第66話 挑戦
突如として響いた声に、闘技場は一瞬静まり返った。そして、驚愕の視線が、一斉にレオンに集まった。
「俺がオースティン兄上に挑戦する」
レオンは静かに、しかし確かな声で言った。
「レオン、何をしているんだ?」
傍らのティモシーも、レオンの行動に呆然とした。すぐに声をかけた。レオンの今日の活躍は彼の予想を大きく超えていたが、それでもオースティンと比べると、まだ差があると言わざるを得ない。二つ星中期と四つ星初期——その差は、あまりにも大きい。
「レオン様、行かないでください!」
我に返ったロキシーの小さな顔にも、焦りの色が浮かんだ。
「心配するな。俺はただオースティン兄上と切磋琢磨したいだけだ。負けたって、恥ずかしいことじゃない……」
レオンは笑いながら言った。
それを聞いて、ティモシーは一瞬呆然とした。少し迷った後、頷くしかなかった。
「気をつけろよ」
レオンは頷き、ロキシーの頭を軽く撫でた。そして振り返り、多くの視線が注がれる中、場内に歩み出た。
◆◇◆
「父上、切磋琢磨の挑戦を申し出てもよろしいでしょうか?」
レオンは貴賓席のルシウスを見上げ、笑いながら言った。
ルシウスも我に返り、驚いた目でレオンを見た。オースティンの実力を見た後でも、レオンはまだ切磋琢磨を申し出る勇気があるのか。
「何か見落としていたようだな……」
ルシウスの目の奥に、淡い期待が湧き上がった。
「通常の条件であれば、もちろん構わない」
◆◇◆
「レオン!」
舞台に来たレオンの元に、急いで駆け寄ったのはエヴィルだった。その顔には、明らかな心配の色が浮かんでいる。金髪が風に揺れ、青い目には不安が宿っていた。
「本気なの? オースティンは四つ星初期よ。あなたは……」
「二つ星中期だ。分かっている」
レオンは静かに答えた。
「心配なの。あなたが、怪我をするんじゃないかって……」
「大丈夫だ」
レオンは軽く笑った。
「俺は、そんなに弱くない」
「エヴィル」
レオンは真剣な目で彼女を見つめた。
「見ていてくれ。俺が、どこまでやれるか」
「……分かったわ」
エヴィルは小さく頷いた。
「でも、無理はしないで」
「ああ」
レオンは軽く笑い、舞台に飛び乗った。
◆◇◆
「レオン」
オースティンは静かに言った。その声には、心配が込められていた。
「お前、本気なのか?」
レオンは何も答えなかった。ただ静かに、オースティンを見つめていた。
「……分かった」
オースティンは深く息を吐いた。
「なら、俺も受けて立とう」
オースティンは一歩前に出た。
「だが、レオン。一つだけ言わせてくれ」
そして、オースティンは真剣な表情でレオンを見つめた。
「俺たちは兄弟だ。確かに、母親は違う。これまで、俺たちの関係は良好とは言えなかったかもしれない」
オースティンは少し迷った後、続けた。
「だが、同じ父の血を引いている。セレストーム家の血が、俺たちの体には流れているんだ」
「兄弟同士、互いに傷つけ合うべきじゃない。これは、俺が母から教わったことだ」
観客席から、小さなざわめきが起こった。
「オースティン様、優しいな……」
「レオンも、素直に聞けばいいのに……」
オースティンは続けた。
「お前は今日、確かによく頑張った。前三位に入った。それだけで十分だ」
そして、オースティンは手を差し出した。
「俺は兄として、お前を傷つけたくない。本当にそう思っている」
「今ここで降りれば、誰もお前を責めない」
「どうだ? 兄の忠告を聞いてくれないか?」
だが——
レオンは冷たく笑った。
「兄弟、か」
レオンの声には、氷のような冷たさがあった。
「今更、そんなことを言うのか」
「レオン……」
「お前の母親がお前に何を教えたかは知らない」
レオンは一歩前に出た。その目には、抑えきれない怒りが燃えていた。
「だが、俺が見てきたのは、お前たちの『家族愛』じゃない」
「五年間、俺がどう扱われてきたか、お前は知っているのか?」
レオンの声が、徐々に大きくなった。
「出来損ない、落ちこぼれ——そう呼ばれ続けてきた」
