過去は追いかけるには遠すぎて、未来は追いかけるには速すぎる7
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マナトーカーの監督、三国連は勝ったと思った。
全てが自分の予想どおり、そして望みうる最高の結果を得られたからだ。
マップ南南西の位置からスタートし、相手が南進もしくは北進する事に賭け東西に走らせた。
相手の位置と速度によってはリスクが跳ね上がる選択だったが、勝つ為には必要な事だった。自分があの天才に勝つには、リスクを取らなければならない。
仮に名付けた第二班に無理をさせて強硬させたマップ埋め、そのラインにテトラコード四人全員が引っかかった時。
三国は本当に勝てると思った。
少なくとも、自分の勝ち筋は十分に機能している、そう確信が持てた。
慎重というより、京選手の実力的に第二班よりも遅いペースで進むしかなかった第一班を、相手が踏破した場所に確実に引っかかるよう北側へ寄せながら東へと進ませた。
第二班のラインを超えた時の事を考えると、おそらく相手は扇状に広がっている。三国はマップに仮想のテトラコードの進行ラインを引くと、少し余裕を持たせてから第一班を北上させる。
第一班を北上させるには未踏破部分を踏破させなければならないが、問題ない。
第二班の奇襲には間に合わなくても、問題ないからだ。まずは相手の一枚を落として数的な有利を取る。
これが三国の立てた勝ち筋だった。
さて、砂崎徹はこちらの読み通りに動いてくれるだろうか?
四人クロールに対しての鉄板のメタ、二分割クロールによる各個撃破戦法。
これに対抗するにはセオリー通りなら、四人バラバラに動いているチームを一か所にまとめる事だ。
自分たちが引いたラインとテトラコードの引いたラインが交差する箇所、そこに隣接する小部屋に第二班を潜伏させながら三国は願う。
お願いだからリスクを取らないでくれと。セオリー通り、確実に合流できるよう踏破済みマップを利用して合流しようとしてくれと。
これは勝算の高い賭けのはずだ。アタッカー四枚構成で、こちらがメタを張っている事を知っていて、第二班がどこにいるのかも分からない状態で、未踏破部分での合流を目指すのは、アタッカー四枚構成ではリスクが高すぎる。
まだか? まだテトラコードの選手は戻ってこないのか?
あの砂崎徹率いるチームに、先制攻撃を加えられるかもしれない。
そして勝つのだ、自分は、マナトーカーは。
睨みつけるように凝視していたマップに、待ちに待った表示がでた瞬間に、三国は思わず叫ぶように命令を飛ばした。
「攻撃開始! 勝てるぞ!」
御堂椿はダンジョンを全力で走った。
砂崎が全力で走れと言ったからだ。
左腕のウェアラブルデバイスを確認する。あと二つ小部屋を抜ければ、砂崎が予想した襲撃の可能性がある部屋に入る。
砂崎が予想した襲撃場所は二か所だったが、御堂の勘では手前の部屋だろうと思っていた。理由はない。
同じく砂崎も、理由はないが手前の中部屋が怪しいと思っている、と言っていたので。御堂の中ではそこで奇襲があるというのは、確信に近かった。
これまでの四戦、砂崎の指揮は神憑っていた。
相手の動きから意図を読み取り、未踏破のマップから敵を炙り出し。
その瞬間における、優先目標を瞬時に見抜き。
時には悪辣なまでに冷徹で、たやすく殺せる相手を生かして相手の行動を制限させる。
かと思えば、秒単位の精度での同時攻撃を求めてきたりする。
そしてそれらは全て正しかった。
こちらのマップを何度か踏んで、すぐに未踏破方向に消えた敵の居場所を探り出したし。
通路の問題で遊兵になっていた、何もしていないはずの近接アタッカーを倒せば相手チームは一瞬で瓦解したし。
確実に殺せる位置にいたヒーラーを見逃せば、そのせいで相手の行動が読みやすい単純なものになった。
そして必ず殺せるというタイミングで攻撃を開始すれば、一瞬で相手を全滅させられた。
なのでつまり。
御堂椿にとって、次の大部屋で敵から奇襲を受ける事は確定事項だった。
「リマインド、次。大部屋、警戒」
返事を期待していないであろう、簡潔な指示。
それに了解と返事を返そうとして、御堂は絶句した。
何? いえ、誰?
通路から見える大部屋の真ん中に、人がいた。
つい先ほどまで、間違いなく誰もいなかったその場所に、赤い髪の人影が立っていた。
「は? え? 戦術担当、何が」
御堂は勢いを殺せずに困惑したまま、大部屋にエントリー。
自分はこれから敵に奇襲されて、仲間が来るまで生き延びるか、相手を殺せば良いだけたったはずなのに。急に考える事を増やさないでほしい。
反射で抜いた剣を構えた御堂は再び絶句した。
灰色の都市迷彩がほどこされたツナギにタクティカルベストっぽい防具。
名前の割にはまったくもって稲妻のように光り輝いていない地味な見た目。五年前の《《ライトニングワイバーン》》の装備。
赤い髪の女性。
御堂はその顔を知っていた。
「日比谷 彩芽」
自分の声が砂崎の呟きと被った瞬間だった。
御堂は目の前が真っ白になった。




