを逃すまいとしておるのかもしれんのう。そうなるとその兵士もそれなりに強いかもしれぬ。油断せぬほうがよいかもしれぬな」
「奇襲かけるか?」
「そうじゃな、吊り橋の近くで戦えば橋が壊れるやもしれぬ。それに我らを見れば意図して橋を壊すかもしれぬな。ふむ」
「こういうのはどうだ?ポチを使って兵士をおびき出して、ハイドの魔法をかけたフレアが不意打ちする。それで倒せなかったら俺がセパレイトを使って兵士を叩き落とす」
「ふむ、ポチもわらわの魔法も普通の人間を殺す程度わけないが、それなりの力をもった兵士には危ういからのう。姑息じゃがその方法でいこうか」
そうして吊り橋の手間まで進み、ハイドの魔法をフレアにかけ姿を消した。
「魔法ってこういうこともできるんですね!私、火とか雷とかそういうので攻撃しているのは見たことあるんですが」
そう言って、フレアのいた場所よりもさらに手前に戻りセパレイトが使えるぎりぎりの場所で待機した。
間もなくしてポチが兵士を2人とも連れてきた。
戦闘の兵士に何処からともなく火球が降り注ぎ一瞬火がついたがかき消された。後からきた兵士が魔法を打ち消したらしかった。2人は警戒し辺りを見回したがフレアに気付いた様子は無かった。
次に細かな雷を後方の兵士が襲った。多少よろけたようだがそれほどダメージは負わなかった。兵士がフレアのいる辺りに近づいた時、ロリコーンは呪文を唱えた。
『その汚れた手で少女に触れるな!セパレイト!!』
たちまちフレアのいる位置から竜巻のような規模で鋭い突風がまき散らされた。渓の反対側のなだらか斜面に生える木々は何本も切り倒され兵士2人は踏ん張りが効かずに渓へと落とされた。
谷の底で動かなくなった2人の兵士を確認したのち、フレアのいるあたりへ駆け寄った。
「かなり強い人間じゃった。普通に戦っておればあぶなかったのう。ロリコーンよ、そなたの働き褒めて使わす」
「ありがとうございます。フレア様。一つ御褒美を頂いてもよろしいでしょうか」
「な、なんじゃ?」
「パンツください」
「それは昨日そなたにやったであろう。ホビットの村にはわらわにあうものは無いから今でもはいでいないのじゃぞ。むしろ返せ」
「これは返すわけにはいかないな。それじゃあどこかで調達しますので、しばらく履いたやつをください」
「ろ、ロリコーンさん、そんなものどうするつもりですか?」
「決まっている、匂いを嗅いだりぺろぺろしたりするんだ」
「えっ…」
「勘違いするな、魔王の魔力が染みついている。それを使って魔力を回復させる為だ」
「あ、ああなるほど。そうですよね。すいませんでした」
「分かればいい」
「嘘をつくでない。おぬしのことだから魔力は回復するかもしれんが、別にわらわのものでなくても効果あるじゃろう。そこのペルシーのやつでもな。これはこやつの趣味じゃ」
「な、ええ!?」
ハッチをもう一度吊り橋付近の偵察をさせ、安全を確認したのちに、一行は吊り橋を渡った。