第48話 弟子入り
「兄上も……兄上も一緒に弟子にしてください!」
レオンは再び驚いた。続いて、胸の奥から温かいものが込み上げてきた。
確かに自分はアレンを可愛がってきた。同じ母親から生まれた、たった一人の弟だ。この世界に転生してから、レオンにとってアレンは特別な存在だった。
前世では、レオンは一人っ子だった。弟や妹がいる感覚を知らなかった。だからこそ、アレンが生まれた時、言葉にできない喜びを感じた。
母エレーぜが病で亡くなった後、まだ幼かったアレンを守ることが、レオンの生きがいの一つになった。出来損ないと呼ばれ、家族の中で居場所がなくても、アレンだけは自分を慕ってくれた。その純粋な笑顔が、どれほど自分を救ってくれたか。
だから、アレンには惜しみなく愛情を注いできた。お菓子を分けてやり、夜泣きする時は傍にいてやり、悪夢を見た時は手を握ってやった。
それなのに、アレンはこれほど自分を大切に思い、こんなにも純粋に返してくれるとは。
アウレリウスは少し驚いた顔をしたが、すぐに微笑んだ。
「お前は兄弟思いだな」
その言葉を聞いて、レオンは我に返った。アレンの頭を撫でながら言った。
「アレン、お前の気持ちは嬉しい。だが——」
レオンは苦笑した。
「俺は聖光系じゃない。大祭司様の弟子になっても、学べることは限られている」
「で、でも……」
アレンの目が潤んだ。
「俺は大丈夫だ」
レオンはアレンの頭をもう一度撫でた。
「お前は大祭司様の下で、思いっきり修行してこい。俺は俺で、自分の道を進む」
「兄上……」
「それに——」
レオンは少し笑った。
「お前が強くなって帰ってきたら、俺も負けてられないだろう? お互い、頑張ろう」
アレンは目に涙を浮かべながら、大きく頷いた。
「はい……必ず、強くなって帰ってきます!」
アウレリウスは二人のやり取りを見て、穏やかに微笑んだ。
「良い兄弟だ。アレン、お前の兄は立派な男だな」
「はい! 兄上は、世界で一番かっこいいです!」
レオンは少し照れくさそうに頭を掻いた。
『ふん、世界で一番かっこいい、か。なかなか見る目があるじゃないか、この小僧の弟は』
オーグリが脳内で茶化した。
「うるさい」
レオンは心の中で呟いた。
◆◇◆
一連の準備の後、書斎の中で、アレンは正式にアウレリウス大祭司の弟子となった。
クロード叔父が立会人となり、セレストーム家の記録係が書類を作成し、アレンの身分の変化を正式に記録した。
それなりに厳かな儀式の後、アレンは正式に聖光教会の弟子となった。しかも、大祭司直系だ。
◆◇◆
「弟子になった以上、聖光魔法の全てを教えよう」
弟子入りの後、アウレリウスはアレンに将来の展望を語り始めた。
「将来、魔力制御が完璧になれば、『聖光の障壁』や『聖なる閃光』に到達することも不可能ではない。さらに精進すれば、A級スキル『神の裁き』を習得する機会もあるだろう」
アレンは目を輝かせて聞いていた。
レオンも少し興奮しながら聞いていたが、心の中では冷静だった。
——うーん、A級スキルを習得する機会を得られる弟子など、百人に一人もいないだろう。まあ、でもアレンなら……
『ふん、聖光系か。悪くない系統だが、老いぼれの目から見れば、お前のゴールデンフォームの方が遥かに可能性がある』
「そうなのか?」
『当然だ。聖光系は確かに希少だが、所詮は既存の体系だ。千年前から変わっていない。対して、ゴールデンフォームは——まあ、今は言うまい。お前が成長すれば、自ずと分かる』
「さて、アレン」
アウレリウスが言った。
「一ヶ月後、聖都へ出発する。それまでに、準備をしておきなさい」
「一ヶ月後、ですか」
アレンは少し考え込んだ。
「どうした? 何か問題があるか?」
