過去は追いかけるには遠すぎて、未来は追いかけるには速すぎる6
何事にも勝ち筋という物がある。そして勝ち筋があるなら当然負け筋も存在する。
あの腹黒イケメン眼鏡野郎め、決め打ちで対抗策を打ってきやがったな。
俺はこっちの踏破済みマップを踏んだ相手チームを見て歯噛みする。
近接アタッカーの縦ロールお嬢様とヤンキータンクの二人組だ。
ドローンからの映像を確認しながら、御堂たちに最短で合流できるルートを指示する。未踏破部分で合流できる可能性もあるが、今は確実性の方が重要だ。
ドローンからの映像では、やはり相手チームは二人しか確認できない。つまり相手はチームを二手に分けている。
これは四人バラバラに動かしているこちらと作戦が似ているようだが、ちょっと運用が違う。
実は今ではネタ扱いされるアタッカー四枚構成でのクロール作戦は、以前はメジャーな作戦だった。というより猛威を振るったレベルで流行った事がある。
ダンジョンアタックが競技化してすぐの頃だ。
一時はダンジョンで発生するプレイヤー対プレイヤーの殆どが一対一の戦闘になるぐらいに流行った。それぐらいにどこのチームもアタッカー四枚構成で単独クロールさせながら魔石を集めるという作戦が流行った。
その時代を終わらせたのが、チームを二分割してのクロールだ。
ダンジョンアタックはゲームじゃないと、現実の戦いなのだと、蔑ろにされていたヒーラー等のロールが見直された契機でもある。
当たり前の話をしよう。
人間は一人で戦うよりも、複数で戦う方が楽だ。
モンスター相手でもプレイヤー相手でも。
チームを二分割してのクロールは、単独で動いているチームを狩る為の運用だ。
しかも、肝心の魔石の獲得スピードも、さほど変わらないと来ている。
四人バラバラで動かしているこちらは、確かに瞬間速度では魔石の獲得量は増えるだろうが、タイムスケールをちょっと伸ばせば休息の時間がどうしても増える事となる。
結果として攻撃権を得る速度としては、あまり変わらないのだ。
こちらが喉から手が出るほどに欲しい先制攻撃権、これがどちらに転ぶか分からなくなる。これは良い。別に問題ない。許容できる。
問題はこちらが広く分散してしまっている点だ。
単純な話だ、至極単純な話だ。
二対一でどちらが有利か? そういう話なのだこれは。
見えない相手のもう一組が、クソほど恐ろしい。
俺は数瞬、マップを見て考える、想像する。
マナトーカーのもう一組は、まだどこにいるのか分からない。
相手がこちらの踏破領域を踏んだ事が分からないように、こちらもそれは分からない。
見えないもう一組は、ヒーラーと遠距離アタッカーの組み合わせ。
踏破速度は短時間なら確実にこちらより速い。
考えろ想像しろ、ダンジョンは全ての答えをくれないが、ヒントはいつもくれる。そういう存在だ。忘れるな見落とすな。
相手の進行方向、速度を想像しろ。
実は俺達は既に前方を相手に踏破されており、そこを踏んでしまっていたら?
練習試合じゃないから、今回はスタート地点がランダムだ。そのおかげで相手の移動速度が予想しずらい。
マップ中央南側からスタートした俺達の、ほぼスタート地点に近い場所にマナトーカーの一組が現れたのでマップの反対、北側がスタート地点だとは考えずらい。
それはさすがに踏破速度が高すぎる。
西側から現れたので、考えられるのは俺たちの西側方面。問題はどれだけ離れていたか? だ。最悪を考えろ。
もう一組がすでに俺達の東側に抜けていたとしたら? 俺ならどうする?
相手チームが確実に踏破していないだろう場所で待ち構える。これだ。
「御堂、遠距離アタッカーとヒーラーの二人組がお前を奇襲するかもしれない」
「了解、西? 東?」
「東側から、進行方向左手だ」
最も東側を進む御堂に警戒を飛ばす。互いに攻撃権を得ていない状態で、もう一組が立ち止まる事はない。
こちらを狩るには、攻撃権を持っていないと駄目だからだ。
なので、木の幹のような形でダンジョンを踏破する御堂たちの間に、敵が潜んでいる可能性は極めて低い。
潜むのなら東側。北上するテトラコードと東進したマナトーカーの踏破ラインが交差した所だ。しかし現状ではそれがどこか分からない。
南に現れたお嬢様ペアはどう動く? 北上するのならこちらを挟み撃ちにしようとしている可能性が高い。逆に東に進むようならまだ俺達を見つけていない……いや待て。
「御堂ストップだ」
一瞬迷うように立ち止まるお嬢様ペアを見て、俺はどこでこちらが相手の踏破個所を踏んだか分かった。一度倒したモンスターはすぐに再配置しない。御堂たちが通った小部屋が同じラインでモンスターが居なかった事を思い出す。
ダンジョンの経路で多少のズレはあるが、おそらくこのライン。俺はマップに線を引く。
仮定だらけだが同じ東西のライン上でモンスターのいない小部屋が都合よく並んでいる不自然さに賭ける。
「堺、四ツ橋、谷町、今から指定する小部屋から東に進め、たぶんルートがある」
マップにマーキング。
「ただし俺が合図するまで部屋に入るな」
「八目さん、まだ攻撃権を手に入れてませんけど?」
四ツ橋からの当然の疑問。
「待機している場所でモンスターが湧いたら狩っていい。それで規定量を満たせたらラッキーだけど。今回は相手に先手を取らせる。というか合流の為に戻した俺達より相手の方が確実に速い」
嗚呼、なるほど。
ヘッドセットに御堂の冷静な声が流れる。やっぱり御堂は良い選手だ。
一瞬で役割を理解した上でこの声はそうそうに出ない。
「私を囮にするのね?」
俺の予想通り、東に進んでいくマナトーカーのお嬢様ペア。
一番西側の踏破個所を踏んでから、御堂が踏んだ最東の踏破個所を踏むまでの速度が速い。俺達の奇襲をまったく警戒していない動きだ。
あの腹黒イケメン眼鏡野郎は、こっちがどこに“居ないのか”を確信している。
東に進んだのはこちらを騙す為のブラフだ。
「できるか御堂?」
相手の遠距離アタッカーは典型的な魔法使いだ。紙装甲しかいないテトラコードの中で、多少はマシな防御力を持つ御堂だが。
魔法相手には殆ど意味をなさない。
谷町が堺の位置にいたのなら、不確実性を飲んで未踏破部分での合流を選んだが、今更それを悔やんでも仕方がない。
三部リーグで、四枚アタッカー構成に対して、カウンターではなく狩り出しにかかってくるチームがあると予想しなかった俺の落ち度だ。
チームの二分割運用は、四分割運用とはまた違った難しさがあるのだ。
つまりはあの腹黒イケメン眼鏡野郎は良いチームを作っているという事だ。
舐めんな、こっちの方が良いチームだぞこの野郎。
モニターをわざわざ確認しなくても分かった。
きっと御堂はあの炎を押し固めたような目で、こっちを見ている。
「貴方のプランでは、私は何人までなら倒して良いのかしら?」
あーたまらん。
俺はマップから一瞬だけ視線を外して思う。
聞いたか腹黒イケメン眼鏡野郎。これがうちの御堂だ。




