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錬金系の落ちこぼれ四男、辺境領主として無双する  作者: 穏やかな旅人


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第101話 鉄床にて——重甲、中甲、軽甲


東門へ向かう途中、レオンは歩きながら手冊を開いた。


セルターン家の書斎から持ち出した一冊だ。正式な名称は【冒険者装備手冊(アドベンチャラーズ・イクイップメント・ハンドブック)】——遠征や野外活動に際して必要な情報をまとめた実用書で、父の書棚の隅に埃をかぶっていたものだ。いつ誰が読んだのかも定かではない。


街の情報の章に、こんな記載があった。


――*武器・防具の調達については、東区路地の「鉄床アイゼンベット」が推奨される。実用品の品質と価格帯において、この街で最も信頼できる鍛冶屋の一つである。*


それだけだった。


防具の種類も、武器の相場も、何も書いていない。現地で見て判断するしかない。


レオンは手冊を閉じて、鞄に仕舞った。東区路地。今向かっている方向だ。


◆◇◆


鉄床アイゼンベット」は、東区の路地に構える鍛冶屋だった。


外壁には煤と油の染みが幾重にも重なり合っている。看板には鎚と剣が交差した紋様が描かれているが、長年の風雨で輪郭が曖昧になっていた。目立つ店ではない。


扉を押すと、金属を叩く音がやんだ。


奥から現れたのは、壮年の男だった。


レオンは思わず少し仰いだ。


ゲオルク・ハンマー。それが店主の名だと、後で看板の隅に書かれているのを見て知った。名前負けどころか、名前そのものだった。肩幅が扉の幅と大差ない。革製のエプロンの下から覗く腕には、鍛え上げられた筋肉が幾重にも盛り上がっている。胸板は厚く、首は太く、顎には無精髭が生えていた。額には汗が光っている。


体格だけ見れば、熊が二本足で立って商売をしているようなものだ。


だがその目は思いのほか穏やかで、客を見る眼差しに威圧感はなかった。


「いらっしゃい」男は低い声で言った。「何を探してる」


「武器を。手冊にここの名前が載っていたので」


「ほう」男はレオンを一瞥してから、「まず一通り見ていくか。うちの品揃えを説明する」


そう言って、男は防具の棚の前に立った。


◆◇◆


「防具から説明する」男は棚を手で示した。「うちで扱っているのは三種類だ」


まず男が手に取ったのは、一枚の分厚い胸当てだった。ずしりとした音がした。


重甲シュヴェーアリュストゥング」男は言った。「全身を鋼鉄の板で覆う。防護力は最高だ」


展示台の奥には、一式が飾られていた。鉄の手甲、重い革靴、面甲つきの透かし兜——そして皮帯と留め金が交差する中、冷たい光沢を放つ金属板の数々。一目見ただけで、移動要塞という印象を受けた。


あれを着られれば、魔獣の群れの中に立っていても、爪の一本も通らないかもしれない。


だがレオンは自分の体格を思い出した。錬金術師の腕だ。薬品の染みと細かい切り傷と、実験器具を握り続けた指の荒れ。あの重量を着たまま術式を展開するなど、論外だ。おそらく歩くだけで息が上がる。


「全身板甲、上質の鋼材を使って私が一枚一枚打ち上げた」男は胸当てを叩きながら言った。「防護力は見ればわかる。フルセットで買うなら、保養三回無料でつける」


「いくらですか」


金貨クローネ八枚。値引きなし」


レオンは即座に視線を外した。


論外が二重になった。


男は特に表情を変えず、次の棚へ移った。


中甲ミッテルリュストゥング」今度は鎖帷子を手に取った。細かい金属の環が幾重にも連なり、光を受けて鈍く輝いている。「重甲ほどではないが、防護力と機動性のバランスが取れている。冒険者の標準装備はだいたいこれだ」


男はさらに隣の環甲を示した。


「環甲は重甲の中で最も軽い部類に入る。上の鉄環が剣斧の斬撃をある程度弾く。これより防護力が高いのが鎖帷子で、その分値段も上がる」


「相場は」


「安いもので銀貨マルク六十枚。鎖帷子なら八十から百枚といったところだ」


六十枚から百枚。


レオンは頭の中で計算した。遠征の経費、セレーネの薬草代、予備の試薬——削れる余地はほとんどない。中甲も現実的ではない。


男は最後の棚へ移った。


軽甲ライヒトリュストゥング」革鎧を手に取った。明らかに軽い。「防護力は三種の中で一番低い。だが動きやすい。術師や斥候向けだ。値段は銀貨マルク二十五枚から四十五枚」


男はレオンをちらりと見た。


「お前、術師か」


「錬金術師です」


「なら軽甲が向いてる。重い防具は術式の精度を下げる」男はあっさりと言った。「重甲なんか着たら、術式を発動する前に腕が疲れる」


レオンは革鎧を手に取り、重心を確かめた。


悪くない。動きを妨げない。値段も許容範囲に近い。


だが少し考えてから、架台に戻した。


錬金術師の防護とは、鎧だけではない。障壁術式、回避術式、煙幕薬——それらを組み合わせれば、鎧がなくとも相当の防護になる。鎧に銀貨三十枚を使うより、試薬と素材に使った方が、結果として生存率は上がる。今回の遠征は戦闘任務ではない。優先順位が違う。


「防具は今回見送ります」


男は少し間を置いてから、頷いた。


「……まあ、それも一つの判断だ」


それだけ言って、男は武器の壁へ向かった。


「次は武器を見るか」


「はい」レオンはついていきながら言った。「それが本来の目的なので」


男はわずかに口の端を動かした。笑ったのかもしれない。よくわからなかった。


---





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