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飲んだくれ無職のオッサン、公園で美少女に拾われ、迷宮に帰る  作者: たけすぃ


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落ちるには低すぎて、登るには高すぎた8

 *


 ダンジョン入口は見る人によって違うらしい。

 御堂椿にとってダンジョンの入口は、病院の入口に見える。四ツ橋牡丹は確か家の門で、堺凛堂は公園の入口、谷町桔梗は風呂場の入口なのだそうだ。

 初めて聞いた時はお互いに笑いあったものだが、海外では訊くのはマナー違反らしい。


 海外の人の考える事は良く分からないなと、椿は思う。

 観測者によってダンジョンの入口の見え方が変わる理由は分かっていないらしいが、それが何に見えるかなんてどうでもいいと思うのだ。

 椿は転送マーカーが起動しているのを最後に確認してから、ダンジョンに突入した。


 何に見えていようと、自分が何を求めてダンジョンに入るのか、それは変わらない。

 転送マーカーによって、椿達テトラコードの四名はダンジョン内に二箇所存在するセーフゾーンの片方に転送された。

 ダンジョン内には既に運営のドローンが配置済みで、競技者の耳でも音を拾えないという脅威のメカニズムで浮かんでいる。


 椿は頭の中でダンジョンアタックが始まる流れを順に思い出していく。初めて競技者としてダンジョンアタックをした時からの癖だ。

 ダンジョンに潜った数はとうに百を超えているが、いつの間にかルーティーンになってしまっていて、自分でもやめられない。

 開始ブザーが鳴ったら、選手は十分以内に所定のセーフゾーンに行くこと。


 チームメンバーが全員揃っているのを確認した後、セーフゾーンに設置されているドローンに、武器防具がレギュレーションに合致している物である事をチェックさせる。

 その後に競技開始の合図を待つ、その間にセーフゾーンから出る事は許されない。

 囁くような声でルールを暗唱し終えると、自分の心が変わったような気がする。


 ダンジョンに生かされる自分から、ダンジョンに生きる自分へと。


「みんな、装備の最終チェック」


 いつもの確認。いつもの言葉。

 チームメンバーが頷き返してくる。大丈夫だ、今日も私たちは殺す側の目をしている。

 いつもと違う点はアイツが見ているという事だけだ。


 何もやる事は変わらない。

 落ち着け私。ダンジョンはモンスターにも競技者にも平等だ。

 つまりは全て殺せば勝ちだ。


 *


 競技性とは何だろうか? 俺が思うに答えは二つだ。

 公正である事、そして結果に対する運の要素の排除だ。

 この二つがしっかりしている程、競技性は高まる。ちなみに公平性は競技性を高める事にはあまり寄与しない。


 公平性は競技性というよりも、競技の種類を変える要素だ。ドライバーがチームごとに違う車でレースするF1と、ドライバーが全員同じ車でレースするF2との違いみたいなもんだ。

 そういう意味ではダンジョンアタックという競技はF1に近い。

 装備品の持つ、防御力と攻撃力がレギュレーション以内であれば自由だ。プロチームなんかは独自に装備品を開発していたりもする。


 ダンジョンアタックという競技は、装備品の不公平を許容している。

 その方が選手の個性と戦術の幅が広がるし、ダンジョンアタックはあくまでスポーツなので、興行性を否定しない。

 そういう意味では、テトラコードは実に華のある、興行性の高いチームだった。


 見た目もそうだが、その極端な役割構成は興行的と言っても良いだろう。

 テトラコードは開始の合図と同時に、セーフゾーンを飛び出した。

 ダンジョンに配置されたドローンが踏破判定を出すたびに、ディスプレイに表示されるマップが広がっていく。


 馬鹿みたいな速度だ。四人全員が固まって矢のようにダンジョンを踏破していく。

 アタッカー四枚構成で、戦術担当が不在で、選手の一人――、〝うち〟の場合は御堂椿がアタッカーと戦術担当のマルチロールをする場合。

 選べる戦術はかなり限られる事となる。


 当たり前の話だ。戦術担当からの指示が無いのなら、現場で指揮を執る人間の声が聞こえる位置にいなければならない。

 アタッカー四枚の時点で戦術が限られてくる上に、これは最早ハンデと言ってしまって良い。世間一般では色物チームとして見られるだろう。

 戦術担当を置かないチームをドル売りしようとしていた前監督は、正気は失っていたかもしれないが、チームの生き残りを真面目に考えていたのは間違いない。正気は失くしていたが。