「いえ、その……」
アレンはレオンの方を見た。
「二週間後に、家族魔闘会があるんです。兄上が出場するので、それを見届けてから……」
「ほう、家族魔闘会か」
アウレリウスは興味深そうにレオンを見た。
「お前も出場するのか」
「はい」
「相手は?」
「オースティン・セレストームです。四つ星初期の熱力系魔法師で、家族魔闘会の二連覇中です」
「ふむ、四つ星か。お前は今、何つ星だ?」
「二つ星中期です」
アウレリウスの目が、わずかに見開かれた。
「二つ星中期で、四つ星に挑むと?」
「はい」
「無謀だな」
アウレリウスは率直に言った。
「だが——」
その目に、興味深い光が宿った。
「面白い。お前の目には、諦めの色がない。何か策があるのか」
「……」
レオンは答えなかった。
アウレリウスは微笑んだ。
「まあ、いい。一ヶ月後なら、家族魔闘会の後だな。アレン、お前の兄の戦いを見届けてから、聖都へ向かうとしよう」
「ありがとうございます、大祭司様!」
アレンの顔がぱっと明るくなった。
「兄上の勝利を見届けてから、出発できます!」
「勝利、か」
アウレリウスはレオンを見つめた。
「二つ星が四つ星に勝つ。あり得ない話ではないが……私も見届けさせてもらおう」
◆◇◆
大祭司が退出した後、クロード叔父がレオンとアレンに近づいてきた。
「二人とも、ついてきなさい。会わせたい人がいる」
「会わせたい人?」
レオンは首を傾げた。
クロード叔父は微笑んだだけで、答えなかった。
二人は叔父に連れられ、書斎を出て廊下を進んだ。やがて、隣の部屋の前で足が止まった。
「入りなさい」
扉を開けると、そこには一人の男が立っていた。
四十代だろうか。黒髪に鋭い目。がっしりとした体格で、全身から戦士の気配が漂っている。顔立ちはクロード叔父に似ているが、より厳しい印象を与える。
レオンは一瞬、誰だか分からなかった。
「叔父上……この方は?」
「お前たちの二番目の叔父だ。私の兄——クロード・アシュモアだ」
「二番目の叔父……?」
レオンは驚いた。
母エレーぜには、二人の弟がいると聞いていた。一人はクロード叔父。だが、もう一人の叔父には、一度も会ったことがなかった。
「クロード兄上は、長年王国の騎士団に所属していた。各地を転戦しており、なかなか戻れなかったのだ」
エドワードが説明した。
「だが、お前たちのことは、ずっと気にかけていた。今回、ようやく休暇が取れたので、顔を見に来たのだ」
クロードは二人を見つめた。その目には、複雑な感情が浮かんでいた。
「……大きくなったな」
低い声だった。
「姉上に似ている。特に、お前は——」
クロードの視線が、レオンに向けられた。
「その銀髪、その目。姉上にそっくりだ」
「……」
レオンは何と言えばいいか分からなかった。
この叔父とは、初対面だ。だが、その目には確かに親しみと、どこか悔しさが混じった複雑な光があった。
「俺は、お前たちに何もしてやれなかった」
クロードは言った。
「姉上が亡くなった時も、駆けつけられなかった。お前たちが苦しんでいた時も、傍にいてやれなかった。許してくれ」
「叔父上……」
アレンが目を潤ませた。
「だが、今日は、少しだけ償いをさせてくれ」
クロードは懐から、二つの巻物を取り出した。
「これは、アシュモア家に伝わる秘伝だ。本来なら、成人した後に伝授するものだが……お前たちには、今必要だろう」
レオンは目を見開いた。
「レオン、これはお前に」
クロードは一つ目の巻物をレオンに差し出した。
「『閃光』——B級の光系移動スキルだ。自分の体を一瞬だけ光に変え、短距離を瞬間移動する。お前の光系魔法と相性がいいはずだ」
『ほう、閃光か……』




