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第21章 伝説の錬金術師




「錬金術師……だと?」


レオンは目の前に浮かぶ老人の投影を見つめ、眉をひそめた。


正直に言おう。


——がっかりした。


ルーナ帝国の魔法体系には十一の流派が存在する。火炎や雷撃を操る元素系。重力や空間を支配する力場系。死者を使役する死霊系。異界の魔獣を召喚する召喚系——


そのどれもが、戦場で恐れられる力だ。


一方、錬金系は?


「十一流派の中で最弱」


戦闘では事前に作った魔法道具に頼るしかない。道具が尽きれば、ただの的だ。


「錬金系か……」


レオンは低い声で呟いた。


「貴族のボンボンの道楽だ。金持ちの暇潰し」


彼は顔を上げ、オーグリの投影を真っ直ぐに見据えた。


「それに、錬金系には戦闘力がない。俺が今必要なのは、強くなれる力だ。二年で同世代に追いつける力だ!」


「元素系の炎魔法、力場系の重力術、召喚系の魔獣契約——それが本当の力だ!」


「錬金系?」レオンの声に嘲りが混じる。「金を燃やす以外に、何ができる?」


オーグリは黙って聞いていた。


その顔から笑みが消えていく。


金色の瞳がレオンを見つめ、しばしの沈黙。


そして——


老人は突然、大声で笑い出した。


「ハッハッハッハ!よく言った!よく言ったぞ!」


オーグリは腹を抱えて笑い転げた。まるで世界一面白い冗談を聞いたかのように。


「錬金系は役立たず?錬金系には戦闘力がない?錬金系は貴族のボンボンの道楽?」


笑い声が徐々に収まり、金色の瞳に不気味な光が宿る。


「小僧、この世界の全ての魔法道具は誰が作ったか知っているか?」


「錬金術師だ」


「元素系の魔法師が戦闘で使う魔法杖、誰が作ったか知っているか?」


「錬金術師だ」


「力場系の魔法師が着る防護法衣、誰が作ったか知っているか?」


「錬金術師だ」


「召喚系の魔法師が召喚陣を安定させるために使う魔法水晶、誰が作ったか知っているか?」


「錬金術師だ」


オーグリの声が低く沈み、無形の圧力を帯びていく。


「錬金系に戦闘力がない?それはお前が本物の錬金術師の戦いを見たことがないからだ!」


「錬金系は道具頼り?それはお前が本物の錬金術師がどんな道具を作れるか知らないからだ!」


「錬金系は貴族のボンボンの道楽?」


老人は冷笑した。


「それは、いわゆる『錬金術師』どもが、レシピ通りに作業するだけの無能だからだ!」


「本物の錬金術師は——」


オーグリの声が突然高まった。


「都市を一つ滅ぼす錬金爆弾を創り出せる!」


「大魔法師の攻撃すら防ぐ防御法陣を製作できる!」


「死者を蘇らせる生命薬剤を調合できる!」


「巨竜を斬り殺す伝説の武器を鍛造できる!」


「そして最も重要なのは——」


老人は一呼吸置き、金色の瞳でレオンを射貫いた。


「本物の錬金術師は、魔法の本質を変えることができる!」


「元素系?力場系?召喚系?」


「あの連中は、既存の魔法を使うだけだ」


「だが錬金術師は——」


「錬金術師は、新しい魔法を創造できる!」


レオンは凍りついた。


新しい魔法を……創造する?