「お前は止めたか? 一度でも、俺のために声を上げたか?」
レオンは声を荒げた。
「いや、お前は何もしなかった。ただ黙って見ていただけだ」
オースティンの顔が青ざめた。
「今更、『兄弟』だと? 『家族』だと?」
レオンは冷笑した。
「お前の優しさは、今日突然湧いて出たものか? それとも、観客の前で良い兄を演じたいだけか?」
「違う! 俺は本当に……」
「本当に何だ?」
レオンは遮った。
「本当に心配している? ならば、なぜ今まで何もしなかった?」
オースティンは言葉を失った。
「お前の忠告など、聞く価値もない」
レオンは構えを取った。
「今日、俺はお前に証明する。俺は、お前たちが思っているような弱者じゃない」
◆◇◆
「……そうか」
オースティンは深く息を吐いた。その顔には、失望と悲しみが浮かんでいた。
「俺は……本当に、お前のことを……」
だが、レオンの目を見て、オースティンは言葉を飲み込んだ。
——もう、遅いのか。
「分かった」
オースティンは舞台の中央に歩み出た。その表情から、優しさが消えた。代わりに現れたのは、冷たい決意だった。
「なら、俺は兄として、お前に教えてやる」
オースティンは構えを取った。
「現実の厳しさを。星級の差の意味を」
「執事、始めてください」
レオンは冷たく言った。
執事は二人を見比べ、複雑な表情を浮かべた。
「……本当にいいのか?」
「ああ」
レオンとオースティンは、それぞれ頷いた。
「……分かった。では——」
執事は溜息をつき、手を上げた。
「試合開始!」
◆◇◆
好的,我来修改这个章节的结尾部分:
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◆◇◆
执事の声が落ちた瞬間——
オースティンの左手から、冷気が放たれた。
「フロスト・バインド」
冷気が舞台を走り、レオンの足元に到達した。
パキッ!
両足が、一瞬で氷に包まれた。
「くっ……!」
レオンは動こうとしたが、足が凍りついて動けない。
「これが、四つ星と二つ星の差だ」
オースティンは静かに言った。
「お前がどれだけ頑張っても、この差は——」
だが——
レオンは、笑った。
「それだけか?」
その声には、不敵な笑みが込められていた。
足が凍りついた状態で。
それでも、レオンは笑っていた。
「兄上、俺を舐めすぎだ」
その瞬間——
パキパキパキッ!
足を覆っていた氷が、突然内側から砕け散った。
「なっ——!?」
オースティンは目を見開いた。
レオンが、氷の拘束から抜け出した。そして——そのまま地を蹴り、オースティンに向かって突進してきた。
「まさか……!」
オースティンは咄嗟に両腕を交差させ、防御の姿勢を取った。
ドゴォッ!
レオンの拳が、オースティンの腕に直撃した。衝撃でオースティンの体が数歩後退する。
「ぐっ……!」
オースティンは腕の痺れを感じながら、信じられないという目でレオンを見つめた。
——今のは、何だ?
——どうやって、俺の氷を砕いた?
観客席からも、どよめきが上がっていた。
「氷の拘束を破った……!?」
「どうやって……!?」
貴賓席のルシウスも、微かに目を細めた。
「面白い……」
舞台の上では、レオンが静かに構えを取り直していた。その顔には、不敵な笑みが浮かんでいる。
「どうした、兄上?」
レオンは挑発するように言った。
「まさか、あれだけで終わりじゃないだろう?」
オースティンは深く息を吐いた。そして、その目に新たな光が宿った。
「……いいだろう」
オースティンは再び構えを取った。
「どうやって氷を砕いたかは知らないが——」
冷気が、再びオースティンの周囲に渦巻き始めた。
「次は、そう簡単にはいかないぞ」
レオンは笑みを深めた。
「望むところだ」
二人の視線が、空中で交錯した。
闘技場の空気が、一気に張り詰める。
戦いは——まだ、始まったばかりだった。
【続く】
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