勝利と言うには苦く、敗北と言うには楽しみ過ぎた4
この状況で変わるような事があるのだろうか?
「その……もし、もしもダンジョンのルールが変わっていないのならば」
御堂が敵を目の前にして視線を外してドローンのカメラを見る。
「彼女を殺せばダンジョンの外に強制排除できるわ」
御堂の言ったその言葉に、俺は言葉を詰まらせてしまう。
いつバレたのだろうか? 俺がそれを考えた事に。
制限時間なんていう、どうなるか分からない不確かな物に頼らず。彼女を殺してダンジョンから強制排除させたい。
そう思った事にいつ気が付かれたのだろう?
声に感情が乗ったのか、もしくはいつかのように気が付かない内に呟いていたか。
モニターに映る御堂の赤い瞳が俺を見つめる。
「戦術担当、私は貴方が殺せといったものは必ず殺して見せるわ」
状況は全て揃っている。健全な最大戦力が四枚、相手は一人で二方向から囲んでいる状態。勝算は高い、御堂たちなら十回やって八回は必勝できる。
しかし、ルールは変わっているかもしれないのだ。
今必死に稼いでいる数分すらも、確かじゃない。
それに御堂たちを付き合わせる気は起きない。
「問題ない、俺の勝利条件はお前達の帰還だ」
俺の返事に御堂は小さく「そう」とだけ答えた。
理由は単純だ、突っ込んできた彩芽に対処するのに精一杯だったからだ。
速すぎて見えなかったぞ。
これ配信としては失敗も良い所だな、動きの殆どが見えない。
御堂がククリナイフによる斬撃を担当し、堺がバックラーを自由にさせない為に連打を浴びせる。
常人の視力では、行動の結果が飛び散る火花でしか確認できない。三部リーグの昇格決定戦で流れる映像ではない。
俺は魔法で援護しようとする四ツ橋と谷町に待ったをかけつつ、タイミングを考える。
この状況で万が一にでも魔法を弾かれされたら、その時点で詰みかねない。
制限時間までは後一分と数秒。
気が遠くなる程に遠い!
「戦術担当!」
二人がかりで押し留める事しか出来ない彩芽の猛攻に御堂が叫ぶ。聞いた事のない焦った声。
「ダンジョンの地面がフワフワしてるような気がするわ!」
瞬間口走る。
「四ツ橋! 谷町! ビープに合わせて彩芽に向けて同じ魔法。二回鳴らす、順番は四ツ橋、谷町の順で撃て。ただしタイミングは0.1で合わせろ!」
何かを言っているジャッジの声が邪魔で、ミュートさせる。
「御堂、俺の合図で隙を作れ! 堺は二回目のビープを合図に御堂を抱えて四ツ橋たちの方向に向かって撤退!」
早口で指示を出す。
「本当に良いのね? 今なら刺し違えられるわよ?」
「知らん! 俺は負けず嫌いなんだ! 逃げるぞ御堂、今だ!」
ダンジョンに一度も潜った事のない俺の目は、極めて一般的で。昔はそれを良くからかわれた。戦術担当であってもダンジョンアタックのプレイヤーとしての経験が必要だ。
普通の目では正しく戦況の判断なんてつくわけがないと。
だが、そんな馬鹿にされるような俺の目でも、御堂のその一撃はなぜか良く見えた。
ドーターズエッジのグリップの底でククリナイフの横っ腹を小突いて軌道を変えさせ。
出来た一瞬の隙を使って大きく上段に構えた御堂。
堺が迎撃に動こうとするバックラーを雄叫びを上げながら連打で封じる。
ほんの半身だけ体勢を崩した彩芽が、外に流れたククリナイフで崩れた体勢を活かして掬い上げるような水平軌道の切り返しを放つ。狙いは御堂の胴体だ。
俺の脳裏に先程の御堂の言葉が蘇る、今なら刺し違えられるわよ。
御堂の声が聞こえた気がした。
「ごめんなさい、私はダンジョンでは死ねないの。負けず嫌いだから」
振り下ろされた御堂の直剣が、ククリナイフを地面に叩き押した。
ビープ音二回。
今度は彩芽の真横、ついでに言えば御堂の真横で水蒸気爆発が起こる。
ブビャ、という悲鳴の幻聴を聞いた気がした。
立ち込める蒸気の雲を抜けて、肩に御堂を担いだ堺が四ツ橋たちに合流する。
「全力で逃げるぞ! 道を間違えるなよ!」
どれほど遠くに離れれば良いのか、それすらも分からないので、ひたすら遠くにいけるようなルートを構築する。
「本当によかったの?」
遠ざかる大部屋を肩に担がれて眺める御堂がポツリと呟く。
「良いんだよ、生きてるって分かっただけで勝ったようなもんだ」
逃げろ逃げろと、真剣味の薄い声を上げながら逃げる四ツ橋たちに、お前らはもう少し真面目に生きてくれと思う。
「そうね、生きていればまた会えるわ。陳腐な言い方だけど、生きる事は戦いだもの。ダンジョンで殺し合いしてればきっとまた会えるわ」
相変わらず十七歳の少女とは思えない物騒な思想だ。
だけどまあ、その通りだろう。
俺もなぜか不思議な程に確信がある、ダンジョンアタックを続けていれば、再び彼女と再会できるだろうと。
「それはそうと戦術担当」
御堂が不満げな顔をして、次々に切り替わるドローンのカメラを睨む。
「次からは私の至近で水蒸気爆発を起こすのは無しにして」
炎を押し固めたような瞳がモニター越しに俺を見つめる。
「死ぬかと思ったわ」