「元素系の火球術は誰が発明したと思う?力場系の重力術は誰が研究したと思う?」


オーグリは冷笑を浮かべた。


「全ての魔法は、最初は錬金術師が魔法の本質を研究し、無数の実験を重ね、理論を実践に変えることで——創造されたのだ!」


「他の流派の魔法師は、先人が残した成果を使っているに過ぎない」


「だが錬金術師は——」


「錬金術師は常に魔法研究の最前線にいる!」


老人の声に誇りが満ちていた。


「錬金系が弱い?」


「それはお前が見てきた錬金術師が弱すぎただけだ!」


「錬金系が役立たず?」


「それはお前が錬金術の真の可能性を知らないからだ!」


レオンは沈黙した。


認めざるを得ない。オーグリの言葉には一理ある。


魔法道具、薬剤、符文装備——確かに全て錬金術師の作品だ。


だが——


脳裏に母の姿が浮かんだ。


母エリーゼ・セレストームも錬金術師だった。


家族の中では異端扱いされていた。セレストーム家は代々元素系と力場系を得意とする名門。錬金系に進んだ母は、親族から冷ややかな目で見られていた。


『あの子は変わり者だから』


『戦えない魔法師に何の価値がある』


幼い頃、そんな陰口を何度も聞いた。


そして母は、答えを見つけられないまま死んだ。


地下研究室に残された山のような資料。必死の実験記録。


全ては無駄だったのか?


「……仮にそうだとしても」


レオンは眉をひそめた。


「錬金系には膨大な資源が必要だ。そして俺は今……」


彼は周囲の古い実験室を見回した。


「魔法材料を買う金すらない」


「ヒッヒッヒ——」


オーグリは突然、不気味な笑みを浮かべた。


「誰が錬金術に金がかかると決めた?」


「それは凡人の錬金術師のやり方だ」


「そしてワシは——」


老人はレオンの胸元にある星導石のペンダントを指差した。


「ワシが発明した魔力濃縮装置は、まさにその問題を解決するためのものだ!」


「お前のペンダントの中の魔力精華、直接吸収はできんが、魔法薬草の成長を促進できる!」


「促進された魔法薬草こそ、最高の錬金材料だ!」


「つまり——」


オーグリはニヤリと笑った。


「お前は一銭も使わず、尽きることのない錬金材料を手に入れられる!」


レオンの目が輝いた。


確かに……それは一つの方法だ。


部屋に置いてきたあの薬草。一滴の銀青色の液体で、数年分の成長を遂げた普通の草。


あれが本当に価値ある魔力薬草になっているなら——


「待て」


レオンは警戒の目でオーグリを見た。


「なぜ俺を助ける?見ず知らずの子供に、わざわざ」


「なぜ?」老人は笑った。「ワシがお前の助けを必要としているからだ」


「助け?」


「そうだ」オーグリは頷いた。「ワシは今、ただの魂の刻印に過ぎん。この法器に宿っているだけだ。力は残り僅か、せいぜい数十年しか保たん」


「回復するには、適切な器——いや、継承者が必要だ」


「ワシの錬金術の知識を継承できる者が」


「そしてお前は——」


老人はレオンを見据えた。


「魂の強度が基準を満たしている。十分な才能がある。そして……」


「お前は切実に強くなりたがっている」


「だからワシはお前を選んだ」


レオンはしばらく沈黙し、それから尋ねた。


「俺に何をさせたい?」


「簡単だ」オーグリは笑った。「錬金術を学び、真の錬金大師になれ」


「そして——」


「ワシの未完の事業を手伝え」


「未完の事業?」


「まだ教えられん」老人は首を振った。「お前が正式な錬金術師になってから、自然と教える」


レオンは眉をひそめた。


条件が曖昧すぎる。


だが——


ふと、オーグリの金色の瞳が遠くを見るような色を帯びた。


「……三百年前、ワシは一つの研究を進めていた」


老人の声が、わずかに沈んだ。


「魔力の根源に関わる研究だ。完成すれば、この世界の魔法体系を根底から覆すものだった」


「だが、あと一歩というところで……」


オーグリは言葉を切った。その表情に、一瞬だけ苦渋の色が浮かんだ。


「まあ、今は気にするな。お前にはまだ早い話だ」


レオンは黙って老人を観察した。


三百年前。魔法体系を覆す研究。未完。


——そして、この地下研究室に残された膨大な資料。


母が必死に探していた「答え」。


全てが繋がっているような気がした。


レオンは手の中の法器を見つめ、それから胸元の星導石ペンダントに触れた。


七年分の魔力精華。


これを使って魔力薬草を育てれば、確かに資源問題は解決する。


そして錬金術……


世間では見下されている。だが、もし本当にオーグリの言う高みに達することができれば——


新しい魔法を創造する?


