第34話 演武場
月光が静かに降り注いでいた。
清らかな風が吹き抜け、虫の音が響き渡る。
セレストーム家の離れ、夜の帳の下、一つの影が風と共に揺れ動き、素早く移動していた。
庭の片隅にある空き地に、月光の下で無数の足跡がくっきりと刻まれている。
一見すると乱雑に見えるこれらの足跡だが、よく見ると、不思議な規則性を持っていることが分かる。
その影は絶えず動き回り、一歩一歩、正確にこれらの足跡の中に踏み込んでいく。一寸の狂いもなく、身のこなしは風のように軽やかだ。
やがて、もう一度完璧に一連の動きを終えると、銀髪の少年は足を止め、その場で軽く息を整えた。
『ふむ、悪くない。だいぶ熟練してきたな』
少年が足を止めると、傍らから老人の声が響いた。オーグリの霊魂体が、月光の中でぼんやりと浮かんでいる。
「まだまだだ」
額の汗を拭いながら、レオンは溜息をついた。
ゴールデンフォーム——さすがはB級スキルだ。一見単純に見える光の硬質化と変形だが、その中には無数の奥義が含まれている。千変万化、容易には悟れない。
オーグリからゴールデンフォームを授かった日から、レオンはひたすら修練を続けてきた。今日でちょうど一ヶ月半。ようやく、いくつかの基礎を掌握できた程度だ。
光を生み出し、力場で固定し、変化系で硬度を変える。
この三つの系統を同時に操る感覚。重心の移動、魔力の配分、タイミングの把握——どれも欠かせない要素だ。オーグリが傍で指導してくれたからこそ、ここまで来られた。自分一人では、今でもまともに発動できなかっただろう。
『焦るな。こういうものは急いでも仕方ない。熟練すれば自然と身につく。練習を重ね、実戦で使えば、自ずと上達する』
レオンの様子を見て、オーグリは感慨深げに言った。
この少年は、自分に対する要求が高すぎる。それは時に長所となり、絶えず自分を向上させる原動力になる。だが、時には致命的な短所にもなりうる。
期待が大きければ、失望も大きくなる。自信と情熱を打ち砕きかねない。それでは逆効果だ。
『今は小成に近い段階だ。実戦で十分に役立つ。焦る必要はない。あいつらを相手にするには、問題ないはずだ』
続けて、オーグリは安心させるように言った。
「あいつら、か」
エイドリアンを思い浮かべた。レイノルドを思い浮かべた。日頃から自分を嘲笑い、蔑んできた者たちを。
レオンは拳を握りしめ、目に冷たい光が宿った。
「すぐに思い知らせてやる」
『そうだ、その意気だ。俺の弟子があいつらに劣るわけがない。馬鹿どもに、たっぷり教えてやれ』
この一ヶ月半の間、オーグリはレオンの境遇をよく理解するようになっていた。あの者たちが誰なのか、自然と分かっていた。
しばらく休憩した後、レオンはもう一度ゴールデンフォームの練習をしてから、離れの自室へと戻っていった。
◆◇◆
翌朝、太陽が地平線から昇り始め、薄紅色の光が空を染める頃、セレストーム家の片隅にある離れの庭で、レオンはすでに修練を始めていた。
この離れは少々古びていて、セレストーム家の本邸と比べると見劣りする。一族から見放された別邸だ。朝日に照らされ、小さな庭は淡い紅色に染まっている。青灰色の石壁と黒い瓦屋根が、古めかしい雰囲気を醸し出していた。
レオンは一人、この離れで暮らしている。
庭の中で、彼の姿が揺れ動いていた。
左手を掲げると、淡い金色の光が掌の上に現れた。光が凝縮し、硬質化していく。
剣の形に。
一ヶ月半前とは比べ物にならない。あの頃は小石程度の大きさしかなかった光が、今は短剣ほどの長さになっている。
光の剣を振るう。空気を切り裂く音がした。
まだ本物の剣ほどの鋭さはない。だが、確実に進歩している。
最後の一振りを終え、レオンは満足げに微笑んだ。額の汗を拭い、部屋へと向かう。
今日は、演武場へ行く日だ。
家族魔闘会の届け出まで、あと二週間。その前に、修練の成果を確かめておきたい。
——いや、正直に言えば、もう待ちきれなかった。
一ヶ月半、ひたすら修練に打ち込んできた。オーグリの鞭を受け、エーテル液に浸かり、ゴールデンフォームを磨いてきた。
一つ星の初期から、二つ星の後期まで回復した。
まだエイドリアンの四つ星には遠く及ばない。だが、一ヶ月半前の自分とは、もはや別人だ。
そろそろ、実戦で試してみたい。
そろそろ、あいつらに思い知らせてやりたい。
◆◇◆
朝食を済ませ、時間を見計らって、レオンはセレストーム家の演武場へと向かった。
演武場に着くと、一族の若い世代のほとんどがすでに集まっていた。数十人はいる。家族魔闘会の届け出は大事な行事だ。皆、この機会を逃すまいと、腕を磨きに来ている。
深く息を吸い、レオンは演武場の中へと歩いていった。
熱気に満ちた雰囲気を感じながら、目に炎のような感情が宿る。
五年近く耐え忍んできた。そろそろ、爆発する時だ。
レオンの姿が現れると、すぐに全員の注目を集めた。だが、その視線には嘲笑と不審が混じっていた。あいつがここに何の用だ?
まさか、届け出か?そう思い、皆は自嘲気味に笑った。まさか、そんなはずはない。
家族魔闘会の参加条件は単純だ。三つ星以上が最低条件。だが、レオンは一つ星にも満たない出来損ないだ。そんな奴が届け出?
周囲の視線に、レオンはちらりと目をやっただけで、気にも留めなかった。そのまま真っ直ぐに、演武場の中央へと歩いていく。
「おや、これは誰かと思えば」
演武場の中央に近づいた途端、冷たい嘲笑の声が響いてきた。
「レオンじゃないか。どうした? 二週間も待てなくて、今日わざわざ俺に会いに来たのか?」
顔を上げると、一人の青年がこちらへ歩いてくるのが見えた。
金髪に碧い目。整った顔立ちに、高価そうな衣装。胸元には、四つ星を示す紋章が輝いている。
エイドリアン・セレストーム。
その傲慢な笑みを見て、レオンの目が冷たく光った。




