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飲んだくれ無職のオッサン、公園で美少女に拾われ、迷宮に帰る  作者: たけすぃ


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落ちるには低すぎて、登るには高すぎた4

 *


 俺って真面目だなぁ。

 自宅に帰った俺は椅子に座り、パソコンの電源を立ち上げながらそう思う。

 ネットを開けばダンジョンアタックの情報が否応なく目に付くし、ゲームに時間を浪費させようにもダンジョンアタックを題材にしたゲームが目に付く。


 あらゆる動画サイトでもダンジョンアタックのネタはひょっこり顔を出してくる。

 必然としてパソコンを立ち上げる機会は減る。

 というわけで俺は数ヶ月分のOSアップデートが終わるのを待つ。


 その間に俺は、なまりになまっているだろう自分の頭を準備運動させる。

 ダンジョン、という不可思議な存在が地球に現れるようになって、今年で四十年。ダンジョンアタックという競技が出来てからは三十年だ。

 世界は激変したと言って良い。というより文字通り激変した。


 まるでゲームか漫画で出てくるようなダンジョンが現実に出現し、さらにはダンジョンの中にはモンスターまでいるのだ。これで変わらないなら何で変わるというのか。

 まだ俺が産まれる前の話だが、当時の人達は大変だったろうと思う。常識が壊れるというのは大きな衝撃を受ける。例えば安全と言われていたダンジョンで恋人を亡くすとかね。

 しかし本当に大変だったのは、この後だ。


 ダンジョンが現れました、だったら次は? そう中に入るだ。

 それによって分かった事、ダンジョンの中から外に物を持ち帰られる、だ。

 今となっては当たり前の話だが、当時としてはそんな事ですら未知だったのだ。


 ダンジョンに初めて生身で入った人間の回顧録は、後に大ベストセラーになっている。

 入って出てこれるかも分からない存在だったんだ。

 とにかくダンジョンから物を持ち帰られる事が分かった。それはダンジョンが新たな資源となるという事だった。


 そしてダンジョンは未知の物質の宝庫だった。

 今では誰のスマホにも入っている、高エネルギー密度の固体電池も、電力事情を一変させた変換効率60%超えの太陽光発電パネルも、ダンジョンから手に入る素材が必須だ。

 ダンジョンは宝の山だった。


 当然ながら世界各国は思った、我が国にもダンジョンが欲しいと。大規模な調査が各国で盛んに行われた。

 そしてすぐに分かった、ダンジョンは偏って出現したと。日本のように幾つもダンジョンがある国がある一方で、国内に一つもダンジョンが現れなかった国もあった。

 アップデートが終わったパソコンが再起動を求めてきたので、指示に従う。


 そしてこの偏り方がちょっと良くなかった

 なにか意図があるんじゃないのか? そう疑いたくなるかのような偏り方だったのだ。

 具体的にはロシアや中国等の、古い呼び方では東側諸国には見事なまでにダンジョンが発生しなかったのだ。


 国土の大きさから言えば不思議な事で、逆に日本は国土面積から考えると異常なほどにダンジョンが集中している。なんと世界で最多だ。

 おかげで揉めに揉めた。

 ダンジョンを保有している国からすると、勝手に自国に出来たのでそれを他国にとやかく言われる謂れはない、という事なんだが。欧州や中央アジアがきな臭くなってきた所でそうも言っていられなくなった。


 今にも戦争だ、という空気の中で、各国が雁首揃えて、どうにか捻り出した答えがダンジョンアタックというスポーツだ。

 要はダンジョン攻略をスポーツ化し、採掘を競おうってわけだ。

 ざっくり説明してしまえば、ダンジョン自体はその国の領土ではあるが、そこから手に入れた物資をどこに売るかはダンジョンアタックチームが選べる、という制度だ。


 ダンジョンが出現するようになって十年、十分な先行者利益も確保できたし、というのも大きな理由だ。

 ダンジョンの平和利用、と言ってしまえば人類もなかなか上手いことやったな、と思うが。実際は未だに火種は燻っているあたり、単に問題の先送りをしただけかもしれない。

 パソコンの再起動後に更に新たなアップデートが走って、更に再起動を求められる、というのを二セット繰り返してやっとでブラウザが立ち上がる。


 頭の準備体操がてら、ダンジョン概論を復習しながら俺は検索する。

 とりあえず自分が所属する事になったチームを調べる為に、日本迷宮競技機構のサイトを開く。

 テトラコードの情報はすぐに見つかった。


「凄いな」


 検索結果を眺めながら思わず声に出してしまう。

 選手が自チームの監督を勝手にクビに出来る事から、下位リーグに所属しているのだろうと思っていたが。下位は下位でも三部リーグ所属だった。

 学生のクラブ活動や大学生のサークル活動まで含んでいる四部リーグと三部リーグでは、選手の本気度が全く違ってくる。


 一部リーグがプロ、二部リーグがセミプロだとしたら、三部リーグは明確にプロの卵だ。

 彼女たちは何歳なんだろう? かなり若く見えたが、何にしろあの容姿であの若さだ。その上三部リーグに所属できる実力もある。クビになった監督の気持ちが良く分かる。

 アイドル売りして、さっさとスポンサーを捕まえて体制を整えて二部リーグに、というのは戦略としては真っ当だ。三部リーグで許されるダンジョン深度は2までだ。


 シーズン順位によっては一部リーグと同じ深度で戦える二部リーグとは実入りも、選手の成長速度も比べ物にならない。

 一応は監督になったのだから、選手の情報も把握しておくかと、チーム概要から登録選手のページに飛ぶ。

 目に入った文字に思わず苦笑が漏れる。人を拉致当然に連れて行くような奴だが仕事は速いな。さっそく監督、戦術担当の欄に自分の名前を見つけて感心する。


 戦術担当、砂崎すなざきとおる。ほんの数年前には当然のように見ていた文字列。平静に見れている自分に安堵する。

 ドラマみたいに激昂してディスプレイにパンチでもするんじゃないかと、ちょっと恐れてた。オッサンなので怪我するだけだ。

 唯一残念なのは、前の監督の名前を確認できなかった事だ。


 まあいい、さっさと選手達のデータを確認……確認しなければ……。

 俺はすぐ下に続く、彼女たちのデータを眺めて言葉を亡くした。

 出来れば頭を抱えたいぐらいだが、どうにか眉間にシワを寄せるだけで我慢する。


 何度データを読み直してみても、内容は変わらず、それが現実だと教えてくれる。こういう時に真っ当な大人ならどうするべきなんだろうか?

 できれば前監督に会ってアドバイスを貰いたい。彼女たちをドル売りしようとしていた前監督は実に真っ当な監督だと思う。


「とんでもねぇチームじゃねぇか」


 自分に求められている役目が、お飾りの監督兼戦術担当だとは理解している。

 しかしこれはちょっと俺の正気を疑われても仕方がないレベルだ。

 急に監督を辞めたくなった手が酒の入ったスキットを探すが、掴んだのはまたもやスマホだった。


 メッセンジャーアプリの通知が連続して鳴る。

 〈試合決まったから〉

 〈明日午前十時にマンションに集合〉

 しばしスマホの画面を見つめた俺は、〈逃げたら捕まえに行くから〉というメッセージを見て諦めた。

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