魔法の本質を変える?


母が追い求めていた答えも、そこにあるのかもしれない。


レオンは深く息を吸った。


「条件がある」


「言え」


「二年以内に、普通の同世代と同じレベルに追いつく」レオンは真剣な目で言った。「これ以上、役立たずではいられない」


「ヒッヒッヒ、簡単だ」オーグリは笑った。「魔力精華で育てた薬草から作る回復薬剤は、普通の薬剤の数倍の効果がある。真面目にやれば、二年で同世代に追いつくのは難しくない」


「では……」レオンは少し躊躇してから続けた。「戦闘能力はどうする?錬金系に本当に直接的な戦闘力がないなら——」


「誰が錬金系に戦闘力がないと言った?」オーグリは遮った。「それはお前がまだ使い方を知らないからだ!」


「錬金術を学べば、ワシが錬金武器、錬金爆弾、防御符文の作り方を教えてやる——」


「その時になれば分かる。錬金術師の戦い方は、火球を投げるしか能がない馬鹿どもよりよほど柔軟だ!」


レオンは考え込んだ。


しばらくして、彼は頷いた。


「分かった。学ぶ」


「ただし——」


彼はオーグリを見据えた。


「もし騙していると分かったら、すぐにやめる」


「ヒッヒッヒ、小僧、なかなか警戒心があるな」オーグリは笑った。「安心しろ、ワシが今のこの姿で、お前を騙して何になる?」


「それに——」


老人は大げさに一礼の仕草をした。


「同意したなら、正式に弟子入りだ。ワシは今、魂の刻印に過ぎんが、礼儀は守らねばならん」


レオンは一瞬呆けた。


「弟子入りまで?」


「当たり前だ。弟子入りもせずにワシの全てを伝授してもらえると思ったか?夢でも見てるのか?」オーグリは目を剥いた。「ワシの技は、誰でも学べるものじゃない」


レオンは溜息をついた。


強くなるために。「役立たず」の汚名を返上するために。失われた全てを取り戻すために——


そして、母が見つけられなかった答えを見つけるために。


彼は深く息を吸い、オーグリの投影に向かって、正式な弟子の礼を取った。


「弟子レオン・セレストーム、師にお目にかかります」


オーグリは満足げに頷いた。


「よし、よし、よし!」


「今日からお前はワシの弟子だ」


「覚えておけ、ワシの名は——」


金色の瞳が輝きを放った。


「オーグリ・アシュモア」


「伝説の錬金大師」


「魔力濃縮技術の発明者」


「そして——」


老人は一呼吸置き、意味深な笑みを浮かべた。


「お前たちセレストーム家の祖先だ」


レオンは凍りついた。


「何?あなたは俺たちの家族の——」


「その通り」オーグリは笑った。「だから、小僧、しっかり学べよ」


「お前が学ぶのは、家伝の技なのだからな」


彼はレオンを見つめ、その金色の瞳に複雑な色が浮かんだ。


「……お前の母、エリーゼも、かつてワシの知識に触れた」


レオンの心臓が跳ねた。


「母が……?」


「ああ。聡明な娘だった」


オーグリの声が、わずかに沈んだ。


「だが、あの娘は……核心に辿り着く前に、時間が尽きた」


老人は首を振った。


「お前には、同じ過ちを繰り返させん」


「だから——」


金色の瞳がレオンを射貫いた。


「強くなれ、小僧。そしていつか、全ての真実を知る日が来る」


「お前の母が追い求めていた答えも、な」


レオンは拳を握りしめた。


母の答え。


七年間の苦しみの真実。


そして、この老人が三百年前に完成できなかった研究。


全てが、錬金術の道の先にある。


「……分かった」


レオンは顔を上げ、決意を込めた目でオーグリを見た。


「俺は、必ず強くなる」


「そして、全ての答えを見つけ出す」


オーグリはニヤリと笑った。


「いい目だ」


「では、明日から修行を始めるぞ」


「覚悟しておけ——ワシの修行は、甘くないからな」


---


【続く】


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