落ちるには低すぎて、登るには高すぎた9
*
ダンジョンアタックという競技は、ダンジョン資源の回収を競技化した物である。
よって、勝敗に関しても資源の回収が関係してくる。
ダンジョン内のモンスターを倒すと、モンスターは魔石に変化する。
世界中の科学者がこの魔石という名称に、大きな懸念と反対意見を表明したのだが、世間は分かりやすさを求めた、というか。
ダンジョンとモンスターという記号が悪かった。自然発生的に魔石と呼ばれて定着してしまった。だいたいは日本のアニメと漫画のせい、というのはダンジョン研究者が本気で口にした文句の一つだ。
だけどまあ、科学的に正しい名前もあるのだが、ナショナルジオグラフィックもディスカバリーチャンネルも魔石と呼んでいるので、科学者は諦めるしかないだろう。
そしてこの魔石。魔石とか呼ばれている癖に見た目はまったく石じゃない。
見た目の話をするなら、フワフワと空中に浮かぶ紫色の砂だ。
エキゾチック物質という物らしいのだが、正直良く分からん。なんか負の質量を持ってたり、反重力だったり、何か凄い触媒になるらしい。
ダンジョンアタック競技とは、極論この魔石を制限時間内で集められるだけ集める競技だ。
画面の中では、元影狼だった物が紫色の魔石に変わり、ドローンに回収されている。返り血塗れだった御堂の姿もあっという間に元通りだ。
さて、御堂達はこれからどうするんだ?
アタッカー四枚構成の殲滅力を活かして、モンスターの討伐を優先させるか?
まさかな。
ほぼ確信を持って予想できる。昨日が初対面なのに、御堂の考えが手に取るように分かる。少なくともそう勘違い出来る。
何故ならアイツは俺に良く似ている、戦い方がそっくりだ。
画面の中で手早く仲間に指示を飛ばす御堂を見て思う。
仲間を良く見ているし、知っているし、信じている。
戦い方には人生が出る。
良し悪しではなく、どうやって生き抜いてきたのか? が色濃く出る。
そうか、お前はそうやって生き抜いてきたんだな?
思わず声を出して指示を出したくなる。
画面の中で御堂が仲間に発破をかけている。勝つためのビジョンを共有し、それが自分達には実現可能であると。
そうだ、その通りだ。お前らには、それを実現させるだけの実力がある。
あの見事な小部屋エントリーを成功させたんだ、〝俺も〟お前らを信じられる。
だけど――。
俺は右手でヘッドセットのマイクを覆う。声が出てしまう自分に気がついたからだ。
「それじゃ負けるぞ御堂」
*
ダンジョンアタック競技は、プレイヤー対エネミー対プレイヤーだ。
この呼称の元ネタはゲームで、そっちではこう表記される。プレイヤー対プレイヤー対エネミーと。
ダンジョンアタックの方でプレイヤーの真ん中にエネミーが入っているのは、ダンジョン競技なる物を考え出した人達が、あくまでこの競技はモンスターを狩って資源を回収してもらうのが主ですよ、と考えたからだ。
現に最初期のルール案では、単純に二つのチームがモンスターの討伐数を競うだけのルールだった。正確には今もそのルールは存在する。
それに待ったをかけたのが、アメリカだ。あの国は今も昔もエンターテイメントを良く分かっている。
ルール制定に際して、エンタメ業界の人間を参加させたのもアメリカの意向だったらしい。というわけで、ダンジョンアタックのルールにプレイヤー対プレイヤーの要素が追加された。
流石、古代ローマの後継国家だ。パンとサーカスってのをよく分かってる。
コロッセオで武器振り回して殺し合いをエンタメにしてた頃から、俺達の本質は変わってないのを良く理解している。
アタッカー四枚構成の殲滅力。
それを遺憾無く発揮して、テトラコードの四人は目に付くモンスターを狩りながらダンジョンを凄まじい速度で踏破していく。
三部リーグでこれ程の速度でダンジョンを踏破出来るチームは見たことがない。まあ五年も離れていた人間なので、当てにはならないが。
ダンジョンアタック競技が、ダンジョンから資源を回収するのを目的とした競技、という最低ラインを守るために設定されたルール。
一定数以上のモンスターを討伐し。規定以上の魔石を回収した後に許可される選択肢、プレイヤー対プレイヤー。
戦術担当のモニターに規定討数に到達した事を知らせるポップが表示される。
昔からこのポップ表示が無駄に大きくて邪魔だと思っていたのだが、やっぱり邪魔で仕方がない。俺は反射的に左手を操作し、ポップを消す。
この規定数クリアの報せは戦術担当にしか知らされない。なので普通は戦術担当から攻略組に報告するんだが、俺はお飾りである。
どうすべきかと一瞬悩んだ所にヘッドセットから御堂の声が聞こえてくる。
「規定数クリア!」
一瞬、ルールが変わって選手にもお報せが入るようになったのかと思ったが、お飾りとは言え監督兼戦術担当になった時にルールは確認している。
そんなルール変更はなかった。
という事は――、俺は今日何度目かの驚きに身震いする。
数えていたのか! ここまで来ると流石にもう単純に驚く事しか出来ない。
攻略組が戦術を考えながら行動し、指揮を執り、更には採取した魔石の量まで確認していたのだ。とんでもない仕事量だ。
しかもモンスターから採取できる魔石の量は、モンスターの種類によって違う。
御堂椿という選手は、それを近接アタッカーとして戦い、指揮を執りながら数えた事になる。マルチロールにしても凄まじい。
「凄いな……本当に凄い」