 セオリーから大きく外れた速度でダンジョンを進むテトラコードが、当然ながら相手チームよりも先にモンスターにエンカウント。

 左手が反射的に動いてディスプレイの表示を変更。マイクで指示を飛ばしかけて自分がヘッドセットをしていないし、お飾りである事を思い出す。

 思わず舌打ちが出そうになるが、ディスプレイに映し出された光景を見て口を閉じる。


 狼のようなシルエット、動きが素早く、姿勢も低い為に、四部リーグではコイツを倒せて脱初心者とされるモンスター、影狼。

 影狼が小部屋(ポケット)から通路に出た所でエンカウント。

 映像の中で御堂が影狼に突っ込んでいく。後先考えてるのか? いや何も考えてないなこれ。


 相手に身構えるだけの時間を与えない全力の突進、御堂が影狼の下顎を蹴り上げる。

 流石、三部リーグの競技者だ。

 影狼の体が仰向けになるように浮く。


 御堂がその浮いた胴体に、魔法少女が持つには無骨で実用的過ぎるマジカル要素皆無の直剣を突き立てる。

 嘘だろ? 舌打ちを堪えた口が〝はあ?〟の形に開いてしまうのを自覚する。

 影狼の腹に剣を突き立てた御堂が、そのまま影狼を盾代わりにして、臆する事なく小部屋にエントリー。


 小部屋の中に他のモンスターがいたらどうするつもりだ? 危ないにも程がある。

 ドローンの瞬時の踏破判定。映し出される小部屋の映像には、影狼が四体。

 ほら言わんこっちゃない。そう呆れると同時にこう思う。


 そうやったのなら、次はこうだろ? 反射的にそう思ってしまうのは、俺がこの光景を何度も見ているからだ。

 ほら――〝やっぱり〟そうだ。

 先頭を潰された影狼四体が、小部屋の中でバラけて御堂を囲むように距離を取る。


 そのわずかな隙を使って、御堂が盾代わりに使った影狼の首を飛ばしてトドメを刺し。

 正面にいた影狼の一体に襲いかかる。

 そうだ、それをするなら、それは必須だ。他の三体のモンスターなんて気にしないクソ度胸。


 赤い髪が残像を引く程の速さ。全力で目の前の一体に集中する御堂。

 完璧だ。俺は御堂の行動に感嘆する。お前がやっている事を成功させるには、クソ度胸と、仲間への絶対の信頼が必要だ。

 御堂の背後から飛びかかろうとしていた影狼は氷の刃で串刺しとなり。


 一歩離れた場所で警戒していた影狼は青い影、堺凛堂の拳で頭を砕かれ。

 最後の一体は、御堂に時間差で飛びかろうと身を屈めた姿勢のまま動かないと思ったら唐突に首が地面に落ちた。

 《《セオリー通りの》》、近接アタッカーを囮に使った速攻殲滅のポケットエントリーだ。アタッカー四枚でチームを運用する場合の常套手段だ。


 〝俺も〟ライトニングワイバーン時代に良くやった。

 やる事は単純だが、これを成功させるには高い練度が必要だ。最初にエントリーするアタッカー、それにタイミングを合わせられるメンバー。

 御堂達は簡単にやってのけたが、成功させるには多くの技量が必要とされる。


 三部リーグのチームでこれを成功させるのか。

 俺は最後の影狼を危なげなく二枚に下ろした御堂を見て、自分の口角がどうしようもなく上がっていく事に気がついた。

 一瞬、御堂の目とモニター越しに合った気がする。モンスターの返り血で顔を赤くする彼女の顔が目に焼き付く。


 ふと彼女の顔に、一瞬だけ自慢げな笑みが浮かんだ気がした。


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