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飲んだくれ無職のオッサン、公園で美少女に拾われ、迷宮に帰る  作者: たけすぃ


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過去は追いかけるには遠すぎて、未来は追いかけるには速すぎる5

 *


 ダンジョンに転送される御堂たちの姿を、戦術担当ブースのモニターで確認する。

 思い出すのは試合開始前の挨拶だ。


 あの野郎、あの腹黒イケメン眼鏡め。気弱そうな顔をしているくせに、試合前になるとゴリゴリの勝負師の顔じゃねーか。

 昇格リーグの時に緊張してるように見えたのは、腹痛か何かだったのか?


 マナトーカーは昇格リーグで一番苦労した相手だったので、もとより油断する気持ちはないが、それとは別に“勝ちたい”という気分になる。


 直感だけど俺と同じプレイヤーを信じぬくタイプの戦術担当だと思う。


「負けたくないな」


「当然でしょ?」


 思わず口をついて出た呟きを御堂に拾われる。


「私は初めてダンジョンに入った時から、一度として“負けたくない”と思わなかった日はないわ」


「御堂らしいな」


 何となくだか本当にそう思う。

 不意に小学生ぐらいの御堂がダンジョンに挑むイメージが脳裏に湧く。法律的に小学生はダンジョンに入れないはずなのに、妙に似合っているのが面白い。


「ええ、そうよ。私にとってダンジョンに潜るって事は生きるって事だったから、その……」


 言葉を探すように宙を見て、ドローンのカメラに気が付いて下を見る。

 なんだ? 珍しい御堂の反応に首を傾げてしまう。


「だからその、ありがとう」


 なんの感謝なんだろう? 傾げた首がさらに急角度になる。


「じゃあ! 準備があるから!」


 なんのありがとうなのか? と訊く前に御堂がいつものルーティーンに入る。


「老化ですね」


「どんだけ頭打ったんだ?」


「吊るす? 吊るす?」


 なぜか他のメンバーから直球でディスられる。

 あと吊るす? は物騒だからね? やめなさいね?


 好き勝手俺をディスるだけディスった四ツ橋達は、いつものように御堂を中心に集まる。

 お飾りから本当の監督権戦術担当として働きだしたが、こういう時に強く感じる。


 このチームは御堂のチームだと。きっと高校生の俺がそうだったように、彼女が一人ずつメンバーを集めたのだろう。

 御堂たちの姿につい懐かしさを感じてしまう。


 まあこういう所がオッサンなのだろう。自分の未来よりも、若者の姿に見つけた自分の過去に視線が向くようになったら、立派なオッサンだ。

 あまつさへその未来が、自分がたどった未来よりも幸多ければと願うようになったらもう末期だ。何歳だろうと諦めた方が良い。


 アラサーとか便利な言葉で自分がオッサンであるという事から目を背けてはいけない。

 俺はルーティーンの終わった御堂たちに、今日の作戦を伝える為に声をかけた。



 今日の作戦などと見栄を張ったが、現状では作戦は二種類しかない。

 アルデバランとの練習試合、その初戦でやった四人固まっての速攻からの速攻と、四人をバラバラに動かしての速攻クロールからの奇襲、この二種類しかない。


 理由は単純で、時間がなかったから。

 本来ならモンスターをひたすら倒して、プレイヤーとの戦闘を徹底的に避ける、速攻逃げ切りとかもやりたいのだが、俺が御堂たちの能力を把握しきれていないので出来ない。


 速攻逃げ切りはシンプルに強い作戦だが、何も考えずにやると体力が尽きた所をモンスターかプレイヤーに襲われて終了しかねない。

 選手が一人死ねば、採集した魔石の12.5%が相手チームの物となる。全滅すれば問答無用で半分が相手の物だ。どれだけ先行して稼いでいても負ける。


 アタッカー四枚構成での先行逃げ切りは、リソース管理がクソシビアなので戦術担当のチーム理解力が低いうちにやれば、間違いなく失敗する。

 というわけで、俺は昇格リーグで多用した、プレイヤー単独による速攻クロールを今回も選ぶ。スタンダードな構成だと、戦闘力の低いヒーラーがいるので使用できないが、こちらはアタッカー四枚構成である。


 注意すべきは遠距離アタッカーの二人だが、その面倒はこっちが見れば良い。

 深度2のダンジョンであるなら、事故死の確立は戦術担当で頑張れば限りなくゼロに近づけられる。


「御堂、小部屋(ポケット)から撤退」


 入った小部屋に遠距離攻撃をしてくるモンスター二体を確認したので、御堂を撤退させ別ルートをマップで指示。


「堺はそいつを倒したら十秒警戒しながら息を入れろ」


 放っておけば足を止めない境に休憩を支持し。


「四ツ橋、そいつらは引っ張れるから通路で一網打尽にしろ」


 性格なのか、モンスターを一体ずつ確実に殺したがる四ツ橋の魔法の連発を控えさせる。


「あーそれと谷町? 杖は棍棒じゃないからね?」


 なぜか杖で華麗な近接戦闘をする谷町に、お前は遠距離アタッカーである事を思い出してもらう。

 うーん、忙しい。


 脳も目も忙しい。四ツ橋には八目さん等と呼ばれているが、正直なところ十六個ぐらい目が欲しい。

 モニター画面を見て、真面目にそう思う。


 現在俺が使用しているモニターには主に8個の映像とマップ、それに合わせて任意の踏破個所の映像が映されている。

 主に見るのはプレイヤーの防具、その首元にはボディカムから送られてくる映像だが、それだけで四人分。それに合わせてプレイヤーがいる場所のドローン映像、これは設定で自動追尾できるので操作しなくて良いの本当に助かる。


 それら八個の映像とマップを同時に見ながら指揮をする。

 コツは想像力を働かせる事だ。


 全部の情報を映像から得ようとすると時間がかかる。

 俺はガチャガチャと左手の操作デバイスを操作し、時折くる御堂たち側からの支持要請にビープ音やら声で返事を返しながら、できるだけ効率的なマップ埋め(クロール)ができるようにマップにルート指示をピン刺しする。


 アタッカー四枚構成で戦うのなら、マップ埋めはモンスターを狩る以上に重要だ。

 三部リーグで潜るダンジョンは深度2までなので、必ずゲームでおなじみの《《いかにもな》》ダンジョンになるので特に重要だ。


 つまり石で出来た迷路だ。それは他のプレイヤーから逃げやすい事を意味する。

 ヒーラー不在のアタッカー四枚構成は後半になればなるほど苦しくなる。


 相手を見つけられず、疲弊したヒットポイントで戦う事はできるだけ避けたい事態なのだ。

 そしてここに戦術担当がはまる罠がある。


「御堂と谷町はいったんそこで休憩だ」


 ヒットポイントはダンジョンが人間に与えている数値にすぎない。


「被弾ゼロでまだいけるけど?」


「まだ舞える」


「却下だ、息が上がってからだと意味がない」


 当たり前の話だが、プレイヤーは人間なんだから疲れるのだ。

 ダンジョンに潜る事で人間以上の身体能力を持っていようと、それは変わらない。


 ヒットポイントだの、防御力だの攻撃力だの、数字ばかり見ているとつい忘れてしまう事がある、これはあくまで現実なのだという当たり前の事を。


「魔石の量は十分だ。たとえ相手が同じように四人別々に動かしていても、俺たちの方が確実に先手を取れる」


 だから落ち着いていこう、そう言おうとした俺はマップに表示された相手チームを見て悪態をつきそうになった。あの腹黒イケメン野郎、やってくれる。


「作戦変更だ。相手はこっちを“狩る”つもりだ」

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