落ちるには低すぎて、登るには高すぎた6
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一般的な話をしよう。
ダンジョンアタック競技は大雑把に言うと、プレイヤー対エネミー対プレイヤーだ。
つまりダンジョンアタック競技者は、人間ともモンスターとも斬った張ったするのがお仕事だ。良いか? 斬った張ったするんだ。
「その……」
俺は自チームブース、団体客用の大きめのカラオケボックスぐらいの部屋で、適切な言葉を探す。たぶんだけど言葉のチョイスを間違えたら、人生が終わる予感がする。
「魔法少女のコスプレ?」
至極シンプルな「死ね」が同時に四つ返ってきた。
若い女の子から貰う「死ね」の四和音は、オッサンには過激に過ぎる。心臓発作おこしそう。
「前の監督がドル売りするんだって言って用意した装備なのよ」
御堂椿が手早く説明してくれる。
前監督が無理やりドル売り路線にしようと、彼女達が使っていた装備を売り払って勝手にこの魔法少女みたいな装備に変えたらしい。
何やってんだ前監督。幸いというか、元々の装備も前監督が自費で揃えた物らしく警察沙汰にはならなかったが。前々からドル売り路線に反対していた御堂がキレてクビにしたというわけだ。
太もも剥き出し、しかも実用性皆無のフリフリスカートという、ドル売り路線にしても酷い格好の御堂が「何か文句ある?」と視線だけで脅してくる。
ご丁寧に各々のイメージカラーに合わせているせいで、本当に魔法少女っぽい。
どう考えても戦う人間の装備じゃないなぁと思っていると、目の前に黒髪ご家族ヤバい少女、四ツ橋牡丹が入ってくる。
「なんて嫌らしい目! そんな目で椿ちゃんを見ないでください!」
いちいち演技臭い非難にイラッとくるよりも笑えてくる。いい大人なので笑ったりしないが。問題は他の三人が本気で嫌そうに顔をしかめる事だ。
「防御力が心配になっただけだよ!」
なのでつい言い訳めいた反論が出てしまう。
本当かしら! 男はみんなそう言うんでしょ! 知ってるんだから! と四ツ橋がクネクネと過剰演技で騒ぐ。ちょっと面白いのが腹立つ。
「防御力に関しては問題ないわ。ちゃんと三部リーグのレギュに合ってる」
流石に演技だと分かったのか、御堂が割り込むように言う。
前監督はマジで頭がおかしかったのだろうか?
レギュに合ってるとは、レギュレーションで許される上限値である事を指す。つまり前監督は自費でクソ高価なダンジョンアタック用の装備を、特注で作った事になる。
三部リーグ用の装備となると、アマチュア用でも結構な額になる。
俺の中で前監督が、ドル売り路線でチームスポンサーを見つけようとしていた堅実さんから、ただのドル売りに異常にこだわる変態野郎に評価が変わってきた。
だけどまあ、防具がまともなら勝負にはなるな、と考えて自分がお飾り監督兼戦術担当である事を思い出す。
きっとこの席に座っているのが悪いのだろう。
どうしても戦術担当をしていた頃を思い出してしまう。気がつけば操作デバイスの前に左手がある。いつもの場所、競技中は決して動かさなかった定位置に。
何をしているのか? 自嘲に近い感情を悟られぬように、そっと左手を定位置から引き剥がす。
視線を左手から前に向けると、赤い目と合う。
またか。お前の目は何なんだ? なんでそんなに熱がある。何か言いたい事があるならハッキリ言ってくれ。オッサンに若い女性の気持ちを察しろなんて、暗算で複素数平面の問題を解くより難しいんだぞ。
御堂と俺の奇妙な睨み合いは三秒程で終わる。きっと俺の察しの悪さに諦めたのだろう。
俺に背中を向けた御堂が、聞き取りづらい小さな声で言う。
「指揮は私が執るけど……その、試合は見てても良いから」
まあ暇だしな。そうだな、試合ぐらいは見ててやっても良いかもしれない。
俺は答える替わりに戦術担当ブースの電源を入れた。




